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唯一無二のRRスポーツ ポルシェ911ヒストリー Vol.5

「水冷化」されたフラット6によって近代化された911は、やはり唯一無二のRRスポーツなのであった!〈996・997型〉

2022.07.17

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「水冷化」されたフラット6によって近代化された911は、やはり唯一無二のRRスポーツなのであった!〈996・997型〉

「ポルシェ」と聞いて気持ちが高ぶらないオトコがいるでしょうか!? しかも「911」が追加されれば、リッチなオジサンの脳内には、ドーパミンやエンドルフィンがだだ漏れするのは間違いありません。そこで短期連載企画として、時代を超えてクルマ好きなオトコを魅了してきた911について、改めて紹介したいと思います。
短期連載の5回目は911が進化しようとしている過渡期のモデルと、過渡期から完成へと向かうモデルをJ PRIMEの目線から解説します。

水冷化よりもフロントライトの形で不評を買ったしまった!?

1993年にデビューした993型の時点で、すでにエンジンの水冷化が囁かれていました。「911=空冷フラット6」という定義を人生の生き甲斐にしている911ファンの心を脅かす出来事が、ついに1997年に実現してしまいます。そう! 水冷フラット6DOHCエンジンを搭載した996型の登場です。

ポルシェ短期連載
デビュー直後の酷評を挽回しようと、996後期型はハードな走りに振りました。その象徴がGT3なんですが(写真は2003年のGT3 RS)、高速道路を走るだけで跳ねてしまう硬い足回りと、ガソリンスタンドに入るだけでもチンスポを擦ってしまう車高の低さが、「いくらなんでもやり過ぎだろ!?」と不評を買いました。それと、自動でスライドするルーフと大きなガラスハッチを装備したタルガも、往年の911タルガ・ファンからは厳しい意見もありました。

996カレラを見た(または乗った)世界中のメディアやファンから、さまざまな反響がありました。素直に「いいね」と気に入った人もいましたが、「こんなの911じゃない」と拒絶反応を示す人も少なくありませんでした。低評価を下した人の中には「ボディがへなへな」「足回りがヨレヨレ」と、具体的にコメントする人もいたくらいです。

そんな996の評価を知った戸賀編集長は、「いやいやいや、『996の走りがダメダメ!』とコメントした人は、全然わかっちゃいませんね。だって、996は0-100km/加速や最高速、そしてニュルブルクリンクのラップタイムを含むすべての数値で993を凌駕していたんですよ。996は過渡期のクルマゆえに、新しいモノ・コトをなかなか受け入れられない人(=アンチ)が増えるのは当然のことかもしれません。でもね、そういう人のほとんどは性能云々ではなく、パッと見、ボクスターと共通のフロントライトのせいで低評価を下したんだと思います。だって、あのライトだけで今までの911とはかけ離れた印象になってしまいましたから。ポルシェとしてはフロントライトとフォグランプを一体化したかったから、あのようなカタチになったんだと思います。良く言えばミニマムデザイン、悪く言えばコストカット?ですかね。正直なところ、911が大好きな僕でさえあのフロントライトだけは納得できませんでした(苦笑)」と語ります。

993から正常進化した996は、2年目にデビューするカレラ4と3年目にデビューするGT3でほぼ完成! 全車ボディ剛性もサスペンションも良くなり、2001年デビューのカレラ4Sに至っては世界中の911ファンが納得する走りを実現しました。とりわけ足を締めてLSDを入れたスポーツシャシーは、往年の911そのままに“我を忘れて走れる”RRスポーツの真骨頂! 「2002年のマイナーチェンジで、996型は完璧なスポーツカーになったと言えるでしょう。後期型でフロントライトの形がシャープになったこともあり、僕は後期型のカレラを買いました。数年ぶりのスポーツカー=ポルシェライフですね」と、当時を振り返る戸賀編集長。進化→完成した996の走りには大満足だったそうですが、「ちょっと不満だったのは、インテリアを始めとしてそこかしこにコストダウンの香りがしたところ(苦笑)」とか。

ポルシェ短期連載
997で911のアイコンとも言うべき楕円型ヘッドライトが復活。見た目はクラシカルな雰囲気ですが、ビルシュタイン製ダンパーや7速PDKなど、中身は最新の装備で充実しています。2006年に登場したターボは全車4WDになり、世界初の電子制御可変タービンジオメトリーを採用。前期型は3.6リットルで480PS、後期型は3.8リットルで500PSを発揮しています。

さて、その頃のポルシェはボクスターとカイエンの売上で勢いを付け、水冷エンジン2世代目となる997型を2004年に発売します。ヘッドライトをシンプルな楕円形に直して、930型のような空冷時代のクラシカルなイメージを復活させました。「996で不評を買ったフロントライトですが、資金に余裕ができたこともあって、997ではヘッドライトを楕円形に戻し、昔の911のイメージに仕上げました」と戸賀編集長。

中身は新技術がいろいろと投入されており、例えばサスペンションはビルシュタイン製のダンプトロニックという電子制御の減衰力可変ダンパーを採用。また、後期型ではトランスミッションは6速ティプトロSから7速PDKに変わりました。
「エンジンはカレラが3.6リットルで325PS、カレラSが3.8リットルで355PSですが、後期型になって直噴エンジンになるとそれぞれ345PS・385PSにパワーアップしています。また、経営難をクリアしたおかげで、インテリアが996より豪華志向が強まりました。そうそう、911の歴史上、初めてステアリングにチルト調整機構が付いたのは、この997型なんですよ」と、またまたヲタクな薀蓄を披露する戸賀編集長。

この997の時代、911ファンの間では「911は『S』や『ターボ』といった高性能モデルがいいのか?」「いやいや、なんにも無い“素”のモデルがいいのか?」と、大論争になったとか。
「エンスーな『ENGINE』誌は“素”の911がイチバン楽しいって結論づけていましたっけ。でもねぇ、街をただのカレラで走っていると、カレラ<カレラS<ターボ<ターボSというヒエラルキーを切実に感じてしまうんです。さらにGT2とGT3という別格な最強モデルが、この不等式に当てはまらないトコロに存在していますし…。それが911乗りの辛さです」と、戸賀編集長は笑います。

結局のところ、911は「自分が買える範囲」で楽しめばいい…言い換えるのなら、「自分のライフスタイル(趣味・嗜好)に合わせればいい」と、クルマ選びの本質を戸賀編集長に教えたのが、この997なのでした。で、彼は「ヒエラルキーの頂点=NAの頂点」と判断し、前期型カレラS(MT)と後期型GT3(MTしかない!)を選んでスポーツドライビングを思う存分楽しんだのでした。

文 高 成浩(POW-DER)


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