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世界で活躍する左官職人

自然の素材をアートに変える、久住有生 左官の世界

2022.06.22

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自然の素材をアートに変える、久住有生 左官の世界

額装から存在感を放つ作品、有名な建築物の壁なども手掛ける左官職人 久住有生氏。自然素材の美しさが際立つ作品の数々は世界中のあらゆる層を魅了しています。いつかは自宅をお願いしたいと多くの人から切望される久住先生は、どのように作品に向き合っているのかを伺いました。

-まずは“左官”というものに関して伺わせていただけますか

左官って実はあまり知られていませんよね。簡単に言うと、土やセメントといった材料を住宅や商業施設の壁面に塗る仕事。今の時代では精密機械を使っておこなうこともあるのですが、それを手作業で整えていくのが左官職人です。

僕は小さいころから左官という仕事に触れていて、出生地である淡路島で経験を積み、京都の文化財などを修復することも行っていました。その際に当時の職人がどのような技術を使っていたかなどを剥がす機会に勉強させてもらっていましたね。とはいえ、建造物をこれから先の時代に残していくためには、環境の変化なども考慮しながらおこなっていく必要があるので、作られた当時とまったく同じ手法ではありません。その時代に合った方法で修復を行っていくんです。

左官って実は広義で、地方でも異なりますし、例えば文化財やビルなどでも仕上がりが全然違います。淡路島の自然で育った経験、古い建築物に触れていたこともあってか、東京に出てきたときにビルなどから思いを感じることができなかったんです。もちろん美しく高級なのですが、何かを感じられるか…と言われると、人が思いを込めて時間をかけて作ったもののほうが魅力的だなと。機械的に行えば住宅も2、3日で左官工事は終わってしまいますが、僕は一軒の家に3年ほどかけることもあります。それだけこだわりますし、左官って手間や頭を使った分だけ価値があるものなんです。

久住先生

-作品の一番の特徴となるところを教えてください

太陽の光の変化や海や風が通った瞬間を目の当たりにできることってすごく豊かなことですよね。ある意味当たり前なので、その都度綺麗だと感じながら見ている人って少ないと思います。でもその瞬間に触れて生活できることは本当に素晴らしい。作品の特徴といえば、この一瞬だったりを自分なりに形にしていることではないでしょうか。僕も自然に触れることが好きなので、自分の家にあったらいいなと思って作っていることも多いのですが(笑)。 自然を感じることは贅沢なことだと、都心に出ると感じてしまいます。田舎で生まれ育った方は、僕も含め幼いころに日常的に自然があった。でも都心に出てくると触れる機会がなくなってきますよね。当たり前だったことが当たり前でなくなったときに欲したり、不便に感じると思うんです。その自然の温かみや優しさを僕なりに切り取って、都心やコンクリートのマンションに住んでいても触れてもらいたいと願って作品にしています。

久住先生
久住先生

-作成する際にはどのようなことを考えながら手掛けていますか

素材は土が一番多くて、石灰や砂利も使用しますが淡路島の土が一番好きですね。自然からできた鉱物が粘土などになっていくのですが、その過程は人間の寿命では測れないほど長い月日を要していて、それだけでも綺麗なものなんです。人が作ったものには好みが出てきますが、自然を見て、なにか違うと思う人はほとんどいらっしゃいませんよね。人間が自然の一部であることを実感する、考えることを日常的に行っている人はほとんどいないでしょう。でもそれならこの先どうすれば感じてもらうことができるのか、というメッセージを込めて作っていたりもします。

-光のあたり方などで作品の見え方が変わっていくのが印象的なのですが、そのあたりも計算されて作成しているのでしょうか

そうですね。自然の光で眺めることが一番綺麗だとは思っていますが、どの場面でもそうとは限りませんよね。例えば朝の光が差してきたとき、肌もそうだと思うのですが、歳を重ねても綺麗に見える肌の方もいらっしゃいます。光の時間とかタイミングで綺麗に見える。それが細かくも遠く荒くも綺麗に見えてくる。そういった変化なども体感してほしいですね。個人宅であれば、陽の光が入る時間帯や蛍光灯などでも表情が変わってきます。雨が降ってやんだら、一瞬だって見え方がガラっと変わってきますよね。でも今の新建材とされているものにはこれが少ないんです。僕が作品にしているのは、特別なものではなく、当たり前のものを自然界から集めて僕を通して作っただけ。この当たり前が少なくなってきたから、もっとあったらいいのにと思っただけなんですよ。写真だけでなく、実際に見たり触れていただくと違いを感じていただけるはずです。

久住先生

-額装と建築物では作品を作るうえでどのような違いがありますか

額装のものは自分の作りたいものであったり、頭に浮かんだものを形にしていきます。ですが建築物となると主役は別ですよね。さらに機械的に作られたものももちろん要素として入ってきます。自然素材で作成したものと対比があまりにも強すぎてしまうと建築的にはよくありません。なので、パースをもらってデザイナーと打ち合わせをしても現場で変更させてもらうことも多いんです。正しいかどうかはわかりませんが、自分の目で見て、そのタイミングでなにが一番周りの物と馴染むのかと考えたものがベストだなと。壁にかけるものはすべてが馴染む必要はないと考えていますが、建築の一部であるならばかけ離れるのは違うなと。

-額装の作品が並ぶ個展では実際にどのような方に見ていただきたいですか

かなり個人的は話になってしますのですが、田舎から街へ行った時に感じる良さと、しんどさの両方を僕は体感したので、昔、自分がいた環境はこんなによかったけれど今はそうじゃないなと感じている人に見てほしいし、使ってもらいたいですね。また、ご家族で週末に自然環境に連れて行かれる方も多いですよね。それはきっと本能的によいことだとわかっているから足を運ぶのかなと。でも本当はそれが日々あったほうがよいと思うんです。もちろん陽の光などは感じていると思うのですが、自然界の物質で作ったものがあることで、落ち着いたり、穏やかな気持ちになってもらえたらなと。仮に僕が風をイマジネーションして作っていても、手にしてくださる方が風に見える必要もないと思っています。どこか心地よいと感じてもらえたらそれが一番なんです。

催事タイトル:-風と土と時ー 久住有生(なおき)展 
会期:6月29日(水)〜7月5日(火)*最終日16時閉廊
場所:松坂屋名古屋店本館8階美術画廊

久住先生
「黒」
久住先生
「爽」
久住先生
「塊」
久住先生
「旅」
久住先生
「塊」
久住先生

久住 有生(くすみ なおき)

祖父の代から続く左官の家に生まれ、3歳で初めて鏝(こて)を握る。高校3年生の夏に、「世界を観てこい」という父の勧めで旅したヨーロッパで現地の建築に触発され左官職人を目指す。伝統的な日本の左官修業した後、独自の発想や自然からの恩恵を元に、それらが時を経ても残るような様々な空間や建造物を左官で表現している。

撮影 鈴木克典
文 藤倉大輔


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