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ウォッチ・ディレクター 篠田哲生が解説する

名作時計 〜オヤジの憧憬:ロレックス デイトナ 〜

2021.09.15

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名作時計 〜オヤジの憧憬:ロレックス デイトナ 〜

かれこれ20年近く時計の仕事をしていますが、滅多にお目にかかれない時計があります。その筆頭がロレックス「コスモグラフ デイトナ」。実機に触れることができるチャンスは、スイスでの発表会のみ。あとは店頭に並ぶこともなく、購入できるチャンスもほとんどないという、まさに“名作中の名作”。記念すべきJPRIME時計連載第一回目で扱うに相応しい逸品です。

たくさんの欲しい!という情熱が生み出した時計界の至宝

時計連載
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ユニコーン。それは伝説の一角獣であり、転じて誰も見たことがない稀な存在を意味します。将来大化けすること間違いなしのベンチャー企業や、今期のMLBを席巻する大谷翔平選手がユニコーンになぞらえられています(二刀流として規格外の成績を残す大谷選手は、米メディアによって神話に登場するユニコーンにたとえられている)が、名作時計の世界にもユニコーンが存在します。

それがロレックス「コスモグラフ デイトナ」。時計好きでなくとも、その噂は聞いたことがあるでしょう。現行モデルを買いたくても店頭にすら並ばない時計であり、ヴィンテージ時計店では途方もない金額で販売されている。どうしても手に入れたいと願う人は時計店や愛好家のインスタグラムをチェックし続けるが、例え入荷情報が入っても、お目にかかることができない可能性もある…なかなか時計を見ることもできない…。

もちろん幻のユニコーンと違って、コスモグラフ デイトナは実在している時計です。しかし圧倒的な人気によって需要と供給のバランスが崩れてしまい、極めて入手困難になっているのです。

ではその人気の理由はどこにあるのか? デビューは1963年。ネーミングはアメリカのサーキット「デイトナ・インターナショナル・スピ-ドウェイ」に由来しているのは有名な話です。歴史の話はあとで詳しく書きますが、現行モデルへの足掛かりとなったのは、2000年のこと。初の自社製クロノグラフムーブメントのCal.4130が完成し、これをコスモグラフ デイトナに搭載しました。そして2016年にベゼルを耐傷性に優れるセラミック製へと変更し、さらにロレックス高精度クロノメーターを導入して、平均日差が±2秒以内という驚異的な精度を実現しています。

50年以上に渡ってロレックスの看板モデルであり続け、デザインスタイルも普遍。いまだ頑なにカレンダーを加えないなど、一貫した美学があります。しかもロレックスが誇る高い精度と品質も備えている。つまり極めて“真っ当な時計”であるが故に多くの人々から愛され、結果としてなかなか“稀有な存在”になってしまったのです。これは即ち、最も腕元で映えて、且つ語れる時計ということであり、世のオヤジたちの垂涎の的であることは必至!

さらには、オヤジたちだけでなく世界的名優ブラッド・ピット、プロサッカー選手クリスティアーノ・ロナウド、プロテニスプレイヤーのロジャー・フェデラー、などなど愛用するセレブリティの名は、実に枚挙にいとまがありません。

そして、誰もが認めるスポーツモデルの雄は、結果的にスポーティなカジュアルスタイルから、遊びを効かせたジャケットスタイルまで、幅広く対応。いざ着用してみると、その汎用性の高さは圧巻。ゴルフの行き帰りはもちろん、腕元にさりげない装飾が必要な時も、これ一本で充分というわけ。また、未来永劫廃れることのない価値をもつデイトナは、父から子へ、そして孫へと受け継がれる時計の代表格でもあるのです。一生分の運を使ってでも手に入れる価値はあるでしょう。

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左上/2016年から採用されているブラックセラミック製のモノブロック セラクロムベゼル。その表面には対象物の時速を計測するためのタキメーターが加わり、モータースポーツウォッチとして生まれたという時計のルーツを物語る。

右上/堅牢さと美しさを兼ね備えたクラスプ。ガッチリとロックをかけるため、使用中にはずれる心配はありません。

左下/3連コマを用いるオイスターブレスレットを採用。素材はケースと同じく904Lという耐食性に優れたステンレススティール。

右下/プッシュボタンはねじ込み式になっており、防水性能は100m。1965年から採用されている機構です。

ディテールの変化で歴史の進化を楽しむ

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デイトナの歴史を紐解くのは、意外と難しい。タキメーターやダイヤルの表示、“DAYTONA”の入る位置に明確な一貫性がなく、同時代であっても様々なバリエーションが存在するからです。そんなデイトナのデビューは1963年。当時は手巻き式ムーブメントを搭載しており、ベゼルもやや細めのデザイン。エレガントなスポーツウォッチでした(写真左)。スポーティさがぐっと増してくるのは1970年代から。1965年にクロノグラフを操作するためのプッシュボタンがねじ込み式になったことで防水性が高まり、50m防水の本格スポーツウォッチへと進化していきます(写真中)。1988年にはムーブメントを自動巻き式に変更。COSCクロノメーター認定の「Cal.4030」を搭載しました。そして2000年には、現在も搭載する自社製ムーブメント「Cal.4130」へと変更(写真右)。インデックスも太くくっきりとしたタイプになり、実用性にも磨きをかけました。

もはや時計を超えた存在驚きの価値を持つ時計界の至宝

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デイトナ人気が高まった背景に一つに、「ポール・ニューマン」ダイヤルの存在があります。モータースポーツをこよなく愛したアメリカの名優ポール・ニューマンが、デイトナを愛用していたという逸話が広まったことに加えて、彼が愛用したドット表示インダイヤルの通称“エキゾチックダイヤル”が、1960年代から70年代初頭の短い間しか生産されなかったという希少性もあって、アンティーク市場で価格が暴騰。 それに引っ張られるようにデイトナの人気が爆発したのです。そんな伝説に、新たな1ページが加わりました。なんと2017年に、彼が実際に着用していた“本物のポール・ニューマン モデル”が、著名なオークションハウス「フィリップス」のオークションに登場したのです。その落札価格は、なんと約20億円! 

デイトナ神話はここに完成し、この時計は“ユニコーン”となったのです。

篠田哲生
篠田哲生

ウォッチディレクター 篠田哲生

1975年生まれ。時計専門誌、ファッション誌、ビジネス誌、新聞、ウェブなどなど、幅広い媒体で硬軟織り交ぜた時計記事を執筆。スイスのジュネーブやバーゼルで開催される新作時計展示会、時計工房などの取材はお手のもの。また、時計学校「専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」のウォッチコースに通い、時計の理論や構造、分解組み立ての技術なども習得済み。近著に『教養としての腕時計えらび』(光文社新書)がある。

教養としての腕時計選び
教養としての腕時計選び

大人としてどんな時計を選ぶべきかが学べる篠田氏の書籍。

Staff
篠田哲生
編集
森谷恵一
ヘッダーデザイン_五月女幸希

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