FASHION
戸賀編集長の視点からスリッポンを考察
リッチなオジサンの足元は、ちゃんと語れるスリッポンが新常識
いまやビジネスシューズとしても許容されるようになったスリッポン。スーツにおいても楽チンであることが命題となった今、その存在感は高まるばかりです。でも、「単に楽チンだから」でいいのでしょうか。リッチなオジサンのスリッポン選びには、やっぱり見栄えと裏付けも重要なワケで。
もはやベンチマークとなったスリッポン、だからこそ気をつけるべきこととは?
テレワークの浸透よりもさらに以前、クールビズが叫ばれるようになってきた頃から、ビジネスおよびドレススタイルはコンフォート至上へとシフトしてきました。構築的でクラシカルなスーツで装ったオジサンを見る機会はすっかり減り、もはや珍しい存在とまで言われるほどに。その状況を戸賀編集長はこう語ります。
「ファッションを生業としてきた者にとっては、正直悲しいところではあります。クラシカルなスーツでビシッとキメた男性は、やはり素敵ですからね。でも、時代の変化を受け入れるのもファッションの宿命。そんな今の時代において、スリッポンがキーワードとなる気がします」
かねてよりスリッポンの有用性を説き、普段から愛用している戸賀編集長。今回はリアルに重宝している3足を持ってきてもらいました。
「僕は怠け者なので(笑)、そもそもスリッポンが昔から好きでした。かつてドレス靴としては難ありといった時代がありましたが、今では許されたとあってよりヘビロテしています。紐靴と比べたら、言うまでもなく楽チン。スラックスにもデニムにも合う汎用性の広さも加味すれば、ヘビロテするのも当然でしょう」
履き心地もコーデも楽チンなスリッポン。だからこそ、気をつけなければいけないことがあると続けます。
「イージーに見えがちだからこそ、こだわりが大切。まず、名作と呼ばれる1足を選ぶこと。時代を超えて評価されるスリッポンは、その佇まいに格式があります。僕も愛用するジョンロブのロペスが良い例でしょう。バランスの良いラスト、上質なレザー、しっかりとした堅牢な作り。そんな1足なら、スーツと合わせても見劣りせず、デニムスタイルではむしろ格上げしてくれます。それから、レザーソールへのこだわりもポイント。さすがに雨の日はラバーソールでいいと思いますが(笑)、歩いている時や座って足を組んでいる時にレザーソールがチラッとでも見えると、『ちゃんと美学のある人なんだな』と思ってもらえます」
つまりは、脱ぎ履き容易で楽チンなスリッポンだからこそ、しっかりと矜持を備えておかないとダメってこと。戸賀編集長が、ジョンロブ、ベルルッティ、オールデンの3足を揃えているのも、そのためです。
「同じスリッポンでも、この3足はまるで印象が異なります。クラシックにして洗練されたジョンロブのロペス、色気と品を両立するベルルッティのアンディ、そしてカジュアルながら重厚感のあるオールデンのコードヴァン。オヤジのファッションにおいて、この3足があれば事足りるといっても過言ではありません。事実、僕は長年この3足をヘビロテしていますから」
脱ぎ履きもスムーズで楽チン、それでいて正しく選べば、オトナの格や色気、貫禄も楽しむことができるスリッポン。そう考えると、これだけ広く支持されているのも頷けますよね。
左から戸賀編集長の私物となるオールデン、ジョンロブ、ベルルッティ。
「オールデンは、とにかく万能。アメリカらしく合理的と言うか、それこそジャケパンからデニムまで幅広く馴染んでくれます。コードヴァンの質感は、雑に履いても絵になりますし。ジョンロブのロペスは、まぁオヤジが履くべきスリッポンにおける王道と言えるでしょう。価格的にはラフに履けませんが、何足かを回してヘビロテできるようになれば、真にリッチなオヤジと言えます(笑)。ベルルッティのアンディは、20年以上ずっと買い続けている名作。デザイナーごとに新しく解釈したアンディが出ますが、僕的には定番で展開し続けているものが好きかな。並べて見ると、同じスリッポンでも全然印象が違うのがわかりやすいでしょう? 本当にスリッポンって、奥が深いんですよ」
撮影 杉田裕一
文 安岡将文
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