GOURMET
Base (バーゼ)
プリモ・ピアットに徹する。それがパスタ打ちの本分。「BASE」手打ちパスタ

記事提供:料理王国
リストランテのコースでのパスタの立ち位置は、メインディッシュであるセコンド・ピアットの前に食べるプリモ・ピアット。
ゆえにパスタは舌や顎に負担のない軽めの仕立てが、コースの中では相応しい。そんな「モラル」を打ち立てたスフォリーノ(パスタ打ち)河村耕作氏。
そのモラルをカタチにするために、歯切れの良さを追求したタリアテッレを作り続ける。その製麺に援用される技術を数字を使って紹介する。
目指すのは、歯切れの良さ。パスタ打ちは食感に集中する。
『Base(バーゼ)』は文京地区の閑静な住宅街に佇むパスタ工房。工房の主は自らを「パスタ打ち」と称する河村耕作さん。イタリアでは手打ちパスタ職人のことを「sfoglino (スフォリーノ)」と呼ぶそうだ。河村さんは、レベルの高いスフォリーノが多く集まる、イタリアはエミリア=ロマーニャ州のボローニャでパスタ打ちを学んだ。パスタ専門学校「VECCHIA SCUOLA BOLOGNESE」で学び、講師を務め、リストランテでも腕をふるった。アメリカはロスアンジェルスのリストランテでもパスタ職人として活躍し、帰国。「バーゼ」を開いたのは2015年のことだ。

タリアテッレには、アルデンテは不要である
現在の工房で製造するのは幅広のロングパスタ「タリアテッレ」と、詰めものをしたパスタ「トルテッローニ」のみ。ともにボローニャを代表するパスタだ。
パスタ打ちにとって最も大切なのは食感。アルデンテでもモチモチでもない。薄い絹のように滑らかな舌触りで、まるで空気のような歯切れの良さを追求した河村さんの手打ちタリアテッレは「パスタの概念が変わる」とも評される。店内にはイートインスペースもあり、シンプルな仕立てで河村さんが繰り出す未体験の食感を体験できる。
そんな理想の食感のパスタを生み出すためにはいくつかのポイントがあるそうだ。例えば小麦粉。ボローニャでは生パスタにセモリナ粉はNG。精製度が高い「00粉」を使う。歯切れの良さを出すためには水分も大切だ。ゆえに卵は卵黄だけでなく水分を主成分とする卵白も使う。
「最も重要なのは捏ね方と伸ばし方です。ボローニャのパスタは軟質の小麦粉で打つため、グルテンを作りすぎないことが重要。そして生地の中に気泡を作るために空気を含ませることを意識しながら捏ねるという動作も大切です。気泡はソースが絡みやすい構造をつくるのに寄与します。生地の中の気泡は茹でると一度膨らみ、湯切りすると縮む。この働きがソースを絡みやすくするんです」。




伸ばした麺を乾燥させ4 ~7mm幅に切った後に、キッチンペーパーで調湿して密閉容器で冷蔵する。打ってから5~10日が食べ頃で2週間以内に使い切る。生地内のふすまが黒い斑点となって現れる頃合いが目安。
パスタ打ちに徹すると、自らの役割が見えてくる
「材料は小麦粉と卵だけ。ですから味に大きな違いは出ない。つまり、パスタ打ちの本分は食感の表現にこそあるのです。私の仕事は料理ではなくパスタを作ること。最終的にはひたすら食感を追求するところに行き着く。そして平打ち麺のタリアテッレに関していえば、滑らかな食感と歯切れの良さ、つまりは軽い食感を追求するためにあらゆる技術を駆使するのです」。
ともすると「アルデンテ」がすべてのパスタに求められる食感だと思ってしまったり、モチモチした食感がもてはやされたりしがちだが、パスタにとっての最高の食感はパスタごとに基準があるのだ。スパゲティはアルデンテが美味しいが、タリアテッレは歯切れの良さが肝心…という具合に目指す食感が異なるというわけだ。
口の中でパスタが踊る!気づくと消えている!
さて。河村さんのパスタを味わってみよう。タリアテッレを使った「Tagliatelle in bianco (オリーブオイルとパルミジャーノチーズ、コショウのみのパスタ)」は、エキストラヴァージンオリーブオイル、24ヶ月熟成のパルミジャーノ・レッジァーノ、ブラックペッパーのみで仕上げる。フォークに絡ませ口へと運ぶと、オリーブオイルの香りが口中を満たし、しっとりとした舌触りだが、輪郭をしっかりと感じる薄い麺がハラハラと口の中で踊って消えていく感じ。確かになかなか味わったことのない食感だ。食感に集中してもらいたいとの思いから、塩分も極めて抑える。茹でる際の湯の塩分濃度は、一般的には1%程度という料理人が多いが、河村さんは0.5%。
トルテッローニ10個を使った「Tortelloni(三種のチーズとホウレン草、ソースセージバター)」はチーズとホウレン草の詰め物パスタ。0.3%の湯で10分茹でたトルテッローニは、口に入れた瞬間に香るバターとともに咀嚼すると一定のタイミングで、詰め物も麺も全てが同時に口から消えている。そんな不思議な食感だ。

コース中のプリモ・ピアット。 それがパスタのポジションだ
河村さんがスフォリーノ(パスタ打ち)としてリストランテで働く際、一番に見つめたいのはプリモ・ピアット担当のシェフだという。その次は顧客。その後ぐらいにグランシェフ。そんな優先順位が作用していたそうだ。コースの中でパスタが「プリモ・ピアットとしての役割」を全うで きることが、最優先事項となるのだ。
「家庭やトラットリアでなら食べ方もある程度自由でしょう。しかし正式なリストランテでは、パスタはあくまでもセコンド・ピアット(メインディッシュ)の前に供されるプリモ・ピアットでしかありません。味覚としても、ボリューム的な観点からも、パスタでお腹いっぱいになってしまってはいけないのです。私にとって、コースの中におけるパスタは、味覚も量も食感も軽めの仕立てに持っていくのが相応しいと考えています」。
コースの中におけるパスタのポジション。そんなパスタとしての本分を全うさせるということが「パスタ打ち」である河村さんのモラルなのかもしれない。
河村耕作(かわむらこうさく)
1973年東京都生まれ。コーヒーを学ぼうと出向いたイタリアでパスタと出合う。2003年よりパスタ専門学校「VECCHIA SCUOLA BOLOGNESE」で学ぶ。同校で講師、リストランテでスフォリーノとして働き帰国。2015年に『Base』を開業。

Base (バーゼ)
東京都文京区小石川5-34-10
長島ビル 1F
03-5844-6992
● 12:00-14:30、17:30-22:30
● 日休(不定休あり)
文 小林淳一(コバヤシライス)
撮影 加藤純平
料理王国
https://cuisine-kingdom.com/
本記事は雑誌料理王国第303号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第303号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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