レファレンスCK2915-1

世界3大オークションハウスのひとつで、時計オークションに力を入れるフィリップス。去る11月5日から7日に同社がジュネーブで開催した「第14回 ジュネーブ ウォッチ オークション」で大きなサプライズがありました。

レファレンスCK2915-1

ロットナンバー53、オメガのスピードマスターの第一世代モデル「レファレンスCK2915-1」が、フィリップスが付けた8万スイスフランから12万スイスフラン(約1000万円から1500万円)というエスティメート(入札予想価格)を大幅に上回り、何と25倍以上の311万5500フラン(約3億9000万円:1スイスフラン=125円換算)で落札されたのです。これは「スピードマスター」のオークション史上最高価格です。

1964年にアメリカ航空宇宙局(NASA)の過酷なテストに合格し、宇宙飛行士の公式装備品となり、1969年にアポロ11号のふたりの宇宙飛行士と共に、世界で初めて月面に降り立ったことから“ムーンウォッチ”として知られるオメガの傑作「スピードマスター プロフェッショナル」。

レファレンスCK2915-1は、その“ムーンウォッチ”の原点になったモデルで、1957年から59年に生産され、3種類のバリエーションが知られていますが、生産数が少なく希少で、コレクターの間では神格化された存在です。

特徴は「ブロードアロー」と呼ばれる独特の矢印型時・分針。タキメータースケールが刻まれたメタル製のベゼル。文字盤上の「OMEGA」の「O」の文字が楕円形になっていることなど。また“ムーンウォッチ”と同じムーブメントを搭載していること、など。

このスピードマスターに加えて、シーマスター300、レイルマスターという、1957年に誕生したオメガを代表する3モデルが60周年を迎えたことを記念して2017年に「トリロジー コレクション」として限定復刻されたことを覚えている人もいるかもしれません。

ところで、なぜこのスピードマスター、予想を超えるこのような価格で落札されたのでしょうか。

背景には、新型コロナウイルス禍の中、世界中で高まる「時計オークション熱」があります。これまで時計を投資対象とは考えてこなかった富裕層が、アンティーク時計に注目している。これがこの驚きの落札価格の理由のひとつでしょう。

さらにもうひとつの理由が、奇跡のような文字盤のコンディションです。この文字盤は、太陽の光を浴びながら実際に使用され続けてきた結果、“トロピカル”ダイヤルと呼ばれる、鮮やかなミルクチョコレート色に文字盤全体が、驚くべきことに均一に変色しているのです。文字盤と針に施された夜光塗料も均一に、魅力的なゴールド色に変色しています。

レファレンスCK2915-1
レファレンスCK2915-1

アンティークウォッチをお持ちの方ならご存知でしょうが、「焼け」と言われる文字盤や針の変色がこのように均一になるのは、まさに奇跡というべきことです。さらにこのモデルはケースなどの状態も良好で、しかも「1957年11月27日に製造された」ことを示すアーカイブ抄本も付属していました。

オークション、特に時計やカメラの世界では、高値が付くのは未使用のものであることがほとんどです。でもこのモデルは違います。使い込まれたことで生まれたこの「奇跡のような美しさ」が生まれた。何とも夢のある素敵な話です。

文_時計ジャーナリスト 渋谷ヤスヒト


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