
日本人投資家にとって、あまり馴染みがないのが「イスラム金融」でしょう。
欧米諸国とは全く異なるロジックを持つイスラム経済の仕組みを知ることは、そのままイスラム文化への理解へと繋がるはずです。
イスラム金融を知ることで、金融の世界の幅広さを感じてもらう機会になればと思います。
イスラム金融の仕組み
イスラム金融の大きな特徴は、利子の概念がないことです。
これは私たちが知っている通常の金融取引とは最も異なる部分でしょう。
資本主義の国で暮らす私たちにとって、利子は当たり前の概念となっています。
例えば銀行にお金を預ければ、日本のような超低金利社会においても元本に利子が上乗せされていきます。
その一方で、銀行などの金融機関からお金を借りたときは、元本に利子をつけた金額を返済する必要があります。
お金が有り余っている人がいる一方で、お金を借りたい人がいます。
このような場合、お金の貸し借りをする際に決まるお金の価値そのものが「利子」なのです。
では利子のないイスラム金融取引の特徴は何かというと、それは「リースの仕組み」を活用することで成立しており、以下のように4つの取引形態があります。
- ムラーバハ(Murabaha)
- イジャーラ(Ijarah)
- ムダーラバ(Mudharabah)
- ムシャーラカ(Musyarakah)
この4つの基本的な仕組みを理解することが、イスラム金融の仕組みを理解する必須条件の為、少し解説していきましょう。
ムラーバハ
ムラーバハとは、銀行が顧客の代わりに商品を購入し、その商品に一定のマージン(利益)をのせて顧客に転売する仕組みです。
このマージンが銀行の利益となるのです。
つまり、顧客は銀行から先に商品を受け取って、後から銀行に支払いをします。
その際に分割払いも選択でき、万が一、返済が遅れた場合でも利子がつきません。
このようにムラーバハでは、銀行は小売業や問屋と同じ役割を果たしていることになるのです。
イジャーラ
イジャーラとは、アラビア語で「賃貸借契約」を意味し、リースのビジネスモデルを使っています。
イスラム金融の場合、モノの所有を「所有権」と「用途権」に分けており、イジャーラは用途権の部分を銀行が顧客に販売します。
ムダーラバ
ムダーラバとは、銀行が投資家からお金を預かって、その資金を使って様々な事業に投資をすることです。
投資で得られた利益配分をあらかじめ決めておき、投資家と事業者で分け合う形がイスラム金融ならではといえるでしょう。
ムシャーラカ
ムシャーラカとは、銀行と投資家がタッグを組み、事業の共同経営を行うイスラム金融特有の構造です。
先述したムダーラバが短期プロジェクトが多いのに対して、ムシャーラカは長期投資のプロジェクトであることが特徴といえます。
その分、銀行が経営に携わり意見を言うこともあります。
シャリーアとは何か
このようなイスラム金融の考え方や行動基準は、「シャリーア」と呼ばれるイスラム法の規則に沿っています。
これは人間が地上に公正な社会を実現するためのイスラムにおける「行動規範」です。
とはいえこのシャリーアは非イスラムが大半である日本人が正確に理解することはとても難しく、シャリーアはイスラムの教えである、といった大まかな認識でもよいでしょう。
重要なのはシャリーアという位置付けがあることを踏まえてイスラム金融と向き合うことだからです。
イスラム金融の幅広さ
イスラム金融は決して概念だけではなく、実際に取引されている金融商品です。
まず具体的な商品として、預金があります。
もちろん金利が禁止されているので、顧客から集めた預金を運用して、配当という形で支払われています。
個人向けの貸し出しも盛んで、自動車ローンや住宅ローンなど、イスラム金融は「モノ」の取引が組み込まれると貸し出しの幅が広がる特徴があります。
企業向けの貸し出しではグローバルな取引決済で利用されるトレードファイナンスやプロジェクトファイナンスも一般的です。
また、保険は保険加入者同士で互いに助け合うコンセプトが条件で普及しており、債券も高成長分野です。
もちろん債権は金融取引に該当するのでそのままでは利用できませんが、事業収益を債権の金利にあたる部分の支払いに充てるスキームを構築したことがきっかけで顕著に増加しています。
株式はイスラム金融に反するものではないものの、例えば豚肉やアルコール、金利などを扱っている場合、イスラム投資の対象から外れます。
とはいえイスラムの投資ファンドも増加しており、運用対象も多岐にわたっています。
このように、ほぼ全ての分野における資金調達や運用機会が提供されているといって間違いないでしょう。
躍進するドバイ
イスラム金融のなかでも特に注目されているのがドバイです。
ドバイの総面積は埼玉県よりも少し大きい程度にも関わらず、とても注目されています。
なぜなら観光やリゾート開発を推し進め、中東地域の物流や金融の拠点となり、ヒト、モノ、カネ、が流入するようになったからです。
それはドバイが中東の国々から資産が集まるほど「安全な場所」として認識されていることが理由です。
実際に大型不動産建設にイスラム金融が利用されている案件も少なくなく、HSBCなどの外資系金融機関もドバイにイスラム金融拠点を置いています。
またイスラム金融専門の弁護士事務所や経営コンサルティング企業も多く、法整備を手助けしてくれる人材が豊富なことも魅力の1つと言えるでしょう。
各国で浸透しているイスラム金融の現在
イスラム金融は各国に浸透しています。それぞれの実情も見ていきましょう。
ブルネイ
ブルネイはイスラム金融をベースに発展してきた古い歴史があります。
イスラム教を国教に定めており、敬虔なイスラム教徒に向けたサービスの進化とともに発展しています。
またブルネイ最大の金融機関イスラム・ブルネイ・ダルサラーム銀行は、この地におけるイスラム金融のパイオニア的存在です。
自国の通貨ブルネイ・ドルはシンガポール・ドルとの間で等価交換協定を結んでおり、全く同じ値動きをするのも特徴といえます。
シンガポール
シンガポールは中東からのオイルマネーを目的に、2004年頃からイスラム金融に本腰を入れています。
元々国内のイスラム教徒の人口は約65万人で全体の15%のシェアを誇っており、政府が「ムラーバハ」を認可したことでイスラム金融は拡大していきました。
恩恵としてサウジアラビアやUAEの投資家がシンガポールの不動産や不動産ファンドに投資する事例が一般的になっています。
またシンガポールのDBS銀行がドバイに進出したのをきっかけに、シンガポールとイスラム金融の関係性は結びつきが強くなっています。
香港
香港は今年に入って中国の特別行政区としての地位が大きく揺れていますが、イスラム金融には昔から積極的に関わっています。
もともとムスリムの少ない土地柄ではあるものの、シンガポールへの対抗意識があり、オイルマネーが香港から流出する危機感があるのが理由です。
香港がアジアの金融センターとしての地位を守るためにも、オープンな姿勢は今後も続いていくでしょう。
イギリス
イギリスは欧州の中でも積極的にイスラム金融との融和を続けています。
その理由として、国内のムスリム人口は150万人以上で中産階級は21万世帯に達しており、重要が高い地域です。
それに加えて、2001年に起きた米国の同時多発テロをきっかけにイスラム社会との関係が悪化したことを危惧した英国政府は、積極的に経済による融和へと乗り出しています。
例えばシャリーアに沿ったイスラム銀行「イスラミック・バンク・オブ・ブリテン」が英国政府の認可を経てロンドンで営業しているなど、一段とイスラム金融が発展していくことへ尽力しています。
このように世界中、多岐に渡ってイスラム金融サービスが認知されています。
イスラム金融と日本経済の関わり方
日本国内のムスリム人口は約18万人に過ぎず、イスラム金融が日本でサービスを展開していくにはマーケットがとても小さいのが現状です。
とはいえ間接的に日本経済との関わりは増加しているのは間違いなく、日系企業ではイスラム金融との関わりが多くあります。
例えばマレーシアに拠点を置く、イオン・クレジットサービスはクレジット事業だけに限らずイスラム債権(スクーク)を発行し、バイクローンなど地域のニーズに合わせた独自サービスを展開しています。
同じマレーシアに拠点を置くUMWトヨタ・キャピタルは、イスラム金融の習慣に合わせた金融方式を採用し、ムラーバハを応用した割賦販売などのサービスを展開しています。
日系企業ならではのきめ細かなサービスを武器に事業展開をしています。
グローバル企業にとって、東アジアや北米、欧州市場以外の市場開拓はイスラム金融との関わりなくして発展は見込めないともいえるでしょう。
まとめ イスラム金融の多様性
イスラム金融が多様性を持つことは、世界中の金融市場の安定という観点からみてもとても重要な役割を担っています。
多様性が高まることで、金融市場における環境の目まぐるしい変化に一定の安定をもたらす効果も期待されているからです。
2019年現在、世界同時不況で多くの国が揺れるなか、米国のみ好調を維持しています。
現状のマネーゲームの中でイスラム金融はあまり注目されていないものの、いざ米国をはじめとした資本主義の国々が不況に陥った時には、投資家のお金が新興国が多いイスラム金融にお金が流れていくでしょう。
そうやって経済が循環していくことこそ、世界経済の発展には欠かせないはずです。
日本人には馴染みが薄いイスラム金融ですが、私たちが知る資本主義とはまた別の理念を持つ社会が存在し、実に幅広い金融の世界を知るきっかけとなればとても嬉しく思います。
文・The Motley Fool Japan編集部/The Motley Fool Japan
【関連記事】
・いま世界的に「ブランドロイヤルティ」が低下しているわけ?
・超富裕層が絶対にしない5つの投資ミス
・「プライベートバンク」の真の価値とは?
・30代スタートもあり?早くはじめるほど有利な「生前贈与」という相続
・富裕層入門!富裕層の定義とは?