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(画像=Billion Photos/Shutterstock.com)

富裕層とは簡単に言えばお金をたくさん持っている人のことです。ただし、お金に関する考え方、思想は、一般の人とは違います。そうした考え方を形成するためのバイブルというべきものが、アイン・ランド(1905〜1982)の著作です。アメリカでは『聖書』に次いで、長年のロングセラーです。

では、彼女の代表作『水源』『肩をすくめるアトラス』にはどのような思想が述べられているのでしょうか?

政治家、企業経営者、ビジネスマンのバイブル

マーク・ザッカーバーグ氏やイーロン・マスク氏のような成功した起業家が、ハーバードなどの名門大学在学中に必ず読むのが、アイン・ランドの著作です。そのなかで必読とされるのが、『水源』(The Fountainhead、1943)と『肩をすくめるアトラス』(Atlas Shrugged、1957)です。

この2冊は小説ですが、現代アメリカの資本主義のための思想書とも言えます。保守派の政治家、企業経営者、ビジネスマンなら、ほとんどの人間が読んでいます。

例えば、引退した共和党の重鎮ポール・ライアン氏はもっとも影響を受けた作家にアイン・ランドを挙げています。また、テッド・クルーズ上院議員は、有名なフィリバスター(議事妨害演説)に『肩をすくめるアトラス』を引用しました。長年FRB議長を務めたアラン・グリーンスパン氏は、彼女を思想的な師としてきました。

さらに、ヘッジファンドの帝王レイ・ダリオ氏、アップルの故スティーブ・ジョブズ氏も愛読者でした。

アメリカには、彼女を信奉する人々の集まるシンクタンクの「アイン・ランド協会」(Ayn Rand Institute)があります。また、彼女の思想に共鳴し、その考え方を実践している人々のことを「ランディアン」( Randian )と呼んでいます。ランディアンの多くは、富裕層です。

そのため、アイン・ランドの著作は「お金持ちのバイブル」とされ、日本でもそのように紹介されています。

「個人主義vs.集団主義」最後は個人主義が勝つ

アイン・ランドはロシア出身で、大学卒業後アメリカに移住して、脚本家、小説家になりました。『水源』は4作目で彼女の初のベストセラーです。映画『摩天楼』の原作にもなりました。

手短に言うと、フランク・ロイド・ライトをモデルにした建築家の成功物語です。主人公ハワード・ロークは、自分の信念を貫き、けっして妥協しないため、自分が信じている価値観に沿った建築物しか建てようとしません。

そのため、仕事を失い、石切場の作業員になったりします。一方、同級生のピーター・キーティングは、ロークと対照的に自分を捨て、上司に取り入り、のし上がっていきます。ロークを中心にさまざま人物が登場しますが、その多くが世俗的で、ロークの生き方の理解者ではありません。ドミニクというヒロインとのロマンスもあります。

ただし、テーマは一貫して、ランド本人が述べたように、「個人主義と集団主義の対立」(individualism vs. collectivism)です。個人と体制の対立と言い換えてもいいかもしれません。ランドにとってロークは理想の人物であり、最終的に彼が思い描いたビルが建つところで話は終わります。つまり、個人主義が勝利するのです。

もしエリート、お金持ちがいなくなったらどうなる?

『肩をすくめるアトラス』は、社会主義的な思想、政治のあり方に対するアンチテーゼの物語と言えます。

主人公ジョン・ゴールドは、徹底した自由主義者で能力の低い下層の人間たちが嫉妬深く、彼らの足を引っ張ることばかりするのに失望し、仲間とロッキー山脈の「ゴールド渓谷」に逃れます。ゴールドは、そこで能力のある人間だけのコミュニティをつくって暮らします。そうして、自分たちを失った世界が崩壊したら、一から新しい世界をつくろうとするのです。

ランド自身の解説によれば、『肩をすくめるアトラス』のテーマは、「この世界が最初に動く人間(prime movers)をどれほど必要としており、かつこの世界が彼らをどれほどひどく扱っているかを示す」ことであり、「もし彼らがいなくなったら世界はどうなってしまうのか」を描くことだったといいます。

ランドのメッセージは単純化すると、「富を追い求めてどこが悪い」「お金持ちを縛るのをやめましょう」ということになります。

一般大衆は、この世界をリードし価値を生み出していくエリートたちに対して嫉妬し、税金や規制で縛って、自分たちへの富の分配を求めます。しかし、そうすれば経済は悪化し、この世界はダメになっていってしまいます。だから、市場原理にまかせるべき、自由主義でいくべきだと、ランドは問いかけているわけです。

ここでもまた、個人主義が理想化されます。それは、能力のある人々の個人主義です。本書中のこんな言葉が印象的です。

「私は決して他人のために生きることはなく他人に私のために生きることを求めない」

社会と自分(個人)のあり方を考えるバイブル

ランドの思想を解説した本やサイトで、必ず引用されているのが、次の2つの言葉です。

「富は人間の思考の所産である」
富を生み出すのは、結局は人間の思考だと、ランドは言っています。正しくその通りです。

「お金は邪悪だと言う人が現れたら、すぐに身を遠ざけよう。その人は貧乏神だ」
日本では、お金をあまりいいイメージでとらえていません。また、お金を稼ぐことは邪悪なことのような見方があるので、この言葉で救われるようです。とくに、富裕層にとっては、歓迎すべき教えです。

しかし、ランドが本当に伝えたかったのは、日々の労働の価値や地道で実直な生き方です。確固たる意思を持った個人の生き方です。金持ちはこうあるべきだとは、彼女はほとんど言っていません。彼女は、現実主義者、合理主義者で、リベラルのようなできもしない理想は述べません。

その意味で、「お金持ちのバイブル」というより、「社会のあり方と自分(個人)の関わり方を考えるためのバイブル」と言ったほうがいいでしょう。

文・J PRIME編集部

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