巷では「肉が足りなくなる」と言われており、肉は今後も重要な食材です。さらに今、肉のような食材が増えてくると言われています。日本の人口は減少している一方で、気づかない人もいるかもしれませんが、世界の人口は急増しています。国連は、2030年までに現在76億人の世界人口が86億人に増加すると予測しているのです。

この世界人口の増加により、肉を含めた食糧不足が起こるのではないかと予測されています。昆虫食でタンパク質を摂取するなど、新たな選択肢を求め、世界各地で研究が進んでいるのです。

既に現時点で、肉モドキとして流通している食材もあります。そんな中、あらゆる食が市場に流通するようになる時、過去にあったような食品産業の偽造問題も増加するかもしれません。

すなわち、第一次産業の産物の偽造が、今後問題になる可能性があります。

「もはや各自仕事をしつつも、片手間で酪農や農業に携わり、信頼できる食を自身で調達するしか選択肢がないのか」と思う人もいるかもしれません。しかし、忙しい世の中でそういうわけにはいきません。

将来のそんな事情を見据えるかのように、牛肉に確実な付加価値をつけて、世界にプレミアムな牛肉を流通させようと、情報の改ざんが不可能と言われるブロックチェーン技術を、基盤として導入に取り組んでいる人物がいます。

先日、IOHK(Input Output HongKong)が米フロリダ州マイアミビーチで開催した「IOHK Summit 2019」で、ゲストスピーカーとして登壇したBeefChain(ビーフチェン)の共同創業者、タイラー・リンドホルム氏です。リンドホルム氏は、一酪農家でありながら、ワイオミング州議会議員でもあります。

酪農テックギーク

IOHKはブロックチェーン技術を活用したオープンソース・ソフトウェア「Cardano(カルダノ)」の技術開発・研究を手掛ける組織。IOHK共同創業者のチャールズ・ホスキンソン氏は、イーサリアムの元共同創業者でもあります。

そのリンドホルム氏に、酪農含む第一産業でのブロックチェーンの必要性について話しを聞きました。

--- ビーフチェーンとは?

ワイオミング州に拠点を置くビーフチェーンは、家畜生産者向けにUSDA(アメリカ農務省)認定のブロックチェーン技術を導入・提供しています。

これにより、家畜生産者はUSDA認可の太鼓判点つきの“プレミアム”牛を市場に流通させることが可能となります。

私は、酪農をしつつも、ビーフチェーンでブロックチェーンのようなシステム提供、導入に携わることから、自らを「酪農テックギーク」と呼んでいる。

ワイオミング州でのビーフチェーンの取り組みは、いかに牛を自然に育てるかを目標とし、プロジェクトに取り組んでいます。

自然に家畜を育てるということは、牛、豚などを小屋に閉じこめるのではなく、広い平野で放し飼いにすることを意味します。しかし現在、このような酪農の基本理念を実践している光景を、もはや見なくなってしまいました。

酪農テックギーク

2018年から取り組んだのは、家畜全体にブロックチェーンを導入、牛の年齢、所属、育て方、健康状態などの生育記録を、ブロックチェーンに記録することです。

家畜生産者はビーフチェーンを導入することで、USDAから最高レベルの品質保証の太鼓判が押すことができ、牛肉にさらなる付加価値を付けることに成功しました。

ビーフチェーンがUSDAから正式に認定を受けたのは、「IOHK Summit 2019」開催約2週間前のことです。ビーフチェーンはワイオミング州だけでなく、世界で初めて USDAに認可されたブロックチェーン・カンパニーと言えます。

自社の肉にプレミアムを付けたい酪農家は、ビーフチェーンが用意するいくつかのプログラムに申請し、ブロックチェーン技術を導入できます。

・ビーフチェーン・ホルモン剤なしの認可プログラム

・ビーフチェーン・ナチュラルのホルモン剤や抗生物質不使用、牧場で自然に育てられたことを認可するプログラム

・ビーフチェーン 年齢と出身地検証・認証するプログラム

・ビーフチェーン・ワイオミング・プラスは、ワイオミング州で生まれ、自然な飼料により、育った牛に認可するプログラム

家畜に関する情報が記録されたデータはブロックチェーンに書き込まれ、改ざん不能であるという技術的な特製を背景に、「確実に信頼できるデータ」と認められるため、市場に付加価値とプレミアムを訴求できるのです。

もちろん、全てがポジティブな情報ではありません。監査担当者が、牛から抗生物質を発見した場合、そういった情報も記録されます。

出荷先は、QRコードをスキャンして、全生涯IDを追跡できます。それらのデータをブロックチェーンに記録しすることで、肉の生産経路の透明性を確保し、家畜バイヤーや消費者に肉の信頼性をアピールできます。

将来的には、ブロックチェーン技術を応用して、サプライチェーンを短縮するのが夢です。食品業界では偽装問題が絶えません。酪農の現場から消費者の手元に食べ物が届くまでの全体のチェーンを、消費者が目にすることはありません。チェーン全体に関する信用は消費者にとって重要です。

今後、家畜の取り扱いも含めて、全サプライチェーンをブロックチェーンで網羅できたら何よりだと感じます。

消費者が自宅で肉を料理し、食べます。「おいしい!これはどこが産地だ?ワイオミング州のピアソン牧場か?」と、パッケージのコードを読み取り、直接生産者にコンタクト、さらには生産者から直接購入できたら、すばらしいことだと思っています。

--- リンドホルムさんはそもそも酪農家、それともIT専門家なのですか?

私は酪農家でもありますが、“ITギーク”グループの一人でもあります。

--- ブロックチェーンを介したビーフチェーンの認証はいつから始めたのですか?

つい2週間前、このプロジェクトに関してUSDAから認証を受けました。ビーフチェーンの創業は1年前の2018年で、その夏から、6つの牧場で試験的にブロックチェーン技術を活用したプロジェクトを開始しました。現在はイーサリアムを活用し、診断や今後のブロックチェーンの応用を探っているところです。

---農業関連に応用できますか?

食品産業、特に農業では偽装問題が絶えません。ビーフチェーンのノウハウを生かして、農業分野の応用は十分可能です。

酪農テックギーク

--- 日本では酪農・農業などの第一産業に後継者問題があります。ブロックチェーン技術は、後継者減少を食い止めることができますか?

家業を踏襲することで人生を失敗することもあります。後継者問題は農業だけでなく、酪農分野でも同じです。より儲かる仕組みを作ることは当然のことです。自社商品をヒットさせようと、プレミアム商品を開拓することが、家族経営の事業では必要と考えています。

今回の事例からもわかるかと思いますが、そのためにはフード・サプライチェーンで、透明性を証明することは重要です。

そこでブロックチェーンの活用に注目が集まるのです。

牛のQRコードをスキャンすると、「この牛はワイオミング州のピアソン牧場からきた」と原産地がわかります。

酪農や農業だけでなく、魚にIDタグをつけて、漁業分野でも十分応用が利きます。魚体ではなく、タグを前部のひれにクリップできるのです。

分野によって、IDタグの付け方が異なりますが、前提条件は同じです。

牛は小屋で生まれます。仔牛が生まれると、母親から離し、ビーフチェーンが提供するタグをつけます。

タグに認証情報などを載せられますが、ビーフチェーンの監査が終了しないと可とはなりません。これはUSDA(連邦農務省)との取り決めで、ビーフチェーンが監査を行っています。

例えば、日本向けのビーフであれば、成長13ヵ月後に日本への輸出検証が行われます。13ヵ月の成長の証明は、IDタグで誕生日などの情報を見られるのでわかります。その後、日本に直で輸出することができるのです。

現在、台湾に向けて輸出をしているが、牛肉が出てきて、その箱をスキャン、個々のパッケージのQRコードをスキャンすると、誕生日、ワイオミング、ネブラスカ、モンタナなど原産地の確認ができる仕組みとなっています。

--- ビーフチェーンが監査を?

USDAが年一度、ビーフチェーン社を監査し、ビーフチェーンは酪農家を監査します。ビーフチェーンがUSDAのチェックリストに従い、酪農家の監査をするのです。

酪農家は「『ビーフチェーン・ナチュラル・プログラム』など、各プログラム認証に関心がある」とビーフチェーンに連絡を取り、申請書を提出。その後、ビーフチェーンからは酪農家に300枚のタグを提供します。

これにより、消費者は、牛の生まれ、自然な生育の認定、認定機関など、牛に関する情報を見られます。

他のデータはほとんどが酪農家のプライベート情報です。他の情報としては、GPSピンドロップを使用した家畜の位置情報などがあります。

ビーフチェーンでは牛のトラッキング、文書管理のソフトウェア、モバイルアプリを開発しています。

イメージとなる映像はこちらを見ていただきたいと思います。

--- 現在では限られたレストランだけが熟成肉をつくっていますが、将来、そういった分野でも取引できるのではないでしょうか?

熟成肉の出荷でも、付加価値をつけられます。メインクーラーから、熟成用にパッケージに肉が移動する情報が把握できるのです。メインクーラー、20日後にパッケージなど実際に熟成しているタイムラインを示すことができます。自分で検証ができるようになるのです。

酪農テックギーク

--- タグをなくした時は?

品質マニュアルにあるが、プログラムに加入したときにタグが提供されます。

そのRFIDタグで、タグにより、牛の牧場を識別できるようになっています。

タグを紛失すると、酪農家はビーフチェーンに連絡を取り、ビーフチェーンで照合を行う。ブロックチェーンでは、その数字を除去し、新たな数字で補足します。その後、トレーサビリティ(追跡)は継続されるのです。

酪農テックギーク

--- 現在、管理している頭数は?

最少ゴールはこの夏までに1万頭だが、目指しているのは5万頭。現在は2,000頭です。

--- ビーフチェーンにより、どういった効果が期待できるのですか?

現在は認定制度のプロセスをしているが、数多くの酪農家がこの仕組みを必要としています。食品偽装問題が多い中、多くの消費者は、産物が地元産でプレミアム品なのか、流通分野の情報の透明性を期待することができます。

--- 全システムの導入にどのくらいの費用がかかるのか?

約500頭の大規模牧場で3,000ドルぐらいだ。

全てのUSDA認定とタグ1頭で、5ドル80セントかかる。その費用だけで、生産者は一頭につき50ドルの価値を得られます。

ちなみに、ビーフチェーンのRFIDタグの原価は1ドル80セント、販売価格は2ドルなので、RFIDタグでは大きな儲けはありません。

--- ワイオミング州の牛肉は日本へ輸出していますか?

日本に一部輸出していると思いますが、ビーフチェーンを通していません。海外ではトレーシング(追跡)製品の主要顧客は台北のシェラトンホテルなどがあります。余談ではありますが、和牛は本当に素晴らしいです。和牛をおいしくするにはどうするといった話は様々あると思いますが、やはり和牛の遺伝子でしょう。

和牛は脂肪酸や筋肉密度が優れています。アメリカ牛もそうですが、霜降りが大好きです。ただし、USDAに関する文書作業で過去7ヵ月間、パソコンにくぎ付けだったため、体に脂肪がついてしまいました。冬期、酪農家の活動は、メンテナンスなどの裏方作業が多いのです。夏季に出荷などをするので、冬期は比較的、時間に余裕があり、その間にランニングなどに取り組み、脂肪燃焼に励みました(笑)。

酪農テックギーク

--- USDA認定後の価格はどうですか?効果は?

お話ししたとおり、USDA認定のために夏から試験的なプロジェクトを開始しましたが、ある酪農家は「次のステップは?」と質問をします。

USDA認証後、酪農家には投資対効果を示さなければなりません。投資対効果がなければ、意味はありません。

ワイオミング州南部のピアソン牧場の例だが、とある日、認定された牛250頭を売却しました。その日の平均売却価格は1ポンドあたり1ドル70セントですが、USDA認定により1ドル94セントで売れ、通常よりも合計3万ドル多い売り上げを獲得できたのです。

認定、いわゆる消費者の期待に応えることでこれだけの差がでてくる。また、より多くのバイヤーが入札するようにもなりました。

プログラムのゴールは、自然に関心のある「ビーフであれワイオミングから調達したい!」という顧客など、より多くの顧客の興味を引き立て、参加してもらうことです。

--- この技術は農業に使用できますか?

RFIDは旧技術だが、使用できると思います。アメリカの多くの州では大麻が合法化されたが、大麻には使用が必須となっています。

コロラドやカナダのグレイン(穀物)・チェーンではオーガニックの認定に使用されている。欠点は穀物では具体的にタグするものがない。費用対効果の点では、大麻のような高価なものにしか使用できません。トラッキング(追跡)に使用しています。

ちなみに、フェッデクスのような配送産業でもブロックチェーン技術の採用が始まっています。また追加の事例だが、ウォールマートの最近の取り組みは素晴らしいと思います。

ウォールマートで販売していた葉物野菜で食中毒が起きたことをご存知でしょうか? ウォールマートのロメインレタスで、大勢が大腸菌の食中毒となりました。ここ最近で「最悪の大腸菌 食中毒事件だった」とも言われています。

仕事柄、食中毒や食物関連の病気に関しても、私はギークであるため、そこそこ詳しい…。食中毒の原因はレタスそのものではなく、生産者の悪い取扱いだったのです。

CDC(疾病予防管理センター)によると、アメリカでは、食中毒を起こす確率が最も高い野菜がホウレンソウ、次にスプラウトです。水を多く吸収するタイプの野菜。バクテリアが付着すると、40度の環境で増殖します。

ほとんどの野菜がメキシコ産で、問題はほとんどの地域が未開発だったことです。レタス、ホウレン草、スプラウトが採取される地域では十分なトイレ施設がありません。大腸菌が手から野菜へ、そして全体へと繁殖してしまいます。

ウォールマートのレガシー・システムでは、原因調査に6日半かかりました。この間に数千人が罹患したことでしょう。食中毒が起きると全国のウォールマートでは直ちに棚洗浄が行われます。産地がわからないレタスは全て廃棄処分となります。

この食中毒事件からもわかるかと思いますが、農業における透明性は重要です。ウォールマートでは対策としてIBMと連携してプライベートなブロックチェーンをつくり、トレーサビリティ(透明性)・プロジェクトを開始した。

このプロジェクトにより、原産地から店舗配送先までの追跡に6日半かかっていましたが、このブロックチェーン導入により、2.2秒に縮めることができたのです。

全ての棚をひっくり返さず、問題を突き止めることができるため、巨額の費用が節約できるはずです。

このような食品の衛生管理の問題から、消費者は“食”の生産地を気にし、ウォールマートのような供給側は、原因特定だけでなく、生産地側も一貫して管理することが求められたのです。

文・J PRIME編集部

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