
近年、富裕層資産の海外逃れを厳しくする日本。そんな中で、海外移住による節税対策は本当に可能なのでしょうか?本稿の前半では「富裕層を牽制する国税庁の動き」、後半では「相続税のない国」を紹介します。
タックスヘイブンにも及ぶ「富裕層包囲網」
2018年10月末、海外口座を利用している日本の富裕層の間に衝撃が走りました。国税庁が「約64カ国・地域の約55万口座の情報入手」を発表したのです。口座情報の入手は、租税回避地「タックスヘイブン」にも及ぶといわれます。これが事実なら世界のどこに資産を移しても、国税庁の “富裕層包囲網”の中にあることになります。今後、口座情報の件数はさらに増加する見通しです。
もうひとつ、海外逃れを牽制するルールがあります。それは「子や孫などの相続人が海外に住んでいても、被相続人が日本に住んでいるなら日本の相続税を課税する」方針です。相続人が永住権を取得していても、財産が世界のどこにあっても相続税の対象になります。
海外移住しても10年超でないと相続税逃れの対象外に
前項を読んで以下のように感じた方もいるかもしれません。被相続人が日本に住んでいると相続税がかかる。ならば、被相続人も海外に移住すればよいのではないか?しかし、国税庁はこの手も封じようとしています。
以前は、被相続人と相続人の両者が海外に「5年超」住んでいれば、国外の財産には相続税・贈与税がかかりませんでした。しかし、2017年からは「10年超」住まなければ日本の相続税の対象になります。
このように、富裕層資産の海外逃れは難しくなる一方です。この先もどんな強化策が発表されるかわかりません。それを踏まえた上で「相続対策の海外移住」は慎重に考えるべきでしょう。
日本人が住みやすい相続税のない国は?
世界には、相続税・贈与税のない国はたくさんありますが、住みやすさや防犯性などを考慮すると選択肢は限られます。さらにここでは、日本人になじみ深いという視点も加え、シンガポール、香港、オーストラリアの3国をピックアップしてみました。
●シンガポールの移住事情
シンガポールには、世界の長者番付の上位になるような大富豪が数多く移住しています。相続税・贈与税が一切ないことに加え、「所得税の最高税率20%」「法人税17%」のメリットもあり、富裕層が資産運用するにはうってつけの国といえます。ただし、通称GIPといわれる永住権を手にいれるには、指定ファンドに約2億円を投資する、または、約2億円規模のビジネスを立ち上げるなどの必要があります。
●香港の移住事情
香港の永住権の取得は、シンガポールに比べるとハードルは低いですが、取得するまでに相当の期間を要します。具体的には「7年間以上ずっと香港に住んでいること」が前提条件です。永住権を取得すると、不動産税(税率15%)が免除されたり、自由に起業や就労したりする権利も与えられます(ただし、パーマネントIDカード発行手続きが必要)。
●オーストラリアの移住事情
オーストラリアも相続税が存在しません。ただし、不動産に関しては一定の制約があり、日本に住んでいる相続人がオーストラリア国内の不動産を承継する時は、相続税を支払う必要があります。永住権の獲得のためは、ビザ取得がファーストステップになりますが、用途に合わせてさまざまな種類が用意されています。
- 退職者向けビザ
- 投資家向けビザ
- 専門家用ビザ(美容師、調理師)など
このうち、投資家向けビザはさらに「一般投資家向け」「上級投資家ビザ」「最上級投資家ビザ」にわかれています。たとえば、最上級投資家ビザはオーストラリア国内での1500万豪ドルの投資が最低条件です。
相続税・贈与税のない国はまだまだある
この他、相続税・贈与税がない国として知られるのは、スイス、スウェーデン、マレーシア、タイ、モナコなどです。それぞれの国ごとにメリット、デメリットがあるため、移住を考えている方は情報収集や経験者のヒヤリングが欠かせません。
たしかに海外移住は相続対策の選択肢のひとつです。一方で、綿密なスキームがあれば、日本国内でも効果的な相続対策は可能です。とくに不動産を利用した相続対策は課税額を圧縮するのに有効です。
文・J PRIME編集部
【関連記事】
・富裕層の節税効果を最大化する「資産管理会社」。資産がどれくらいあったら設立すべきか?
・高所得者こそ効果あり?「ふるさと納税」の活用事情
・海外移住の前に非居住者となるのはいかが?日本に住まない税制メリット
・海外移住の前に非居住者となるのはいかが?日本に住まない税制メリット
・子どもの大学費用 高所得世帯も「奨学金活用」で節約する時代
・富裕層が取るべきハーバード流ポートフォリオを知っていますか?