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La Blanche(ラ・ブランシュ)

【ラ・ブランシュ】日本人として愛すべき食材をよりおいしく

2022.03.21

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【ラ・ブランシュ】日本人として愛すべき食材をよりおいしく
料理王国

記事提供:料理王国

日本人として悩んだのち 日本人として見つけたスタイルと技術 ラ・ブランシュ 田代和久さん
自分が素直においしいと思った食材をよりおいしくするために、料理をするという田代さん。理想の「おいしい」に近づくために従来の調理法にとらわれず工夫を重ねることで、新たな技術、新たなおいしさを生み出している。

日本人としての自分を見直し見出した道

「最初にフランスでの修業を終えて日本に帰国した時、すごく戸惑ったんですよ。自分って何なんだろう、このままフランス料理を続けていいんだろうか、って。私は日本人で、味噌汁とお新香で育ってきた。この道に入った時にそれを捨てたつもりだったのに、やっぱり私の体には味噌汁とお新香が染み付いている。これではもうフランス料理はできないんじゃないかというくらいに悩みましたね。しかし、改めてもう一度フランスに行き料理を食べてみて、ただ『おいしい!』と思ったんです。国が変わっても『おいしい』という感覚は変わらないんだと実感した。だったら自分のおいしいと思うものを素直に作ればいいんじゃないかと気づいたんです。それが私の転機でしたね」

そう語ってくれたのは、1986年の開店から32年、多くの人に愛され続けているフランス料理の名店「ラ・ブランシュ」のオーナーシェフ田代和久さん。日本人として自身が素直においしいと思う食材を使い、それをさらにおいしく食べてもらいたいという自然体のスタイルで料理を発想し、食べる者を虜にする味わいを生み出している。そんな田代さんが今回「技術の伝承」をテーマに作ってくれたのも、日本の食材を使った料理。一見シンプルながら細やかな技術が随所に散りばめられた二皿だ。

理想の味わい、食感を求めて試行錯誤を重ねた技術

一皿目の料理は、渥美半島で今年90歳になる生産者が作っているというキャベツを使った「平目のポワレキャベツソース」。田代さんが初めてこのキャベツを食べた時の感動をもとに、この食材を最大限おいしく味わうために考え出した料理だ。キャベツソースのベースとなるのは鶏のジュと野菜たっぷりの魚のフュメ。これを合わせたものにエシャロット、少量のニンニク、バター、サフランを加えて、20〜30分ゆっくり煮て、繊細な味わいのベースを作り上げる。ここにキャベツのピュレを加えることで、キャベツの風味が十分に活かされたソースができ上がる。

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主役のキャベツは芯と一緒に茹でてから、氷水に取って急冷することで旨味を引き出し、再び温めて盛り付ける。キャベツソースも風味をしっかりと出すために細やかに仕上げる。

ヒラメは下味に塩と、コショウの代わりにカイエンペッパーをふる。肉に比べて食感が優しい魚には、コショウよりも最初に辛みがグッと感じられ、そのあとスーッと引いていくカイエンペッパーのほうが相性が良いという。さらに、小麦粉をふり、片面にすりおろしたジャガイモを塗ってフライパンで焼く。これは、「魚の表面をカリカリに仕上げたい」という田代さんのこだわりから生まれた技術。何度やっても理想の「カリカリ」を実現できず、試行錯誤を重ねた末に思いついた。ジャガイモを塗った面で7割、裏面で残りの火を入れることで心地よい食感を実現し、お客さまが食べ終わるまでその食感を維持することができる。ヒラメにのせるキャベツは、芯と一緒に茹でてから氷水で急冷することでしっかりとおいしさを引き出し、再び温めて盛り付ける。ヒラメが隠れてしまうほどたっぷりと盛り付けられたキャベツの力強い味わいが、カリカリに焼き上げたヒラメとマッチした一品だ。

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ヒラメの下味にはカイエンペッパー。すりおろしたジャガイモを塗って焼くことで、理想のカリカリ食感を実現。ジャガイモの水分を吸収するために、ヒラメに小麦粉をふるのも大切なポイント。
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平目のポワレ キャベツソース
田代さんが初めて食べた時に感動したという渥美半島のキャベツを使った一皿。キャベツソースで食べるキャベツは優しくも力強い味わい。ヒラメが旨味と食感のアクセントを与える。

食材との感動の出合いが 新たな料理を生む

二皿目は、「サワラのミ・キュイビーツソース」。庄内の一本釣りのサワラを使った一品だ。サワラはサラマンダーを使い弱火で6〜7分程度、ほんのり火を入れて甘味を引き出してから、バーナーで表面を炙り香ばしい香りをつける。これに酸味と甘味のあるビーツのソース、紫キャベツのサラダを添える。紫キャベツはオイルを引いて火にかけたフライパンに軽く手で押し付けることでオイルをなじませ、風味を増している。さらに柿やオクラなどを刻んで合わせた粘りのある副菜と、オーブンで焼いたミカンを添える。さまざまな食感・味わいとともにサワラの魅力を楽しませてくれる一皿だ。

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サワラに添える紫キャベツのサラダは、一度フライパンでオイルをまとわせることで味わいがまったく変わってくるという。副菜ひとつにも手間をかけ、味わい深い一皿を作り上げる。

「食材と出合った時のドキドキするような感動がエネルギーになり、新しい料理のイメージが生まれる」と言う田代さん。つねに食材や料理に対する思いを強く持っていることが大切だ、と教えてくれた。「店に新しいスタッフが入ってくると、最初は険悪なんですよ。お互いに自分の料理がいちばんおいしいと思ってるから。でも徐々にお互いを認め合い、私もスタッフから良い刺激を受けます。それもお互いが強い思いを持っているからこそできること。そんななかで料理を作り続けながら、日本人としての自分、仕事、生き方を見つめることで、また新たなパワーが生まれるんです」。

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サワラのミ・キュイ ビーツソース
庄内のサワラを繊細に火入れし、さまざまな副菜の味わい・食感とともに楽しむ一皿。副菜にもミカンや柿、ショウガなど日本ならではの食材がふんだんに使われている。

食材への思い、料理への思いで技術は磨かれる

自ら試行錯誤を重ね生み出してきた調理法を丁寧に説明しながら調理を進める田代さん。徹底的に「おいしい」を追求するために磨いてきた技術を惜しみなく教えてくれた。

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田代和久/Kazuhisa Tashiro
1950年福島県生まれ。料理学校を卒業後、都内やフランスのレストランで修業し1986年「ラ・ブランシュ」をオープン。東日本大震災の復興で福島料理人応援団のひとりとしても活動。

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La Blanche(ラ・ブランシュ)
住所:東京都渋谷区渋谷2-3-1 青山ポニーハイム 2F
電話番号:03-3499-0824
営業時間:12:00~13:00LO、18:00~20:30LO
定休日:火、水曜
コース 昼3800円~、夜7800円~
18席

河﨑志乃=取材、文 今清水隆宏、中西一朗=撮影

本記事は雑誌料理王国284号(2018年4月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は284号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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