戸賀敬城
晴天の日、街中の視線を集めながら愛車《マクラーレン570S》で通りに現れた戸賀敬城さん。この日の装いは〈ヒルトン〉《Togaモデル》のニットに〈H.モーザー〉の時計で色を控えた上質のコーディネートに、シートベルトのマクラーレンカラー、オレンジが映える。


ファッションや高級車メディアの編集長を歴任し、有名ブランドのアンバサダーを務めるなどラグジュアリー市場の牽引役として知られる戸賀敬城さん。現在所有する愛車は、用途に応じて使い分けているという。クルマを愛してやまない目利きが、時代を見据えて選んだスーパースポーツをはじめ、名車へのパーソナルな思いとは?

多忙な日々の聖域、スーパースポーツ《マクラーレン570S》で駆ける至福の時

「小学生のころスポーツカーブームがあって、環七を走るクルマをよく見に行っていました」。戸賀さんは現在53歳、スポーツカー好き世代だ。「いつか自分も乗りたいという念願が叶ったのは大学時代に就職が決まった時。《ポルシェ944 ターボ》を購入したのが始まりです」。もっとも、その後はファッションや高級車雑誌の編集長として活躍していく中で〈ポルシェ〉や〈BMW〉の《M》等々を所有したが、出版社勤務の立場や年齢を鑑みてスーパースポーツの所有は控えていたという。

マクラーレン570S
1960年代に結成されたレーシングチームから発展を遂げてきた〈マクラーレン〉。世界三大レースを制覇した名ブランドにとって、レーシングは最高の発明が生まれる土壌だという。《マクラーレン570S》はサーキットやオンロード走行を問わずドライバーとパフォーマンスを重視した設計。3.8L V8型ツインターボエンジンを後部に搭載した車高の低い流線型ノーズで空気抵抗を軽減、ドライバーの視認性も高めた。


そして独立後に50代で購入したのが、レーシングカーで名高い〈マクラーレン〉の“スーパースポーツ”だ。
「独立して多忙な今こそ、このクルマの存在は大切で、仕事の合間に短時間でも走らせると最高のストレス発散になるんです。例えばゴルフに出かける日の往復2時間や、街中でのほんの30分のドライブでも、家でゴロゴロするよりスッキリする。この《マクラーレン570S》はスーパースポーツと呼ばれ、GTカー(快適性を備え長距離にも向くグランドツーリングカー)やスポーツカー(速さや運転する楽しさなど“走り”のためのクルマ)よりもさらに突き抜けたスペックを持つクルマで、停止状態からわずか3.2秒で0〜100km加速できる。その加速感を例えるなら、脳が置いていかれるような、尾てい骨を蹴られるような体感です。運転していると路面の状況までもダイレクトに感じられて、高速時のダウンフォースの感覚、重低音の『ヴォーン』という排気音……これを所有している自分にも酔えます。速い走行を優先するためコックピットは狭いので基本的には一人。自分だけの基地のような、男の聖域です」

コックピット
「コックピットは自分の基地のよう。晴れ舞台の主役気分にもなれます」。レースで培ったテクノロジーを生かしたタッチスクリーン式の先進的な「TFTインストルメント・ディスプレイ」と最高級のハンドステッチ・レザーの内装など、先端装備と贅沢なインテリアは究極の組み合わせ。〈エルメス〉のレザーバッグをお供に。


ディヘドラルドア
〈マクラーレン〉独自の跳ね上げ式 「ディヘドラルドア」も醍醐味。翼のようにボディに組み込まれた設計はデザイン性のみならず、機能的な空気経路や乗車しやすい開口部が計算され、実用性も兼ね備える。


〈マクラーレン〉はレーサーのブルース・マクラーレンが1963年に立ち上げたレーシングチームが起源。
「F1の名門ですが、ロードカーを発表したのは90年代で、この《570S》タイプのスポーツシリーズを発売してから数年。まだ皆が乗っていないのもいいなと思いました。派手だけど根は真面目で、新星……そんな名ブランドに惹かれました」
愛車たるもうひとつの理由は、世界的な潮流に合わせて、スポーツカー業界もエンジンのダウンサイジングやハイブリッド化が進む中「V型8気筒ツインターボエンジンを搭載しているこのモデルは希少になること」。マクラーレンも新たなモデルは6気筒エンジンに電気モーターを組み合わせるなど、パワーを向上しつつも環境を見据えた技術革新を遂げている。この転換期のモデルは貴重に感じるという。
「大事に使用していて、雨の日は乗らずに晴れの日だけ。走行距離も2年でまだ3,000kmです」

マクラーレン570S
世界のレースで育まれたダイナミクスを兼ね備えた《マクラーレン570S》。約3.2秒で0〜100kmの加速力は、「多忙な日々に疾走すると最高のストレス発散」と戸賀さん。幸福感が得られ、仕事での怒りや不満も吹き飛ぶそうだ。


エンジンルーム
後部のエンジンルームをオープンメッシュ越しに見ることができる近未来的なリアデザイン。「エルメスのブランケットはゴルフバッグのクッションとして、冬場に妻が同乗する時にはエンジンが温まるまで膝掛けとして使っています」


タイヤ
輝かしいレース歴から構築、軽量化された強靭なタイヤ。「運転しているとステアリングから路面の質感や白線の厚みまで伝わってきます」。


日常使いの愛車と使い分けて楽しむ贅沢

ちなみに、現在所有するクルマは3台。日常使いとして使用頻度が高いのは〈フォルクスワーゲン(VW)〉の《up! GTI》で、購入から4ヶ月で走行距離は4,500km、次に〈ベントレー〉のラグジュアリーSUV、《ベンテイガ》に乗ることが多く、「快適性なら《ベンテイガ》は最高に心地よく静かで、動くホテルのようです。その点では〈マクラーレン〉の真逆。遠方への旅、妻や愛犬が同乗する時に使っていて、購入から1年で13,000kmほど乗っています。SUVは世界的にトレンドですし、2.5トン以下という重量も、都内マンションの立体駐車場の制限に合っています。《up! GTI》は街中用、営業用に重宝していますが、〈VW〉の中でも小さい3ドアなので細い道もスイスイ、駐車の際も一発で駐められます。1976年に誕生した初代《ゴルフGTI》からパワーアップ、性能も上がりましたが、サイズはほぼ初代のまま。マニュアルの右ハンドルで操縦感も味わえます。〈マクラーレン〉とは異なるが、走る楽しさは通じるものがある。価格も手頃でまさに質実剛健。路上では目立たないですが、車好きは見てくれます」

愛用してきたクルマに共通するのは、「使いこなせて、手下のように、前に出ないけど格上げしてくれる存在」。そういう意味では英国屈指の老舗、ベントレーの《ベンテイガ》は「まだ分不相応で、キャリアを重ねていつかもっと相応しい乗り手になりたい」と謙遜する。

後方のシルエット
後方のシルエットもスタイリッシュ。テールで曲がるボディラインは〈マクラーレン〉が最速の加速を実現させるべく、いち早く取り入れたデザイン。「ふくよかで、ギュっと絞られた曲線が美しいデザイン」と称賛。


これからもスーパースポーツがある人生を!

年齢を重ねても変わらないのは、スポーツカーが好きなこと。時代としては脱炭素など環境課題への対応が進んでいくのも事実だが、スポーツカー愛好家の間では、ハイブリッド化や電動化はまだ受け入れづらい風潮があるとか。「ファッションに例えるなら、これまでのようには製造されなくなりそうなエキゾチックレザー製品や毛皮を大事に使う人の気持ちに通じるかもしれませんね。この《マクラーレン570S》も同じエンジンはもう積まれないと思いますので、大切に持っていたい。洗車している時も楽しいと思えるクルマです。自分にとってスポーツカーとは、どんなグルメやエステでも得られない喜びをもたらしてくれるもの」。そして時代に応じて機能やスタイルが変わっても、「スーパースポーツはこれからも人生にあってほしい存在です」

リアデザイン
サーキット用スーパーカーにインスパイアされたスリムなリアデザイン。磨き上げられたボディは見事な流線形が際立つ。重低音のエグゾースト・サウンドも魅力。


夏の午後、都会の通りの人々が羨望する〈マクラーレン〉に、鍛錬された姿で乗り込む戸賀さん。瞬く間に走り去るクルマから聞こえてくる独特の低く深い「ヴォーン ヴォーン」という排気音は、大人の男を想像させる響きだった。さまざまな社会課題を抱えた時代の転換期に、人間の欲望や愉楽をいかに発散し、世相と折り合いをつけるか? 重要なテーマに思えるが、そこは経験や腕の見せどころ。最高に美しい形でそれを表現することが、賛同を得られるひとつの方法かもしれない。しかも社会の制約や節度を知った上で。最速の機能美を備え、疾走する〈マクラーレン〉と一体となってドライブを愉しむ愛用者から、そんなクルマの嗜み方が伝わってきた。


戸賀敬城
Hirokuni Toga
(プロフィール)
学生時代から世界文化社『Begin』編集部でアルバイト、大学卒業後にそのまま配属となる。1994年『MEN’S EX』の創刊スタッフ、2002年編集長に。 2005年『時計Begin』編集長、及び『メルセデスマガジン』編集長を兼任。2006年集英社『UOMO』のエディトリアル・ディレクターに就任。2007年『MEN’S CLUB』編集長に就任、2016年『Esquire The Big Black Book』創刊編集長を兼任。2017年に独立、オフィス戸賀設立。有名ブランドのアンバサダーを務めるなど多岐にわたり活動。

撮影/望月みちか 取材・構成・文/黒部涼子 企画編集/横山直美(cat)

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