
本当のラグジュアリーな食事とは何だろう。
四季折々に旬の食材がとれる日本において、その時に一番美味しいものを食す。それを、自分の手で料理して、大切な人に食べてもらう。食材にこだわり、道具にこだわり、みんなを楽しい気持ちにさせる飯。毎日じゃなく週末だからできる、ちょっとわがままかもしれない“ラグメシ”。
vol.16は、料理初心者にはちょっとハードルが高そうな、自家製パン作りに挑戦。発酵の温度や時間の管理がシンプルな“オーバーナイト発酵”をマスターすれば、本格フォカッチャが驚くほど簡単に完成します。もう一品は、焼きたてのパンと相性抜群な夏野菜のトマト煮込み。油の量を抑えたアレンジレシピで、夏野菜をさっぱり&たっぷり食べられるのが魅力です。
こだわりのTOOL情報や、タロアウトによるDL可能なレシピPDFもあります。
1. フォカッチャ
2. カポナータ
“オーバーナイト発酵”なら、驚くほど簡単に自家製パンが完成!
TAROUT(以下T)いよいよ夏本番。早くも、日差しと湿気で夏バテ気味です。
YOSHIKI(以下Y)そんな時こそ、夏野菜のトマト煮込み「カポナータ」。イタリアンの冷菜の定番で、野菜がたっぷり摂れますよ。
T いいですね!
Y カポナータは、パンに添えて食べると絶品なんです。ということで、今回のもう一品は自家製フォカッチャ!

T 自家製フォカッチャって響き、かっこいいですね。パンが焼ける人は料理上級者な印象がありますし、憧れますが……生地のこね方や発酵が難しそうで、なかなか挑戦できません。
Y そんな苦手意識を持つ方にこそ試していただきたいのが、今回のレシピに用いた“オーバーナイト発酵”です。別名“低温長時間発酵”と呼ばれるこの製法は、たっぷり時間をかけて発酵させる代わりに、発酵の温度や時間の管理がとてもシンプル。パンの作り方の中でもっとも手軽で、初心者でも失敗しにくいんです。
T それは嬉しい! コツを教えてください。
Y 手順を簡単に説明すると、①生地作り、②一次発酵、③生地の形を整える“成形”、④二次発酵、⑤焼き上げ、の5ステップ。オーバーナイトという名前の通り、①と②を焼き上げる前日に行い、生地をひと晩かけて発酵させます。
T 初心者からすると、こねて生地を作るのも、ハードルが高いです。
Y パン生地をしっかりこねる理由は、グルテンをスピーディに形成し、発酵時間を短縮するため。グルテンは小麦粉に含まれる成分で、こねることで弾力や粘性が増し、これがふっくらとしたパン生地のもととなります。ただし今回のように発酵に時間をかければ、グルテンは勝手に形成されるので、入念に生地をこねる必要はありません。材料を混ぜて丸くまとめれば、あとは冷蔵庫でひと晩寝かせるだけ。生地に混ぜ込んだイーストの働きで勝手に発酵してくれます。
T それは確かに楽ですね! 冷蔵庫に入れたら、そのまま放置していいのですか?
Y その通り。ちなみに冷蔵庫に入れるときは、野菜室に入れましょう。冷蔵室よりも一般的に少し高めの庫内温度3〜6℃の野菜室が、ちょうど発酵に適しているんです。
T なるほど。
Y 8〜10時間寝かせたら、次のステップです。耐熱容器に生地を広げて成形したら、二次発酵を行います。
T また発酵させるのですか!?
Y 一次発酵と同じくらい簡単なので、安心してください(笑)。耐熱容器ごと湯せんするだけ。またまたイーストの働きでほどよい量のガスが発生し、パンがよりふっくら焼けますよ。
T 時間はどのくらいでしょう?
Y二次発酵は時間をかけすぎると過発酵になります。過発酵になると、“表面がボコボコになる、生地がだれる、甘みが無くなる、焼き色がつきにくくなる”などの問題が起きますので、30分ほどにしてください。
T 先ほどからちょくちょく登場する、イーストの正体とは何でしょう?
Y イーストはいわゆる酵母のことで、微生物なんです。糖分をアルコールと炭酸ガスに分解する働きがあり、そのガスによってパンが膨らむというわけです。
T なるほど! しかも30分程度なら、他の料理と同時進行できますね。
Y その通り。そこでぜひ作ってほしいのが、フォカッチャと相性抜群な野菜のトマト煮込み、カポナータです。
T ラタトゥイユのイタリア版みたいなものですよね。違いは何ですか?
Y 塩・コショウのみのシンプルな味付けのラタトゥイユに対して、カポナータはビネガーと砂糖を入れて甘酸っぱく調味する点です。ラタトゥイユは南フランス、カポナータはシチリア地方発祥の料理で、いずれも冷やして食べるのが特徴です。
T夏にぴったりということですね。特に甘酸っぱいカポナータは食欲もそそりそう。
Yカポナータは、野菜を素揚げしたり、たっぷりの油で炒めてからトマトソースで煮込むので、わりとオイリーで少しの量で満足する、まさに前菜。今回のレシピは、油の量を控えめにするためにオーブンで野菜を焼きます。そのほうがあっさりとして、たっぷり野菜を食べられますからね。

T ヘルシーですね! ありがたいです。
Y 通常は野菜を揚げ焼きしたり煮込んだりするところを、今回は野菜を焼いている間にトマトソースを作り、最後に混ぜ合わせる方法にアレンジ。煮込む時間も、焦げないように混ぜる手間も省きました。野菜が煮崩れしないので、見た目もきれいに仕上がりますよ。
T あとは、冷蔵庫で冷やしながら味を染み込ませるだけですか。これら2品がレパートリーに加わるだけで、夏のおもてなし料理がぐんと華やかになりますね。
Y フォカッチャは、焼く前にローズマリーやドライバジルなどのハーブを載せれば、手軽にアレンジができますよ。
T オリーブやドライトマトを載せても美味しそうですね。
Y さすが。ぜひ試してみてください。キンキンに冷やした白ワインが進みますよ!
1. フォカッチャ

【材料/4名分】
A
小麦粉 300g
塩 7g
B
ぬるま湯 180ml
オリーブオイル 20g
砂糖 10g
ドライイースト 3g
オリーブオイル 適量
ハーブ(好みで) 適量
【作り方】
1<生地作り①> AとBをそれぞれ別のボウルに入れ、ともによく混ぜておく。AにBを加え、フォークで混ぜ合わせる。粉っぽさがなくなったら、手で2分ほどこねてひとまとめにする。



2<生地作り②>ひとまとめにした生地を一旦取り出し、台の上で棒状にして転がす。手に生地が付かなくなったら、球状に丸める。



3<一次発酵>濡れた手で生地の表面を湿らせてから、ラップをして冷蔵庫の野菜室に入れる。1.5〜2倍に膨らむまで8〜10時間ほど置く。写真は膨張前(左)と膨張後(右)の目安。

4<成形> 生地を冷蔵庫から取り出し、クッキングシートを敷いた耐熱容器やバットの上に置く。手のひらにオリーブオイルを塗り(分量外:小さじ1程度)、生地を押しながら広げて、容器の大きさに合わせて成形する。生地の厚みの目安は2cm前後。



5<二次発酵> 生地を入れた容器にラップをし、さらにひとまわり大きなサイズの容器に重ね、約40℃のぬるま湯を入れて浮かべる。生地が1.5〜2倍に膨らむまで30分ほど置く。ぬるま湯の温度は時間とともに下がっても気にせずOK。

6<焼き上げ>湯煎から取り出してラップを外し指で全体にまんべんなくくぼみをつけたら、生地の表面にオリーブオイルをスプーンで塗り(大さじ1程度)、好みでローズマリーやバジルなど、ハーブを散らす。180〜200℃予熱したオーブンに容器ごと入れ、好みの焼き色になるまで、18〜24分ほど加熱する。

2. カポナータ

【材料/4名分】
ズッキーニ 1本
ナス 3個
パプリカ(黄、赤)1個ずつ
タマネギ 1/2個
ニンニク 1片
オリーブオイル 大さじ2
塩 小さじ1/4
A
ホールトマト 1/2缶(200g)
ニンニク 1片(皮を剥いてスライスしたもの)
バジル 1枝
白ワイン 50ml
オリーブオイル 大さじ1
白ワインビネガー 小さじ1
砂糖 小さじ1/2
塩 小さじ1/4
(調味用)
塩・コショウ 適量
【作り方】
1 ズッキーニ、タマネギ、パプリカは2cm角に切る。ナスは3cm角に切る。ニンニクはスライスする。オーブンは180℃に予熱する。
2 1の野菜をボウルに入れ、オリーブオイル大さじ2、塩小さじ1/4を加えて混ぜ合わせる。クッキングシートを敷いた天板に並べ、オーブンに入れて15〜25分、ナスが柔らかくなるまで加熱する。
3 鍋にAを入れ、とろりとするまで中弱火で加熱する。ゴムベラなどで引いた線が保たれる状態まで濃度が出たら火を止める。

4 2を3に移して混ぜ合わせ、塩・コショウで味をととのえる。
【POINT:野菜は炒めずにオーブンで焼く】

【今月のこだわりTOOL1:『LESAFFRE(ルサッフル)』のイースト】

【今月のこだわりTOOL2:『タニタ』のデジタルクッキングスケール】

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料理家。イタリアでの修業後、日本で野菜作りをしながら活動を開始。料理教室、ケータリング、飲食店立ち上げ、雑誌やテレビ出演等多岐にわたって活躍。王道のイタリアンから、アレルギーやヴィーガン対応の旬の野菜を使ったイタリアンも提案。日本では2020年に初めて開催された料理コンテスト「ベジタリアンチャンス ジャパン第1回」にて〈サスティナビリティ賞〉を受賞した。書籍は『野菜のスープ』(主婦と生活社)、『野菜のチップス・果実のチップス』(文化出版局)。http://fujitayoshiki.com/

キャラクターアーティスト。ひとつひとつに愛情あふれるストーリーを設定して誕生させる作品が、国内外から絶大な支持を集める。これまでディオールやフェンディ、ポール・スミス、ナイキなど、名だたるブランドとコラボレート。また、現在『VOGUE GIRL』で大人気連載中の「しいたけ占い」のキャラクターデザインを担当。運動を始めてから健康を意識する中で料理に目覚め、藤田氏とフード&デザインユニット「LUNNY’S VEGGIE」を結成。2017年、「未来の笑顔をシェアする」をコンセプトに活動をスタート。
題字デザイン/タロアウト 撮影/野頭尚子 文/中西彩乃 企画編集/横山直美(cat)