精進料理


多くの人にとって、精進料理は“仏事で食べる少し味気ない料理”というイメージかもしれない。しかしながら、創業70年超の老舗「精進料理 醍醐」が提供するのは、季節を取り入れ手間暇かけて作られた、驚くほど深い味わいの品々だ。アクセス至便な地で四季の移ろいを感じながらいただく、心身ともに浄化されるような精進料理の世界をご案内します。

静謐な空気に満ちた、都会のオアシス

都心にありながら、どこかゆったりとした空気が流れる愛宕。「醍醐」は戦後間もない1950年にこの地に創業した。当時店を構えていたのは曹洞宗の寺院・青松寺の境内。現在は隣接する愛宕グリーンヒルズの高層ビル内に移転したものの、エントランスでは豊かな緑が出迎える。

店内はすべて個室で、全室が美しい日本庭園を臨む。部屋に通され、庭を眺めながら料理を待つのもとびきり贅沢な時間だ。

エントランス
入り口はふたつあり、青松寺に近い側からは2階の店舗に直接入ることができる。青々とした木々に囲まれたエントランス。


個室
店内は2〜58名用の個室が全8室。掛け軸や生花のしつらいも見事で、調度品のなかには重要文化財指定の作品も多い絵師・狩野探幽の掛け軸など美術館所蔵級の逸品も。


数寄屋造りの店内
ゆったりとした数寄屋造りの店内は非日常感たっぷり。着物を纏い、きびきびと働く仲居さんによるサービスも心地よい。


漠然とは知っていても、普段はあまりなじみのない“精進料理”というジャンル。4代目にあたる料理長・野村祐介さんはこう解説する。
「ごく簡単にいうと、仏教の『殺生をしない』『無駄をしない』といった教えをふまえ、食事をふるまう方へ心を尽くす料理です。日本の精進料理は大きくふたつに分けられます。ひとつは一汁三菜を基本とする門前型の精進料理。もうひとつは飛騨高山で文人墨客をもてなすために発展した懐石形式の精進料理で、当店はこちらにあたります」

精進料理とは“三心”が込められた料理

一般的に精進料理は“肉や魚を使わない料理”と認識されるが、“精進料理=野菜料理”ではないと野村さん。

「精進料理の本質は、道元禅師が料理を作る際の心得と説いた“三心”、つまり喜心(感謝の心)、老心(思いやりの心)、大心(広く寛大な心)が込められていること。召し上がる相手を思いながら、創意工夫し、手間を惜しまず美味しさを引き出す過程にあると思っています。ここが単純な野菜料理との違いです。仕込みに数日かける料理も少なくありません。精進という枠組みのなかで、和食らしい五味・五色・五法を大切にしながら、食の楽しさや大切さを感じていただける料理を目指しています」

多様な調理法で素材の彩りと味わいを引き出しながら、四季を取り入れた料理を提供する「醍醐」。序盤に出される「御吸物」は、この日は「順才椀」。美しい塗りのお椀によそわれた澄まし汁には、ジュンサイやキンシウリ、そしてコクのある団子状の具材が浮かぶ。こちらの正体は?

「濃厚なツクネイモをつぶして油で揚げたものです。しつこさが出ないよう余分な油は切って入れています。野菜にはほぼ油分がないので、少量足すことでうまみがぐっと引き立つんです」

椀物
「御吸物:順才椀」ジュンサイのほか、キンシウリ、スライスした小メロン、ツクネイモなどが入る。すっと体に染み込むような優しい味わい。内側に蒔絵が施されたお椀にも息を呑む。


続いては懐石料理でもとりわけ目を引くひと皿「八寸」。涼やかな切子の皿に、青梅やアジサイ麩など季節を感じる品が並ぶ。色とりどりの見た目同様に味もバラエティ豊かで、コリコリとした食感のマコモダケ、ジュワッと甘酸っぱい青梅、ねっとりとコクがある豆腐の味噌漬けなど、ひとつひとつ味わっていくのも楽しい。

「青梅は約2日間、70度ほどでじっくりと炊き、その後さらに2日かけてゆっくりと蜜を入れます。銅鍋を使うことで鮮やかな青になるんですよ。豆腐の味噌漬けはガーゼに包んだ豆腐を灰の中に入れて水分を抜き、そこから味噌漬けに。マツタケは味がしみこむよう、生の状態で一度凍らせ、解凍してから調理しています」

八寸
「八寸」上から時計回りに、青梅の甘煮、ヤングクコーンの照り焼き、マツタケの煮物、豆腐の味噌漬け、アジサイ麩、マコモダケのきんぴら。紫陽花が添えられ、いっそう季節感が引き立つ。


“うまみの塊”である野菜をたっぷりと堪能

肉や魚を使わない精進料理で、メインディッシュ的な役割を担うのが煮物や揚げ物だ。「煮物」の「加茂茄子の煮おろし」は定番メニューのひとつで、身の詰まったカモナスを丸ごと1個、オーブンでじっくりと火を通している。たっぷりと敷かれた大根の煮おろしに絡めながらいただくと、ほどよい歯応えとジューシーさに香ばしい焦げ目がアクセントとなり、ついつい箸が進む。

「『野菜は線が細く、物足りないのでは』という方もいらっしゃいますが、実は野菜はうまみの塊。水を極力加えず調理することで野菜のうまみを引き立たせ、ボリューム的にもご満足いただけるひと皿にしています」

煮物
「煮物:加茂茄子煮おろし」色や形はまるでハンバーグのよう。カモナスはオーブンで約1時間調理。身が締まっているため、トロトロにならず、ほどよく歯応えが残る。


締めに出される「甘味」は白玉のお汁粉。年間を通したメニューながら、夏は冷やされジュンサイが入った特別仕様に。ほのかに苦く、つるりとした喉ごしのジュンサイはお汁粉と意外なほど好相性だ。

甘味
「甘味:冷やし汁粉」「ウイスキーと召し上がっていただくのもおすすめです。すごく相性がいいんですよ」と、ワインソムリエの資格を持ち、ウイスキーにも詳しい野村さん。


メニューはすべてコースで、昼は4種、夜は3種を用意。基本的には肉や魚といった動物性の食材や乳製品は使わないものの、ごく少量の卵と鰹節は使用。前日までにリクエストすれば、動物性の食材を一切使わない調理も可能だ。和を感じる空間で供される滋味深い料理は、長きにわたって国内外のセレブリティにも高い支持を受けており、『ミシュランガイド 東京』では創刊以来10年以上にわたり2つ星を獲得している。

「フルコースで召し上がっていただいても、翌日の体が軽いと実感いただけると思います。料理を味わいながら、建物、庭園、生け花、掛け軸といったあらゆる作品を堪能できる料亭はいわば総合芸術。日本のそういった食文化を受け継ぐという意味でも、まずは100年、2050年までは続ける義務があると考えています。8〜9割はこれまで培ってきた伝統をベースに、僕の経験やアイデアを1〜2割入れながら、時代に即した、満ち足りた場を提供していきたいですね」

古来より受け継がれてきた精進料理は、ストレスフルな現代の癒しに。四季を愛でながらゆったりと過ごす「醍醐」でのひとときは、とっておきのエスケープとなるはずだ。

野村祐介料理長
野村祐介料理長。精進料理の魅力を国内外へ発信すべく数々のプロジェクトに携わる。「祖母が創業した『醍醐』を大切に守りつつ、今後はもっと気軽に楽しめるヴィーガン料理なども提案できたらと思っています」



【ショップインフォメーション】
「精進料理 醍醐」
東京都港区愛宕2-3-1
☏ 03-3431-0811
営業時間
Lunch : 11:30∼14:00(最終入店)
Dinner : 17:00∼20:00(最終入店)
Lunch
菊懐石15,180円、梅懐石18,975円、竹懐石21,505円、蘭懐石24,035円
Dinner
梅懐石18,975円、竹懐石21,505円、蘭懐石24,035円
*消費税・サービス料込
休 年始のみ
http://www.atago-daigo.jp

撮影/松村隆史 構成・文/末元妙実 企画編集/横山直美(cat)

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