「世界にひとつ」を日常に迎える幸福、 竹村良訓のうつわ


うつわはおもに料理のためのものですが、作家が作るそれには暮らし方や社会の捉え方まで変えてくれるほどの思想があります。それを知ることはアートに心動かされる感覚ともよく似ていて、かかわることで自分の中の何かが変わるような体験。そんなうつわの「名作」をたどる連載の第16話は、豊かな色彩で人の心を癒す竹村良訓さんのうつわ。

陶芸はもっともっと自由でいい

陶芸家の竹村良訓(たけむら・よしのり)さんは「色の魔術師」。フォルムはシンプルながら、60種以上あるオリジナルの釉薬を自在に組み合わせて、アート作品のように色鮮やかなうつわを生み出します。驚くのは、それがすべて一点ものだということ。竹村さんは、世界でひとつのうつわに出合い、自分のものにしていく喜びを教えてくれる作家です。

竹村さんが陶芸を始めたのは、美大のサークル活動がきっかけ。その後、大学院に進み古陶磁の研究や復元に携わりました。一方、姉の影響で幼い頃から女性向けのファッション誌をよく見ていたという竹村さん。めまぐるしく変化するトレンドの中で、色が人の心に与えるワクワク感のようなものを自然と身につけたのでしょう。それを陶芸にいかしてみると、日本人離れした色彩感覚が花開き、インテリアショップやファッションストアを中心に取り扱いが始まり、多くの人に親しまれるようになりました。

釉薬
二色の釉薬を掛け分けて、絵画のような風景を生み出す。


唯一無二のうつわを作り続ける

竹村さんは、釉薬を「掛ける」ではなく「着せる」感覚で制作します。「うつわにとって釉薬は洋服のようなもの。形をじっくり観察することで、それぞれに合った色の組み合わせが浮かんでくるんです。人によって似合う服が違うように、そのうつわにだけ合う色を選び着せてあげたい」といいます。それは、世界にたったひとつの、再現性のないもの作り。続けていくのは大変なのでは? と聞いてみると「毎日変わり続けることこそ、自分のスタイル。気分が刻々と変わっていくことが自然なので、同じものを作ることのほうが難しいんです」

竹村さんは、SNSを見るのが好きだと言う。「陶芸に限らず、ファッションやインテリア、風景写真など気になるものばかりです。そこからインスピレーションが蓄積され、自分の表現に生かされることもあります」。SNSにストレスを感じる人も少なくない現代社会において「情報が多いことを楽しむ」という考え方は、聞いていて気持ちがいい。何事も面白がって、ストレスなく制作できる状態にあることが、クリエイティブでいるために一番大切なことだと竹村さんは考えている。

ボウル
ニュアンスカラーの掛け分けボウル、野菜の色とのコーディネートを考えるのも楽しい。展示会などで販売。(問い合わせ先:https://www.instagram.com/takemurayoshinori


焼物として、美しいもの

クリエイティブでいることを楽しむ竹村さんですが、焼物として上質であることもその作品の魅力だと筆者は感じています。ろくろの技術が高く、適度に薄くて軽く、使いやすいうつわ。斬新な色合わせには、部分ごとに釉薬の色を変える「掛け分け」や、釉薬を飛ばすことでランダムなドット柄をつける「とばし」といった伝統的な陶芸の技法が生きています。ポップなうつわでありながら、現代まで続いてきた日本の陶芸文化の息づかいを感じさせる品格を備えているのです。その理由は、学生時代に古陶磁を研究し焼物をよく知る作家だからかもしれません。

新しさを生む、発想の転換

古きを知りつつ、常に新しいことに挑む竹村さんの新作は、マーブル模様のうつわ。大理石のようでいて、自然界にはない色あわせ。陶芸作品だから表現できるクリーミーな模様が新鮮です。これも「練り込み」と呼ばれる陶芸の伝統的技法をアレンジしています。

マーブル模様のうつわ
マーブル模様のうつわ
自分だけのマーブル模様を見つけたくなるマグカップや花器。展示会などで販売。(問い合わせ先:https://www.instagram.com/takemurayoshinori


「練り込み」とは、金属や顔料を混ぜて着色した土を、二色以上、重ねたり、練り込んだりすることで模様を出す技法。重ねた土の断面をいかして、ストライプや市松模様を表現したり、数色の土を組み合わせて金太郎飴のように絵を描き、模様とするのが一般的です。一方、竹村さんのマーブル模様の「練り込み」は、複数色の土を作りランダムに混ぜるところにオリジナリティがあります。あとは、ろくろを引くだけ。ろくろの回転により土が伸び、引っ張られることで、太くでる色もあれば、細い線となる色もある。どんな風に色が混じり合うかは、作家本人にも予想がつきません。こうした偶然性を生かす作り方も、竹村さんの言う再現性のないもの作りのひとつなのです。

マーブル模様のマグカップ
うつわの底面
うつわの取手
とろけるように優しいマーブル模様は、二色以上の土を混ぜ成形する「練り込み」という技法で生まれる。

ハッピーなうつわを作りたい

「ワクワクしながら作れているかと常に自分に問いかけています。僕が作るものは人の手に渡って初めて、存在意義を持ちます。今は、少し大変な世の中なので、ハッピーなうつわを作りたい。気持ちが高揚したり、リラックスできるようなものを届けていきたいと思っています」。そのためには、自分も楽しむことが大事。常に変化することを怠らず、突き進む陶芸家は、これからも陶芸界に新しい風を吹かせ、明日のうつわを変えていくのでしょう。

(展示情報)
Tekemura Yoshinori
-collection blue-
2021年7月20日(火)〜8月1日(日)
場所:ギャルリー・ヴィー 自由が丘店
https://galerievie.jp/
*展示予定は変更することがあります。



竹村良訓
(プロフィール)
1980年、千葉県生まれ。武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科で木工を専攻。サークル活動で陶芸に出会う。東京藝術大学大学院保存修復学科(工芸)にて古陶磁の研究と復元に携わる。現在は、陶芸家として活動、陶芸教室も行っている。
https://www.instagram.com/takemurayoshinori
衣奈彩子 うつわライター/編集者
(プロフィール)
女性誌編集部を経て2005年独立、子育てをきっかけに家族のおいしい食卓に欠かせないうつわにはまる。なかでも同世代の作家が想いを込めたふだん使いのうつわが気になって仕方がなく、仕事とプライベートの垣根なく作り手と交流し取材を重ねる。うつわを中心に手仕事や暮らしにまつわるテーマで執筆の傍ら、作り手の思いを伝える書籍の編集にも携わる。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)、編著に『料理好きのうつわと片づけ』(河出書房新社)
https://www.instagram.com/enasaiko

撮影/白石和弘
http://shiraishikazuhiro.com/

企画編集/横山直美(cat)

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