黒部和夫さん
ファッションのカジュアル化が進む昨今、黒部和夫さんがあらためて良さを実感している名品のひとつが、ボタンダウンの元祖〈ブルックス ブラザーズ〉の《ポロカラーシャツ》。襟のロールが美しいシャツに、発色の良い〈クルチアーニ〉のコットンニットや〈パテック フィリップ〉の腕時計を合わせて。


学生時代を過ごした1970年代から、激動のファッション変遷を体験してきた黒部和夫さん。長年国内外の有名ブランドの商品開発やPR、トレンド分析を行ってきた専門家が今、愛用しているアイテムとは? 中でもカジュアル化傾向の時代に重宝しているのは、伝統に育まれた究極の定番シャツだと言う。

カジュアルな時代にこそ上質のシャツを

「ここ数年、快適性を追求した新たなビジネスウエアが台頭するなど、世界のメンズファッションはカジュアル化の流れが顕著です。一方でビスポークのような旧来の手仕事が注目される動きもありますが、世の中を俯瞰するとリモートワークの拡大やアウトドア人気など、ライフスタイルの傾向はやはりカジュアル。日常の心地良さを求める方向だと思います」。そう分析する黒部和夫さんが今、「ちょうどいい頃合い」と好んで着ているのが、日常的に活用できる上質な定番シャツ。かつて魅了された名品を再び購入することで、今なお現役の優れたデザイン性や品質の高さを確信し、定番の良さを改めて実感している。

ポロシャツの原型となった〈LACOSTE(ラコステ)〉の《L.12.12》

LACOSTE(ラコステ)
ポロシャツの原型となったラコステの定番《L.12.12》を愛用。(左)2017年、大丸百貨店の創業300周年に数量限定発売されたフランス本国製。(右)グリーンの色が気に入って最近購入した通常モデル。いずれも綿100%で、ゆったりめの「クラシックフィット」は不朽のデザイン。


「ポロシャツなら、例えば〈ラコステ〉の《L.12.12》は永遠の名モデルだと思います」。テニスプレーヤーのルネ・ラコステが開発に関わり1933年に誕生したこのモデルは、現在のポロシャツの原型。「機能性を備えた汗止めになる襟と袖口のリブ編み、2つボタンのバランスが素晴らしく、綿100%の高級糸で編み上げた鹿の子(凹凸の構造によって肌への接触面が少ない)のさらっとしたが風合いも天然素材好きに嬉しい定番です」

ラコステ
フランスのテニス文化から生まれた品格が漂う《L.12.12》(モデル名はルネ・ラコステが選んだ試作品ナンバーが由来)。「綿の高級糸で編み上げた鹿の子の贅沢な風合いが素晴らしい定番モデルで、ワニも可愛い。フランス製は襟が柔らかめなところに愛着があります」と黒部さん。


「最初に買ったのは、1970年代に雑誌『ポパイ』で“フレンチラコ”が特集されたのを見て、上野の輸入品店に飛んで行って買ったのを覚えています」。フレンチラコとはフランス製ラコステのこと。当時、他国製の異なるモデルがさまざま登場したことから区別して呼ばれた。
「時を経て、近年また着用するようになったきっかけは2017年、大丸百貨店300周年の年に、かつて着ていたフランス製が限定発売された時。東京店に行って即買いました」。フランス本国製で今では貴重な逸品だが、特別なロゴなどが入っていないのも潔く、定番の自信も感じられるとか。「デザインは普遍的ですが、フレンチラコは独特の襟の柔らかな風合いが好きです」
もっとも、フランス製に限らず《L.12.12》は世界的に基本仕様が安定しているのが魅力で「特に日本製は素材、縫製も第一級。日本展開の商品は保障サービス(条件付き)も提供するほど」と信頼を寄せる。「最近は日本でギフトにも購入しましたし、以前イタリアで見つけたグリーンはベージュ系のボトムに合い、チノパンツにぴったりです」

ボタンダウンの元祖〈Brooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)〉の《ポロカラーシャツ》

ブルックス ブラザーズ
(中央)近年買い足した〈ブルックス ブラザーズ〉の《ポロカラーシャツ》。(左・右)1970年代の学生の頃買った同型のシャツ。「身幅や腕周りがゆったりした型が今また気分です。同社が日本に本格上陸する前は、父に頼んで海外出張時に買ってきてもらっていました」


「〈ブルックス ブラザーズ〉のボタンダウンシャツは、米国製のスーピマコットン100%のトラディショナルなタイプを着ていますが、厚手で“洗いざらしのオックスフォード“と親しまれる生地はアイロンなしでも着られて心地いいです。70年代から80年代に着ていた、身幅や腕周りのゆったりした型と同じものを近ごろ買いましたが、何周か回って今またちょうどいいんです」
ボタンダウンシャツは〈ブルックス ブラザーズ〉が偉大な原点。英国のポロ選手がシャツの襟先が跳ねないようボタンを付けていたことに着想したことから、同社では《ポロカラーシャツ》(1896年に誕生)と称しているが、リーバイスのジーンズと並びこれほど模倣されたものはないと言われるデザインだ。「一番の魅力は襟のロールが大きくきれいなこと。ボタンホールを襟先ギリギリの絶妙な位置に作る技術で、美しい立体的な襟ができています。男性は50歳を過ぎると年齢が首に出やすいので、襟元にボリュームがあると若く見える効果もあるようです。また米国の歴代大統領やアイビーリーグの学生に愛されてきた名品は、幅広いオケージョンで活用できます。アメリカ的な合理性を備え手入れも楽。頻繁に洗っても丈夫です」

ブルックス ブラザーズ
英国式デザインのネクタイやフランチトラッドの靴とともに。かつて薫陶を受けた紳士服の師のひとり、アラン・フラッサー(『CLOTHES AND THE MAN』の著者で、映画『ウォール街』の衣装でも知られるデザイナー)流スタイルで。「今ボタンダウンのシャツにネクタイを着けるなら、私ならレジメンタル・ストライプ。基本のシルクの綾織を選びます」


カジュアル・ビズにふさわしい〈GUY ROVER(ギローバー)〉の鹿の子シャツ

ギローバー
長年にわたり買い足してきたイタリアのシャツメーカー〈ギローバー〉の綿100%の鹿の子シャツ。「ドレスシャツの基本を押さえ、伸縮性のある素材はきちんとしていながらシワになりにくく便利です」


また昨今のカジュアル・ビズ時代にふさわしく、継続して購入しているのが〈ギローバー〉の鹿の子シャツ。「伸縮性がありシワになりにくく、襟が立つ台襟があるなどドレスシャツの基本も押さえているので、出張や旅行にも便利。台襟がないシャツにジャケットを羽織ると襟元がペタンとして貧相に見えるので要注意ですが、その点でも理想的です。ファッションショーや展示会で海外出張が非常に多かった20年程前に、ミラノで見つけて『これだ!』と思いました」。有名ブランドからの製造も請け負う高級シャツメーカーだが、手縫いではなくマシン製造のため価格も手頃だとか。

ギローバー
台襟付きシャツは、襟が立体的になるためジャケットを羽織っても映える。1967年創業の実績あるシャツメーカーならではのデザイン。


「私が愛用しているのは、ミラノの名店アル・バザールの別注モデルの長袖。ミラノに行くたびに買い足してきました」。イタリアでの大ヒットにより、その後日本でこの別注シャツの類似品は散見したが、ドレスシャツの基本形をアレンジし過ぎていたり、バランスが良くなかったりと、洗練されて見えなかったと言う。
「近年は日本でも〈ギローバー〉は流通していて、鹿の子シャツの半袖もよく見かけます。日本の夏には半袖もいいですし、長袖も腕まくりをすれば涼しく万能。イタリアでは紳士が街中で半袖を着るのは良しとしない方々もいるので私は長袖を重用しています」

ギローバー
〈ギローバー〉にミラノの名店アル・バザールが別注して生まれたモデルを愛用。「深いグリーンのシャツには〈ラルフ ローレン〉のベネチアンレッド色の綿スカーフを合わせると好相性です」


環境の変化に伴い、ライフスタイルの再考や持続可能性が重視される今、黒部さんが買い物の決め手にしているのは「投資する価値」があるか。今回紹介した不朽の定番のように、時代を超えて長く使える物には投資価値があり、共通点もあるそうだ。
「若い頃から散々洋服を買い、不用品は処分しながらも、投資したからわかることもあります。長く愛用してきたアイテムに共通する良さは、第1に汎用性。いろいろな物に合わせが効くこと。着回しが難しい物はもったいないです。第2に耐久性。素材や縫製の良さが重要ですが、それには持続可能な製造環境も大切だと思います。永続的な定番の名品はこうした要素を備え、その定番モデル自体が信用度の高いひとつのブランドだと言えます。そして私の場合、服を選ぶ時、商品の面構えとも言える“顔”も見極めます。名品はいい顔をしていて、デザインの美しさのみならず品性や風合いといった良さも伝わってきます。今回の定番商品は皆いい顔をしていますよ」
今では厳選して買い物をするようになったが、やはり店舗でいい顔の商品を見ると心躍るものだとか。「じっくり長く使える名品を買い足していきたいと思っていますが、欲しいものはいろいろ。次はどんなワードローブを構築していこうか考えるのも楽しいです」


黒部和夫
Kazuo Kurobe
(プロフィール)
大学時代からファッション業界に携わり雑誌での取材やスタイリングを経験。1983年アパレル企業に入社。国内外の有名ブランドの企画を経験後、商品開発室長として新商品の開発やPRマーケティング戦略を担う。メディアや全国百貨店でのイベント等に多数出演。2014年ファッション・コンサルタント/評論家として独立。小売業のMDやバイヤー向けトレンド分析、広告ディレクションを手がけるほか教育やアパレル業界団体で活動。日本流行色協会メンズカラー選定委員も務める。
撮影/望月みちか 取材コーディネーション・文/黒部涼子 企画編集/横山直美(cat)


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