A.ランゲ&ゾーネは、スイスの3大時計メーカーとして名高い、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲに加え、同じくスイスのブレゲとドイツのA.ランゲ&ゾーネを加えて世界5大時計ブランドと称されています。

他の4つのメーカーはいずれもスイスですが、A.ランゲ&ゾーネは唯一のドイツのメーカーなのです。もともとカメラやレンズなど精密機器に強いドイツの伝統を背負ったA.ランゲ&ゾーネ。いったいどのような時計なのでしょうか。今回は、A.ランゲ&ゾーネの魅力に迫っていきます。

ドイツ時計の特徴

スイス時計に比肩する、ドイツ腕時計の至高「A.ランゲ&ゾーネ」の魅力に迫る
(画像=Kateryna/stock.adobe.com)

ドイツの東端では、1800年代中ごろから精密機械産業が盛んになりました。それと並行して南西部でもポルシェ、ダイムラー、ユンハンスなどをはじめとする世界的大企業が多く隆盛し始め、この2つの工業地帯を軸に群雄割拠の様相を呈していました。

一時はスイスの時計産業をもしのぐほどの勢いを見せており、勝るとも劣らない品質の時計を量産していた歴史があるのです。代表的なブランドとしては、A.ランゲ&ゾーネ、グラスヒュッテ、ノモスなどがあり、これらは無駄な装飾を省いた、質実剛健さと機能美が体現されたデザインが特徴です。

この中でも、時計産業をここまで盛んにした祖であり、至高の品質を誇っているのがA.ランゲ&ゾーネなのです。

ブランドの消滅と復興を遂げたA.ランゲ&ゾーネ

ドイツの時計産業をけん引する存在であるA.ランゲ&ゾーネですが、現在の地位を勝ち得るまでには決して順風満帆とは言えない道のりがありました。そのストーリーを紹介しましょう。

ドイツの時計産業の起こり

ドイツの時計産業の起源はザクセン地方に銀鉱脈が発見されたことに始まります。ここに多くの鉱山労働者や商人、炭焼きの職人、金属加工の職人らが集まり、ドイツ経済に繁栄をもたらしました。

その後ザクセンは選帝侯アウグストの治めるところとなり、王宮で使用される装飾品などを製作するため手工業が発達します。ドレスデンは芸術と文化の中心地となり、天文学も発達、毎日正午に王宮の標準時刻を定めるようになりました。

ザクセンは、1796年ナポレオンに敗北、そのナポレオンは1813年ライプチヒの戦いで敗北してしまいます。国土の5分の3を失い、人口は半分となりました。さらにこの後の10年間で産業革命によって大量生産をするようになったイギリスから物資が流入し、ドイツの経済はますます悪化していきます。

ランゲが工房を設立

ザクセンの経済復興を支えるため国家もいろいろな手だてを考えていたころ、フェルディナント・アドルフ・ランゲ(1815-1875年)は生まれました。ドレスデン技術学校を出た彼は、高名な時計師ヨハン・クリスチャン・フリードリッヒ・グートケスに弟子入りし、類いまれな才能を見いだされます。

1845年、ランゲは貧困に陥っていたグラスヒュッテの若者たちに職業を与えるためとして、ザクセン王国内務省から承認をとりつけ、工房を設立しました。これがA.ランゲ&ゾーネの始まりです。

当時はドイツに初めて鉄道が開通して間もないころで、時間の感覚が急速に変化していたころ。時計の需要も急速に増加して来ていたのです。

戦争による壊滅的打撃と復活

1945年の終戦前夜。A.ランゲ&ゾーネの本社屋は空襲で破壊されました。なんとか会社を再興しようと努力していたところに、1948年ソ連占領地域下にあった会社は東ドイツ政府に接収されてしまいます。A.ランゲ&ゾーネというブランドもなくなってしまいました。

それから41年後、1989年ベルリンの壁が崩壊。1990年になるとフェルディナント・アドルフ・ランゲのひ孫にあたるウォルター・ランゲは、A.ランゲ&ゾーネの工房を新たに設立する計画を立てます。工場も従業員もない状態から、再びザクセンで世界最高の時計を作りたいという思いだけで、わずか20年余りで世界5大メーカーの1つに称されるほどの復活を遂げたのです。

A.ランゲ&ゾーネの妥協を許さないムーブメント製造

A.ランゲ&ゾーネはマニュファクチュールであり、1つ1つの部品製造からすべての工程を自社で行っています。

1つのモデルに1つのムーブメントというのがA.ランゲ&ゾーネの時計の特徴です。1つのムーブメントは数百個の部品から構成されます。すべての部品には、最高の精度が要求されるため、製造する時の誤差を極限まで少なくするべく、最新型のフライス盤やワイヤ放電加工機を使用します。

さらに特筆すべきは、「2度組」という工程です。普通なら組み上がった部品はムーブメントとして完成され、ケースに収められるところですが、A.ランゲ&ゾーネではもう1回分解して洗浄し、各部品に表面仕上げと装飾を施し、再度組み立てます。

どんなに注意深く組み立てたとしても、調整するときに小さな傷が入ったり、ほこりが紛れ込んだりする可能性を排除できないというのがA.ランゲ&ゾーネの考えなのです。

A.ランゲ&ゾーネの注目モデル3選

ここで、A.ランゲ&ゾーネを代表するモデル3つをご紹介しておきましょう。

注目モデル1:グランド・ランゲ1

文字盤やダイヤルを見やすいようにデザインしてから、それに合わせてムーブメントを設計するという、実に手間のかかる方法で作られたのがこのグランド・ランゲ1です。

時計としての大きさのバランスを最適なものにするために、薄さにもこだわっています。見やすい時計にするには若干直径を大きくしますが、そのためには軽さを出すためにムーブメントを薄くする必要があります。

手巻き式ゼンマイのモデルがランゲ1ですが、ゼンマイのひげはすべて自社製造であり、最高の精度を誇っています。文字盤の右についている1本針のメーターはゼンマイの解け具合を示すパワーリザーブ表示です。

注目モデル2:1815

1815とは、創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲの生誕した年です。青く焼き上げたスチールの針、アラビア数字の文字盤、そして線路のような目盛りのデザインは往年のA.ランゲ&ゾーネ製時計をほうふつとさせ、170年以上も連綿と受け継がれてきた時計作りの伝統が、そのまま時計に作り上げられたといってもいいでしょう。

ムーブメントにも、いたるところに伝統の技術が用いられており、それを腕に着ける時、おのずと姿勢が正しくなるほどの魂が込められているのを感じます。

注目モデル3:ツァイトヴェルク

世界中の時計好きが仰天してしまうような新発想です。なんとこれは、「ゼンマイ式の機械デジタル時計」です。この時計の開発時、設計技師たちはいっさいの常識と既成概念を捨てて、機械式であること以外のすべての事柄を見直しました。

結果としてできたのが、現代の機械式時計では最高水準の技術を詰め込んだ、デジタル表示式の1本の時計でした。

デジタル表示がゼンマイの機械式で動くという驚くべきコンセプトは、各種の賞を獲得し、デジタル時計などもってのほかという時計ファンにも驚きと敬意をもって迎えられています。

ドイツ製時計を所有する喜びを

スイス製の高価な有名ブランドとは、少しだけ趣向を異にしたA.ランゲ&ゾーネの時計。見やすさや正確性という実用性と機能が持つ美しさは、「こうでなければならない」と物事を合理的に考えるドイツ人の気質がよく表れています。

洗練されたミニマリズムのデザインの時計は機能美の体現。日本人の好みともよく合うところでしょう。冷戦終結後に見事に復興したドイツの銘品A.ランゲ&ゾーネ。紳士たるものぜひ1本所有したいところです。

文・J PRIME編集部

>>会員登録して限定記事を読む

【関連記事】