レフェルヴェソンス


日本各地の食材や生産者にあたたかな眼差しを向け、深い探究心と細やかな技術で独自のフレンチを追求する「L'Effervescence(レフェルヴェソンス)」。最新の『ミシュランガイド 東京 2021』で初の三つ星と“ミシュラングリーンスター”を獲得した東京の最注目店は、昨年コロナ禍のなかで10周年を迎えながらも、新しい試みを取り入れ前進を続けている。食が生まれる環境にまで思いを馳せた、繊細で力強い料理の世界をご案内します。

自然を感じる“市中の山居”で過ごす、ひとときのエスケープ

「レフェルヴェソンス」は西麻布の一角、大きな寺院にもほど近い、閑静なエリアに位置。エントランスを抜け、照明を落とした廊下を進むとメインダイニングが現れる。イメージしたのは、都会の喧騒から離れ、ひとときの静かな時間を楽しむといった、茶の湯の世界における“市中の山居”。大きな窓から四季折々の木々を臨み、焼杉や黒漆喰といった昔ながらの素材を取り入れた内装は、モダンさのなかに落ち着いた雰囲気が漂っている。

L'Effervescence(レフェルヴェソンス)
メインダイニング。フロアの一角には半円ソファが置かれた半個室が3つ、さらに地下1階には4〜8人が利用できる個室がある。


L'Effervescence(レフェルヴェソンス)
フロアの一面を占める大きな窓。ランチ時には四季の木々越しにやわらかな光が差し込む。ディナー時にはライトアップされ、ぐっとシックな雰囲気に。


オープンは2010年。以来国内外でファンを獲得し、現在は『ミシュランガイド 東京』に加えて『ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS』『ゴ・エ・ミヨ』といった世界的レストランガイドでも高い評価を受けている。シェフの生江史伸(なまえ・しのぶ)さんは仏「ミシェル・ブラス」や英「ザ・ファットダック」などの名店でキャリアを積んだ経歴の持ち主。

「日本の食材や風味が、世界各地の味わいと交わりお互いを高め合う、そんな料理を目指しています。東京は日本の玄関口でもあるので、料理や空間、おもてなしを通して日本を感じていただけたら。海外の方だけでなく、日本に暮らす方にも日本の魅力を再発見していただければという思いもあります」

“可変”と“不変”、ふたつの視点から四季を描く野菜料理

そんな生江シェフが生み出すのは、素材本来の味わいを大切に、惜しみない手間をかけた料理の数々だ。例えば序盤にふるまわれる「アルチザン野菜」は、彩り豊かな季節の野菜を塩とオリーブオイルで食するサラダ。全国の生産者から届けられる旬の野菜は、美しさと口当たりに配慮しつつ、それぞれに細やかなカットや火入れが施されている。

アルチザン野菜
「アルチザン野菜」。葉野菜をはじめ、根菜や食用花、ハーブや薬草など40種前後をひと皿に。「敬愛する素晴らしきArtisan(職人)たち」として、生産者が記された紙が添えられる。「お客さまが普段召し上がっている料理にも、僕らが扱う食材のひとつひとつにも、すべて人の手がかかっている。でもそれを意識する機会はあまりないですよね。この時だけでもそんな繋がりを感じていただけたら」


「アルチザン野菜」がその時々の、いわば“可変”の野菜を食すのに対し、年間を通じてカブという“不変”の素材を味わうのが「蕪を複雑に火を入れて シンプルに」だ。オープン時から唯一変わらずメニューにある「レフェルヴェソンス」のスペシャリテで、その時々で一番美味しい産地のカブに低温で4時間じっくりと火を通し、断面をバターでソテー。イタリアンパセリのソースを添えて提供される。ポイントは「酵母が動く温度を調節しつつ、カブと人間が一番喜ばしい関係になるよう火を入れる」こと。

「フレンチのひとつの型として、肉や魚といった動物性たんぱくを主、野菜を従として、ソースで仕上げるという手法があります。その主客を逆転させてみたかった。いろいろ試した結果、カブを使うのが一番しっくりきたんです。実はここまで続けようと最初から思っていたわけではなくて。お褒めの言葉をいただくなかで、『美味しい』の後に続く感想が、『みずみずしい』『甘い』『ほろ苦い』など、お客さまや季節によって少しずつ違っていた。そこが興味深く、メニューを変える時にも残し続けた結果、今に至りました。ほぼ変わらないプロセスで仕上げたカブを通して、今日という日を感じていただけたらと思っています」

レフェルヴェソンス
火入れは季節やカブの状態に合わせ50〜70℃ほどの範囲で調整。真空低温調理後、フライパンで仕上げられたカブは、適度な歯触りを残しながら、ふくよかな水分が口いっぱいに広がる。バターの香ばしい焦げ目で、より奥行きのある味わいに。「カブは春から夏は外敵から身を守るため辛味が強くなる。対して寒くなると冬を越すために糖度が増します。こうした季節での変化に加え、数年単位で見るとさらに変化があるかもしれません」


新たなレストランの顔となる、シンプルで奥深い薪火料理

昨年「レフェルヴェソンス」は新たな試みをスタートさせた。それは薪火料理。メインのひとつである肉料理は、京都産の鴨胸肉を薪火でロースト。火を通しすぎないジューシーな鴨肉は、噛むほどに味わい深く、カリカリに仕上げられた皮目の食感とのコントラストも見事だ。

「薪火料理は、薪を選び、適切な火加減を細かく調整して焼き上げることで、食材の魅力を最大限に引き出すことができます。ほのかな燻香も食欲をそそる。当店のお客さまにも喜んでいただけるのではないかと考えて、10周年を機に取り入れることにしました。人間と料理の関係を遡っても火は原点であり、美味しさや体に及ぼす影響においても画期的だったと想像します。そんな太古の記憶はきっと今の僕たちにも繋がっているはずという思いもあるんです」

生江シェフの心境の変化ともリンクしたという。 「コロナ禍の今は、口にしてストレートにおいしい、腹落ちする料理が作りたくなりました。少し前は、豚にカツオ、牛にハマグリを合わせるといった、海と山の恵みが循環するイメージでメイン料理を組み立ていたんです。だけど今はこういったシンプルな料理のほうが、お客さまにストレスなく召し上がっていただける気がしています」


京都産・鴨胸肉を東京檜原村のミズナラで焼いて ソース・ヴァンルージュ 葉玉ねぎ
「京都産・鴨胸肉を東京檜原村のミズナラで焼いて ソース・ヴァンルージュ 葉玉ねぎ」。ほんのり木の香りがついた鴨肉を、塩や赤ワインソースでいただく。薪は東京・檜原村で伐採されたミズナラの間伐材を使用。「ミズナラは日本の森を育んできた木のひとつ。間伐材を仕入れることで、治山する方をサポートしたいという意図もあります」


幸せな時間の締めくくりは、みずみずしく可憐なデザート

はっさくと山羊のチーズのダックワーズ
「はっさくと山羊のチーズのダックワーズ 無農薬蜂蜜 ネーブルオレンジとディル」。アーモンドパウダー入りのメレンゲを焼き上げたダックワーズの土台にネーブルオレンジのアイスとフレッシュチーズのムースを載せ、表面にハッサクの房をばらした砂じょうをたっぷりと。若草色のソースと飾りにはディルを使用。口に入れると、ハッサクの果汁がさっくりしたダックワーズやクリーミーなムースと混ざり合う。爽やかな香りと軽い口当たりのなかに、ムースに入った細かく刻んだヤギのチーズが食感と味わいのアクセント。


フランス料理の楽しみのひとつがデザート。取材時に供されたのは、鮮やかな黄色とコロンとした佇まいに目を奪われるひと皿。表面を飾るのは、なんとハッサクの房をひと粒ひと粒丁寧にほぐした砂じょう。気の遠くなるような手仕事がうかがえる。
「ダックワーズは水分を吸うので、柑橘系を合わせるのは難しい。けれど果肉を切らず、砂じょうという細かい粒状にすることで、口に入れて噛みしめるまでハッサクの果汁を閉じ込めておけます。そのうえ食べた時に口に広がる果汁の量が絶妙で、ムースやダックワーズとのバランスが非常にいいんです」

コースはランチ・ディナー共通で1種類。お土産として、お店で使っている調味料やお茶などから好みの品を選んで持ち帰れるおもてなしも嬉しい。


繋がりを大切にしながら、食の喜びを届けたい

『ミシュランガイド 東京』では、三つ星に加え、2021年版より導入された、サステナブルな取り組みを実践する飲食店に与えられる「グリーンスター」も獲得。絶滅が危惧される魚は使わない、調理に間伐材による薪火を取り入れ、ガスの利用を減らすといった取り組みが評価された。
「グルメというとおいしさを最優先した、快楽主義的なイメージかもしれません。ですが、美味しいものを食べながら、素材の担い手やその背景にある自然を尊び、共生関係を保つという視点もあります。『グリーンスター』という称号によってそれが注目され、ミシュランに多様性が加わったのは意義のあることだと感じています」

ある時は食材にじっくりと向き合い、対話するように味わいを引き出す。またある時は環境や社会を俯瞰し、食の未来を見据える。両者をシームレスに行き来しつつ、生産者からサービススタッフまで一丸となって、これからの『美味しい』を模索する生江シェフ。
「昨年から続く状況は、あらゆる箇所での分断が顕在化し、社会が機能不全になっているように感じます。微力ではありますが、食や、食べる喜びを通して、自然の恵みを分かち合う感覚を届けていけたら。それが国や文化などの違いを超えた、他者との繋がりを意識できる一助になれば幸いです」


レフェルヴェソンス 生江史伸シェフ
生江史伸シェフ。この春より東大大学院に入学し、人と農業、それを取り巻く経済や資源に関する学びを深めている。「これまで独学だった多くのことを網羅的に学べるのが楽しくて。ここで得た食や農業についての知見を、今後の『レフェルヴェソンス』の在り方に生かしたいと考えています」



【ショップインフォメーション】
「L'Effervescence(レフェルヴェソンス)」
東京都港区西麻布2-26-4
☏ 03-5766-9500
営業時間
Lunch : 11:30∼15:30(13:00 L.O)
Dinner : 17:30∼22:30(20:00 L.O)
コース 33,800円(Lunch・Dinner共通)
※消費税・サービス料込
休 日曜日・月曜日
http://www.leffervescence.jp/

撮影/松村隆史 構成・文/末元妙実 企画編集/横山直美(cat)

※新型コロナウイルス感染症対策として、来店者と従業員の健康を第一に考え、店内の換気、各所の清掃・除菌、営業中のマスク着用などを徹底。
※緊急事態宣言の状況により営業時間等が変更される場合があります。最新の情報はレストランのホームページ等でご確認ください。

>>大丸・松坂屋の5つの特別サービスとは?