税制,事業承継
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“人生100年時代”という言葉も定着しましたが、一方では高齢化に伴う、さまざまな課題が生じています。経営者が考えるべき「事業承継」もその1つで、後継者不足の深刻化が大きなボトルネックとなっています。

日々の事業運営に追われ後回しにしがちな後継者問題は、時間をかけて、あらゆる側面からベストな選択をしたいものです。制度や優遇措置をうまく活用し、効果的に承継するためには、早めの計画と対策が大切になります。この記事では事業承継にあたって、知っておきたいパターンや検討すべきポイントをお伝えします。

目次

  1. 後継者候補には3つのパターンがある
    1. 事業承継のパターン1:息子など親族に引き継ぐ
    2. 事業承継のパターン2:業務を知り尽くした従業員に引き継ぐ
    3. 事業承継のパターン3:第三者へ承継
  2. 将来を見据え、現状と理想の姿を把握しよう
  3. 受け継ぐ側と一体になって進める
  4. 個人事業主必見!事業承継の贈与税・相続税の納税猶予、免除制度
    1. 制度を活用するために後継者がすべきステップ
  5. 相続対策と事業承継は同時進行がポイント
    1. 相続時精算課税制度の活用
  6. 早めに準備することが成功へのカギ

後継者候補には3つのパターンがある

事業承継を考えるうえで、もっとも重要な点は「誰に継ぐのか」です。後継者候補としては、以下3つのパターンが考えられます。

▽事業承継の候補となる3つのパターン
(1)息子などの親族
(2)従業員
(3)第三者

まずは、それぞれのパターンの特徴を整理しましょう。

事業承継のパターン1:息子など親族に引き継ぐ

経営も資産も親族に引き継ぎたい……。身内で代々、事業を守ってほしい……、という方は多いと思います。事実、親から子へ事業を引き継ぐケースは多く、日本の中小企業の多くが同族経営です。子どもの頃から父の背中を見てきた子であれば、想いを受け継ぐことも可能と言えます。

事業承継のパターン2:業務を知り尽くした従業員に引き継ぐ

最近では、子のいない経営者や、子がいても外で会社員として働いていたり、そもそも事業に興味がないケースも多くみられます。長年業務にかかわり、社内外の事情に精通した従業員は事業への理解度が深く、取引先とのコミュニケーションも円滑に行えると言えます。

事業承継のパターン3:第三者へ承継

跡継ぎがいない、引継げる人材がいない、事業から完全に引退を視野に入れている場合には、第三者への承継が選択肢となります。外部から新たな経営者を向かい入れる場合と、事業自体をM&Aで買い取ってもらう場合があります。

実際の選定に際しては、これらの特徴を踏まえた上で引継ぎ相手の税負担、さらには「そもそも引き継ぐことが可能なのか」を考慮した上で考えなければなりません。

たとえば、株式会社であれば、株式を譲渡することで経営権が移ります。株式は評価額を上げることで会社の価値を高めることができる一方で、個人資産が増え、将来的に相続税が負担となる場合もありますし、譲渡の相手先が買える金額でなければ引き継ぐことができない事態にもなりえるので注意が必要です。

なお、会社を解散する選択肢もありますが、これまで手掛けてきた取引先との関係や従業員への責任も手放すことになります。廃業にもコストがかかるため、可能な限り避けたい選択です。

将来を見据え、現状と理想の姿を把握しよう

事業承継は、これまでの実績や会社に注いできた想いを振り返り、将来へ引き継ぐことであるといえます。承継はあくまで通過点であり、その先も事業が永続的に発展していく姿を思い描くことが大切です。つまり、事業承継において「現状」を把握し、「理想の姿」を見つめ直すことは必要不可欠なプロセスとなります。

できる限り多くの想定を検討した中でベストと思われる選択をするには、一朝一夕の準備ではかないません。事業承継は通常、5〜10年といった長い期間をかけて検討され、実行されます。

受け継ぐ側と一体になって進める

事業承継は「後継者を任命するだけではない」ことは周知のとおりですが、意外と軽く受け止めているケースが多いものです。

たとえば、親が子に事業を引き継がせたいと考え、子は漠然と親から引き継いでしまった場合に、後になって経営者としての資質がないことが露呈した、承継前の負債が発覚した、従業員や取引先との確執を生んでしまったなど、思わぬトラブルに発展するケースも散見されます。

こうしたトラブルを避けるためにも、事業者は後継者を任命して終わりではなく、一体となって事業承継を進めることが理想です。特に両者間で「何を承継するのか」を検討し、明確にしておくことは重要なポイントです。

後継者へ何を承継するのかは、「経営」「組織」「資産」の主に3つに分けて考えるとよいでしょう。どれも今後の事業の発展に欠かせないため、すべてに十分な検討が必要です。

とくに資産の承継については、小規模事業者や個人事業主の場合には、事業用資産を経営者個人が所有していることも多く、事業の承継と並行して相続対策を検討する必要があります。この場合、承継する相続人と承継しない相続人のそれぞれが納得できる配慮が不可欠です。

個人事業主必見!事業承継の贈与税・相続税の納税猶予、免除制度

事業承継が後回しになる理由として、資産の移転に伴い発生する贈与税・相続税が、引継ぐ後継者にとって負担となることがあげられます。そこで国は事業承継を円滑化するために、贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」を設けています。

事業承継税制には法人版と個人版があり、事業承継を考える事業主なら知っておきたい税制です。ここでは、「個人版事業承継税制」について詳しく解説していきます。

2019年度税制改正により創設された個人版事業承継税制は、個人事業を営む事業主(不動産貸付業等を除く青色申告者)から、一定の要件のもと、特定事業用資産を贈与(事業主の死亡による場合は相続)により取得した後継者を対象としています。贈与税・相続税の全額が納税猶予され、さらに一定の事由に該当する場合には、猶予されていた贈与税・相続税の納税が免除されます。

【参考】国税庁「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし(令和2年4月)

制度を活用するために後継者がすべきステップ

個人版事業承継税制を活用するためには、次の6つのステップがあります。

▽個人版事業承継税制を活用するための6つのステップ

1. 「個人事業承継計画」の作成・提出
2024年(令和6年)3月31日までに、事業を承継するための具体的な計画を記載した「個人事業承継計画書」を作成し、認定経営革新等支援期間の所見を記載のうえ、都道府県知事に提出し、確認を受ける

2. 事業者から後継者への「特定事業用資産のすべて」の贈与
2019年(平成31年)1月1日から2028年(令和10年)12月31日までの贈与※による取得
※事業者死亡(相続発生)の場合は、相続による取得により相続税の対象

3. 期限までに都道府県知事の「円滑化法の認定」を申請
贈与:贈与を受けた年の翌年1月15日まで
相続:相続開始の日の翌日から8ヵ月以内

4. 税務署への届け出
「開業届出書」(事業開始1ヵ月以内)、「青色申告の承認」の申請(事業開始2ヵ月以内 ※開業日による)

5. 「贈与税申告書」を税務署へ提出・一定の担保を提供
贈与税(相続税)の申告期限までに、制度適用を受ける旨を記載した「贈与税申告書」の提出

6. 継続届出書の提出
引き続き、制度の適用を受けるため、3年ごとに継続届出書を税務署へ提出
提出ない場合は、猶予されている贈与税(+利子税)納付

税負担を抑えるためには活用したい制度ですが、上図のとおり、申請や認定など後継者にとっての手間や労力がかかることは否めません。ただし、事業への理解や今後に向けて時間を使うことは決して無駄ではありませんので、ぜひ取り組んでいただきたいです。

なお、ステップ2の“特定事業用資産”とは以下のとおりです。

▽個人版事業承継税制における特定事業用資産とは

【特定事業用資産】
先代事業者の事業用資産のうち
(1) 宅地等(400平方メートルまで)
(2) 建物(床面積800平方メートルまで)
(3) 上記建物以外の減価償却資産
   - 固定資産税の課税対象とされているもの
   - 自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
   - その他貨物輸送用など一定の自動車、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形固定資産

相続対策と事業承継は同時進行がポイント

小規模事業者や個人事業主にとって、事業承継と同時に考えておきたいのが「相続対策」です。

ついつい後継者への資産の移転を優先しがちですが、承継しない子などが抱く「不公平感」や「わだかまり」は思わぬトラブルに発展します。法廷への紛争に発展する事例も多く見受けられます。

事業承継における相続対策としては、事業用資産以外の有価証券等の個人資産の承継などについても検討し、関わる人々への配慮が必要です。すべての人が納得することは困難ですが、せめて理解のできる体制を作っておきたいものです。

相続時精算課税制度の活用

相続時に活用ができる制度の1つとして、「相続時精算課税制度」を紹介します。

この制度は、原則として60歳以上の父母(祖父母)から、20歳以上の子(孫)に対し、財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。2,500万円の特別控除があるため複数年にわたり贈与した財産に対して贈与税が猶予されます。2,500万円を超えた贈与に対しては、超えた金額に対して一律20%の贈与税を納付します。

最大55%の税率が課される贈与税の負担を考えると活用したい制度です。ただし、納税猶予であり免税ではありません。贈与者の相続発生時、つまり死亡時の相続資産に対する相続税を計算したうえで納付することになります。

その他、贈与時に申告が必要、110万円の基礎控除が使えなくなる、取消しができない、取得価額が贈与時に確定されることなど、デメリットもありますので注意が必要です。

早めに準備することが成功へのカギ

小規模事業者や個人事業主には「生涯現役でいたい」という方も多くいますが、いつ何が起こっても事業が滞りなく進められる体制は作っておけると安心です。後継者だけでなく関わる人すべてがこれまで通りに活躍できる場を準備しておきましょう。

そのために、まずは後継者を選ぶだけでなく、さまざまな観点から事業を見つめ直すこと。さらには税制特例などにもアンテナを張ったり、信頼できる専門家を選ぶことも大切です。

「そろそろ……」と思いつつ、日々に追われ、後回しにしがちな事業承継問題は、本気で考えることで将来にわたって繁栄する企業への一歩となります。早めに準備することが成功へのカギかもしれません。

執筆:大竹麻佐子
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での勤務を経て独立。相談・執筆・講師活動を展開。ひとりでも多くの人に、お金と向き合うことで、より豊かに自分らしく生きてほしい。ファイナンシャルプランナー(CFP©)ほか、相続診断士、整理収納アドバイザーとして、知識だけでない、さまざまな観点からのアドバイスとサポートが好評。2児の母。
ゆめプランニング URL:https://fp-yumeplan.com/

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