テクノロジーが切り拓くアートの未来。スタートバーン施井代表が目指す世界とは?

アートの世界に先端テクノロジーをかけ合わせた、唯一無二のアプローチでアートプロジェクトを実施している企業として、スタートバーンがいま注目を集めています。スタートバーンは、アート界が抱える課題を解決し、アートの価値が健全に守られる社会の実現を目指しています。

そんな世界にも類を見ないビジネスモデルで挑戦を続けている同社代表の施井泰平さんに、プロジェクトにかける想い、そしてアート界の展望を聞きます。

目次

  1. インフラ構築を目指すアートプロジェクトから始まった
  2. ブロックチェーンで信頼性を担保、誰もが作品の価値を継承できるアート社会へ
  3. 「アートバブル」を一過性で終わらせないために
スタートバーン 代表取締役 最高経営責任者 (CEO) 施井 泰平
▽お話をお聞きした人
スタートバーン
代表取締役 最高経営責任者 (CEO)
施井 泰平
1977年生まれ。少年期をアメリカで過ごす。東京大学大学院学際情報学府修了。2001年に多摩美術大学絵画科油画専攻卒業後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作、現在もギャラリーや美術館で展示を重ねる。2006年よりスタートバーンを構想、その後日米で特許を取得。大学院在学中に起業し現在に至る。講演やトークイベントにも多数登壇。


インフラ構築を目指すアートプロジェクトから始まった

(編集部)ブロックチェーン技術を活用した、アート作品の「デジタル証明書」ビジネスが注目を集める気鋭のスタートアップ、スタートバーン。最先端のテクノロジーを駆使し、アート界に革新を起こしている施井泰平さんとはどのような人物なのでしょうか。

――スタートバーンを創業するまでは、どのような活動をされていたのですか?

私はもともと技術畑の人間ではなくて、多摩美術大学絵画科出身の根っからの美術家なんです。卒業後も美術家としての活動を続けながら、2006年からアートプロジェクトを開始しました。その延長線上に、今のスタートバーンとしての活動があります。というのも、当時行っていたアートプロジェクトというのが、「テクノロジーを活用してアート産業のインフラを構築する」というミッションのもとスタートしたプロジェクトだったんです。

美術家としての活動は粛々と続けていますが、いまはスタートバーンの経営に力を注いでいますね。展覧会への出品は、2017年に東京のワタリウム美術館で開催したパープルーム展が最後です。今も展示のお誘いをたくさんもらっており、アートの定義すらも変えうるターニングポイントが来ている昨今、作家としてもそれと対峙した作品を残したいという気持ちはあります。私としては、生涯、美術家であり続けたいと思っています。

――「アート産業のインフラを構築する」というアートプロジェクトが、現在のスタートバーンにつながっているんですね。プロジェクトを開始した当時、なぜテクノロジーに着目したのでしょうか?

アート界に“時代を象徴するような変革”を起こしたいという想いが原点にあり、それを実現するための方法としてテクノロジーと対峙すべきと考えたからです。

テクノロジーに目を向けるきっかけとなったのは、アーティスト目線での気づきでした。 私は、大学在学中も卒業後もずっとアートの良し悪しの定義や、アーティストとして未来にどうやって作品を残すかを真剣に考えていたので、ある日、美術史をすべて見てみようと思ったんです。歴史に残るアートと、残らないアートは何が異なるのか、と。その結果、歴史に名を残した作品やアーティストの共通点は、時代背景が大きく変わった時に、その時代を象徴する活動をした人であることに気づきました。

そして、自身の置かれている現代に立ち返ってみると、当時は2000年代でちょうど情報革命が起こりドラスティックにテクノロジーによる変化が起きていた時代。テクノロジーを活用することで、個人でも世界を変えるような例が次々と現れていたころでした。

それと同じように、アートも従来のような一部の人が占有する世界ではなく、これからの時代はすべての人がアート界にダイナミズムを起こせるような時代になるのではないかという仮説を立てました。

これがアート産業のインフラ構築を目指すアートプロジェクトの動機になっていて、現在のスタートバーンのビジョンにもつながっています

ブロックチェーンで信頼性を担保、誰もが作品の価値を継承できるアート社会へ

(編集部)アート産業にインフラを構築する、スタートバーンの挑戦。プロジェクトにかける想いと、アート作品の流通を健全にさせる同社のサービス「Startbahn Cert.」の仕組みを聞きます。

――プロジェクトを通して最終的に実現したいのは、どのような世界なのでしょう?

最終的に、世界中の隅々にまでスタートバーンのインフラがリーチしている状態が理想です。たとえば、秘境に暮らす方が何か作品をつくって、それがグローバルに流通できるような世界観です。世界のどこにいても、アートの歴史に名を残すような作家が生まれることを期待しています。

――そんなアート社会の実現に向け、実際にスタートバーンが展開しているサービスについて教えてください。

Startbahn Cert. 作品の価値を決めるあらゆる情報を、ブロックチェーン証明書に
ICタグにスマートフォンをかざすと、作品の来歴が記録されたブロックチェーン証明書が表示される


私たちが提供している「Startbahn Cert.」は、ブロックチェーンを活用した“デジタル証明書”です。

一般的には、作品が売れた後は、その売れた商品について追跡しません。しかし、アートは作家の手から離れた後もとても大事で、どのようなメディアや展覧会で扱われたか、どのような歴史を辿ってきたのかなどが、作家のブランディングに関わってきます。しかし、そのような情報を記録していく強固な仕組みが存在しないために、特に評価の定まっていない作家の価値担保と継承が難しい世界です。

「Startbahn Cert.」でブロックチェーン証明書を発行すれば、美大を卒業したばかりのようなアーティストでも、自身の作品の価値や信頼性を担保しながら、作品を流通させることができます。

これには、情報の改ざんが容易にできないという「ブロックチェーン技術」の特性を活かしています。ブロックチェーン上に取引や展示に関する情報が記録される仕組みになっていて、取引の信頼性を担保することができるほか、作家本人は作品を手放した後も追跡が可能になります。

――どのように利用されているのでしょうか?

リアルアート、VRアート、デジタルアート、一点物、エディション品など全てStartrail
「Startrail」というブロックチェーン上に作品のあらゆる情報が記録され、一元管理することができる


すでに作家やギャラリー、百貨店やオークションハウスなど、アートの流通に関わるさまざまな方に、利用いただいています。不動産でいうところの「登記」のような機能を果たしながら、財としての価値も担保することができます。

また二次流通においては、作品の来歴がしっかりしていれば、真作を見定める際にも活用できるでしょう。価値の高い作品であればなおさらです。ひとたび普及すれば、すぐにでもなくてはならないテクノロジーとして認識されると考えています。

――そうした技術が、若手アーティストでも利用できるのは素晴らしいですね。一方で、収集家のように「作品を売る」予定がない人にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?

富裕層の方々の中には二次的に販売することなどを考えず、純粋にコレクションとして購入する方がとても多くいます。そういった方にも、「Startbahn Cert.」はメリットがあります。たとえば、「◯◯美術館で△△の回顧展を開催する」となったとき、自ら所有する作品を貸し出す際の信頼性の証明や記録システムとして役立ちます。

「アートバブル」を一過性で終わらせないために

(編集部)若年層にもアートの魅力が広がり、いまやメディアやSNSで目にする機会も増えてきました。そんな中で、施井さんはアート界の未来をどのように見据えているのでしょうか。

――アート界の最前線にいる施井さんから見て、これからのアート界はどのように変わっていくと思いますか?

いま、かつてないほどアートへの関心が高まり、「アートバブル」ともいわれるような現象が起きていることは、日本ではマーケットが育たないと言われてきた過去を考えるととてもよいことだと思っています。しかし、日本のアート界には、コレクターと美術館学芸員やキュレーター、批評家などとそれぞれのカルチャーやコミュニケーションが完全に分断していて、オークションハウスで売れている作品を美術館関係者が知らないといった現象も起きています。

批評家などによって評価・価値付けされたアートが美術史に残り、そのアーカイブが新しい価値を生む。本来は、そうした循環があるはずなのに、日本の中では分断してしまっているのが課題だと感じています。私たちはインフラを提供することで、それぞれをつなげる活動を支援していきたいという想いもあります。

長い歴史を見ると日本のマーケットは、国内でガラパゴス的にプチバブルを起こし、終わってしまうというサイクルを繰り返しています。世界的に価値が広がり、残り続けるような構造にするためには、コレクターはグローバルスタンダードに合わせて美術史を知り、美術館の活動や批評家の声に耳を傾けることが重要です。そうすることで、自分の所有する作品に歴史的価値が出れば、所有することがさらに楽しくなり、アート収集がもっと活発になっていくと思います。

他方で美術館学芸員やキュレーター、批評家もマーケットでの出来事にも目を向けて言語化したり、価値を紡いでいくことが大事のように思います。

――ありがとうございました。

(編集部)自身も一人のアーティストだからこそ、健全なアート社会の実現に心血を注いでいる施井さん。「Startbahn Cert.」は昨今注目が集まる真贋問題を解決しうるテクノロジーとしても注目されており、一歩ずつ、アートの未来は変わってきているように思います。

スタートバーンが挑む、アートのインフラをデジタルによって世界の隅々にまで広げるプロジェクト。施井代表が語る、関わるすべての人がダイナミズムを起こせるような時代になったとき、世界から、はたしてどんなアートが出現するのでしょうか。それはきっと、世界が大きく変わったことを象徴するような作品となることでしょう。アートの世界を変えていくスタートバーンの活動とともに、期待していきたいところです。

文・J PRIME編集部

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