道明葵一郎さん
1652年創業、上野池之端の〈有職組紐 道明〉にて、代表取締役社長を務める道明葵一郎さん。店舗では常時500種類もの帯締などをそろえ、組紐教室も展開。2021年末〜2022年には、外務省の海外事業拠点〈JAPAN HOUSE(ジャパン・ハウス)〉で巡回展を開催予定。


飛鳥時代に大陸から伝わった組紐は、宮廷装束や武士の鎧、刀の下緒(さげお)、着物の帯締などに用いられてきた。その伝統を受け継ぐ〈道明(どうみょう)〉の当主、 道明葵一郎さんに、日本古来の生活様式に根ざした着物や和装小物など、用の美を極めた名品をうかがった。

研究熱心な道明家の主人が大切にする、卓越した手仕事の品々

「正倉院の宝庫に入り古代の組紐の調査を行っていた両親に連れられて、幼いころよく奈良を訪れていました」
組紐の製造販売のみならず、調査研究や復元模造にも取り組んできた道明家。その10代目当主・葵一郎さんは、両親ともに服飾や美術工芸の研究者でもあり、豊富な資料に囲まれて育ったという。大学では建築を学び、建築士を経て家業を継いだ多才な社長だ。
「組紐は、建築のように構造が大切なので、建築畑で立体的な考え方をしていたことが役に立っています。構造と美学が表裏一体であることも共通していると思います」
悠久の伝統技術を継ぎ、研究熱心な道明家。その主人が大切に使う名品は、卓越した職人技による手仕事であり、長年の顧客や家族、友人とも縁のある品々のようだ。

道明葵一郎さん
江戸の老舗当主の風格ある和装姿。自ら設計した本社ビルの前にて。着物は〈銀座きもの なかがわ〉の《本場大島紬》。素材は伝統的な泥大島の染法により、テーチ木(車輪梅)の染料と泥染による糸で織られた絹織物。テーチ木のタンニン酸と泥の鉄分が反応する染めの作業を繰り返すことで「烏の濡れ羽色」と呼ばれる独特の色が生まれる。


伝統の技をつなぐ〈銀座きもの なかがわ〉の着物、〈道明〉の羽織紐、〈銀座 与板屋〉の雪駄

「着物は展示会やイベントで時々着用しますが、この着物は本場大島紬で、伝統的な泥大島紬です。注文する際に希望したのは、『品よく上質な中庸。大柄ではなく、繊細な柄で光沢感も出過ぎず』、というのがポイントです。誂えたのは大学の後輩の家業である呉服店〈銀座きもの なかがわ〉で、顔映りや私の年代などから最適な色を選んでいただきました」

道明の《笹浪組》
大島紬の着物と博多帯に合わせて、羽織紐は手染め、手組みの組紐技術を継承する〈道明〉の《笹浪組》。


着物に合わせた羽織紐は〈道明〉。「濃紺に合う色で、正倉院にも残る組方《笹浪組》を選びました。紐につける輪の部分も金具ではなく、紐を組んでつなぐ“つぼ組み出し”ですが、これも手組みならでは。私は汎用性の高い単色無地を選ぶことが多いですが、顧客の噺家さんたちは演目に合わせた色柄などにこだわって注文されることもあります」

銀座 与板屋で誂えた雪駄
銀座で長い歴史を誇る履物店〈銀座 与板屋〉で誂えた雪駄。天然素材を生かした端正なデザインと履き心地の良さが完璧なのだそう。


履物は明治10年創業の〈銀座 与板屋〉で誂えた雪駄。「5代目の原 信司さんのおすすめで、多様な着物に合わせやすい一品です。すっきりした柄で、鼻緒も甲の高さに合わせて微細に調整していただいたので、ちょうどいいサイズです。靴と違って、地面に馴染むように滑らかに進んでいける。そんな独特の感覚や自然素材の良さも楽しめます」


職人技を極めた〈宮脇賣扇庵〉の扇子、祖母ゆかりの香炉、〈渡辺竹清〉の花籠


宮脇賣扇庵特製の扇子
〈宮脇賣扇庵〉特製の扇子は、骨組みに煤竹(すすたけ・民家の天井などに使われ、囲炉裏やかまどの煙で100年以上燻された茶褐色の竹。古民家の減少により近年は希少な素材)を使用し、扇面の片面は黒色。


和装のとき携帯する小物で特に重用しているのが〈宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)〉の扇子。「お世話になっている方が特注されたものの一本をいただいたのですが、骨の素材は希少な煤竹、扇面は黒と赤茶色のリバーシブルで、柿渋が塗られています」。煤竹はしっかり水分が抜けているため開閉が滑らか。扇面は無地だが、手仕事による独特の趣がある。
「色の深みだけで表現する、潔さが格好いい。広げるとよく褒められます」


宮脇賣扇庵特製の扇子
同上の扇子の片面は赤茶色。両面とも柿渋(渋柿の汁液を発酵、熟成させた液体で、日本固有の材料である。防腐、防虫、紙を強化する作用もあるため、うちわや傘にも使われる)が塗られ、経年により色が深まるのも醍醐味。スタイリストの加藤悦子さんが特注してくれた贈り物だそう。


また道明家で受け継がれ、愛着のある品というのが、お祖母さまゆかりの香炉。
「仕事の合間に、ちょっとひと息する時お香を焚くのですが、祖母が使っていた香炉は造形が可愛らしくて気に入っています」。道明家では白檀など香木も収集されてきたそうだ。
「社屋には畳の茶室も設けていますが、精神を整える文化も大切だと思っています。お香で心を落ち着かせてから仕事に入ると集中力が高まります」


青磁香炉
青磁に精緻な文様が施された香炉。お香で心を整える時の大事な道具。


そして道明家で大切に保管され、時おり店で花を生けるのが網代編みの巨匠と言われる〈渡辺竹清〉による竹細工の花籠。「先代が大切なお客さまからいただいた物で、現在は生産されておらず、材料の煤竹や技術も含めて貴重な品です。波網代の曲線が特徴で、波打つように幅が変化していく。シンプルな形の中に、編み方によって表情が生み出されているところが好きで、佇まいや収まりのいい手のひらほどのサイズ感も気に入っています」
室内空間に対して控えめなサイズであっても、精巧な逸品は存在感を放つという。


渡辺竹清による花籠
〈渡辺竹清〉による花籠は竹工芸の極み。100年以上を経た煤竹が使用され、現在は製作されていない貴重な宝物。渡辺氏は最高峰の網代編みの技術で名高く、かつて世界的デザイナーとも共同製作した名工である。


では、こうした卓越した技による逸品に共通する良さとは?
「難しいことを、そう感じさせない。シンプルに何の違和感もなく仕上がっているけれど、それを実現するために高度な技法が込められているところだと思います。細部の収まりの整え方や、異素材同士がぶつかる部分の馴染ませ方などに違いが見てとれる。組紐も離れて見れば同じ一本の紐でも、近寄ってみるとそれぞれに非常に多様な技や知恵が込められています」
今年から来年にかけては海外で〈道明〉の巡回展を開催予定で、組紐の歴史や構造、未来に向けての新たなプロダクトの展示を準備中だ。「織物に比べて、組物は知られていないですし、日本製ほど複雑な構造で奥深い組紐はないので、世界に広めていきたいと思います」
組紐の継承と発展に尽力し、新たに世界へと発信していく道明さん。その精悍な着物姿は改めて和装の粋を現代に伝えるリーダーだ。
「和装は、昔から日本で親しまれてきたもの。日本の風土や日本人の体格などいろんな面に適応していると思います。ぜひ、日本の皆さんにもっと活用していただきたいです」


道明葵一郎
Kiichiro Domyo
(プロフィール)
〈有職組紐 道明〉代表取締役社長。早稲田大学理工学部建築学科卒。2006年道明葵一郎一級建築士事務所を設立、2012年から株式会社道明代表取締役。日本各地に残る歴史的組紐の技術を範として、新しい組紐の制作に従事する。地元の池之端仲町商店会では実行委員として町おこしの文化活動も行う。2021年末〜2022年、ロサンゼルス、ロンドン、サンパウロにある外務省の海外拠点事業〈JAPAN HOUSE(ジャパン・ハウス)〉の施設で巡回展を開催予定。https://www.kdomyo.com/

撮影/望月みちか 取材コーディネーション・文/黒部涼子 企画編集/横山直美(cat)

>>大丸・松坂屋の5つの特別サービスとは?