企業,アクティビストファンド
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近年、日本を代表する大企業が、事業構造・組織構造の改革に踏み切るケースが目に見えて増えています。たとえば、東芝は債務超過の解消ため東芝メモリを売却、ソニーはソニーグループを核とした新しい組織体制への転換、ソフトバンクグループ(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)は財務改善のため4.5兆円もの資産売却を進めています。2020年11月には、三井不動産が東京ドームをTOB(株式公開買い付け)するというような大型M&Aもありました。

実は、こうした企業改革の背後には「アクティビスト」の影がちらついています。株式市場でも大きな存在感を放つアクティビストとは、一体何者なのか。この記事ではアクティビストと、その実態をわかりやすく解説します。

目次

  1. アクティビストは「モノ言う株主」のこと
    1. (1)能動型アクティビスト
    2. (2)受動型アクティビスト
    3. (3)社会運動型アクティビスト
  2. 経営に影響力を及ぼすための主な戦略
    1. 割安株へ投資し、株主提案で経営効率を改善する
    2. TOBによる買収も戦略のひとつ
  3. コロナ禍でアクティビストによる株主提案にも変化
  4. アクティビストが企業の変革を加速させた4ケース
    1. ケース1:東芝の危機を救ったアクティビスト
    2. ケース2:ソニーはアクティビストの提案を拒否し構造改革へ踏み切る
    3. ケース3:ソフトバンクに迫る世界最大級のアクティビスト
    4. ケース4:東京ドームをTOBした三井不動産もアクティビストがきっかけ
  5. アクティビストは企業変革を促進させる存在でもある

アクティビストは「モノ言う株主」のこと

アクティビストとは、日本語に直訳すると「活動家」を意味します。投資の世界では、株主としての権利を積極的に使い、企業に影響を及ぼそうとする投資家のことをいいます。経営陣にモノを言い、その内容はメディアなどを通して社会に広く伝えられることも多く、俗に「モノ言う株主」とも呼ばれます。

明確な定義があるわけではありませんが、アクティビストは大きく分けると3つのタイプがあります。

(1)能動型アクティビスト

これが社会一般的にイメージするアクティビストです。ヘッジファンドなど投資ファンドの形態のひとつで、少数の会社に集中的に投資して、保有比率を上げ、株主としての地位を高めます。その後、株主として経営陣に積極的に経営戦略などを提案し、企業価値を上げることで、利益を得ようとする投資家などのことをいいます。

ファンドですので、経営することが目的ではなく、企業価値を上げて利益を上げることが目的です。経営陣と対話する中で、場合によっては経営陣の交代や新規経営陣を送り込むなどの要求をすることもあります。

(2)受動型アクティビスト

アクティビストファンドを中心とする能動的アクティビストは「短期投資」の利ざやを主目的としているのに対し、受動型アクティビストは、「長期投資」を基本としながら投資先企業の経営改善を図っていくタイプで、年金基金や機関投資家がこれに該当します。

かつての年金基金や投資信託などの機関投資家は、株主の議決権(賛成・反対を示す権利)を行使するのにとどまり、“投資先企業の経営へは深く立ち入らない”という風潮がありました。「サイレント株主」(モノ言わぬ株主)と批判されることもあったほどです。

しかし、近年は加入者や受給者の大切なお金を運用する責任者として、投資先企業に対し株主提案を行うなど、「モノ言う株主」として積極的に経営にかかわるケースが増えてきています。

(3)社会運動型アクティビスト

近年、ESG投資という概念が定着してきました。ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった言葉で、SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)と通じる概念です。「社会運動型アクティビスト」は、投資先企業のESG対応を改善していくことで、長期的な企業価値につなげていくことを狙っています。ESGアクティビストと呼ばれることもあります。

今後は投資家にとって、利益追求とは別の軸として、ESG分野はますます重要になるはずです。特に長期運用を行う年金基金など機関投資家にとっては、同時に社会運動型アクティビストとしての使命も高まるでしょう。

経営に影響力を及ぼすための主な戦略

アクティビストの類型を紹介しましたが、共通するのは、投資先企業の経営に積極的に干渉しようとする姿勢です。株主への利益還元を主目的とした投資先企業の経営改善を行っていく上で、アクティビストは次のような戦略を採ります。

割安株へ投資し、株主提案で経営効率を改善する

アクティビストが投資対象として狙う企業としては、①利益率などが低く効率経営ができていない企業、②低PBR(株価純資産倍率)で資産価値に対して割安に放置されているような企業、③キャッシュ・土地・有価証券(持合株式)などの資産を保有し有効活用していない企業、などがあります。

こうした企業の株主となり、株主提案などで、①増配や自社株買いなどの株主還元を求める、②持合株式の売却を求める、③経営陣の交代を求める、④事業のスピンオフを求める、などの戦略をとります。

TOBによる買収も戦略のひとつ

アクティビストの戦略のひとつとしてTOBがあります。TOBとは株式公開買い付けのことで、上場企業の発行する株式を、株式市場を通して取得するのでなく、あらかじめ買い取る「期間」、「株数」、「価格」を提示して、市場外で他の株主から一括して買い付けることです。TOBに成功すると、対象企業を買収したり、経営権を手に入れることが可能なのです。TOBを機に本格的に改革に乗り出し、企業価値を上げることに着手できます。

TOBは通常、事前に対象企業の親会社や経営陣と協議してから行います。これが「友好的TOB」です。 しかし、親会社や経営陣の同意が得られない場合に一方的にTOBを宣言する「敵対的TOB」に発展することがあります。

敵対的TOBにもつれこむと相手企業が防衛策を講じる場合があるため、買収が難航する可能性が高まります。また、ある会社やファンドがTOBをかけた後に、別の会社やファンドがTOB価格を上乗せして対抗的TOBを宣言することなどもあります。

コロナ禍でアクティビストによる株主提案にも変化

ブルームバーグの報道によると、2020年はアクティビストによる株主提案数が過去最高水準になっています。株主提案とは、株主が株主総会での議題を提案できる制度で、議決権の1%以上、もしくは300個以上の議決権を、6ヵ月以上保有している株主が提案できます。

通常、アクティビストによる株主提案は、株主である自分たちのメリットとなるような増配、自社株買いなどの株主還元を求めるものが多いのですが、昨年は新型コロナウイルス禍で企業の経営改善につながるような建設的な提案が目立ちました。アクティビストの株主提案の内容は変わってきているようです。

アクティビストが企業の変革を加速させた4ケース

実際に、アクティビストが日本の企業改革に影響を与えた例をいくつか見ていきましょう。

ケース1:東芝の危機を救ったアクティビスト

東芝の改革にアクティビストは大きな影響をあたえています。振り返ると、2015年に東芝の不正会計が発覚し、2017年に子会社の米・ウェスチングハウスが破綻するなどで、東芝は債務超過で経営危機になりました。

経営危機から脱するために東芝は大規模な増資を行い、上場廃止から逃れました。当時、東芝の子会社、東芝メモリなど価値があるとみたアクティビストファンドがこの増資に応じたのです。それ以降、東芝の大株主には有力アクティビストが登場しており、経営改革にも関与してきていると言ってもいいでしょう。アクティビストにとっても、東芝の経営が改革し企業価値が高まるならメリットが大きいのです。

ケース2:ソニーはアクティビストの提案を拒否し構造改革へ踏み切る

米国の著名アクティビストのサード・ポイントは、2019年にソニー株の保有を公表し、半導体部門の分離や映画などエンターテインメント事業への集中などを求めました。ソニーフィナンシャルホールディングスはシナジーが効きにくいことから、売却も要求しました。

ソニーは要求を完全に拒否しましたが、2020年にはソニーフィナンシャルホールディングスを子会社化し、2021年には4月1日付けで持株会社ソニーグループへの社名変更を行い、構造改革を進めてきました。アクティビストの要求が、経営陣に何らかの影響を与えたのかもしれません。

ケース3:ソフトバンクに迫る世界最大級のアクティビスト

世界最大級のアクティビスト米・エリオット・マネジメントが2020年2月、ソフトバンクグループの株式を取得し、株主還元の強化、SBGが運用する投資ファンド(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)の情報開示の充実などを要求しました。孫社長はエリオット・マネジメントとも接触をとったようです。

その後、ソフトバンクグループは、2兆5,000億円と巨額の自社株買い枠を設定しました。また、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、コロナショックで抱えていた含み損などの圧縮に動き、4〜6月期で4.5兆円相当の保有資産を売却・資金化しています。アクティビストが経営を加速させたのかもしれません。

ケース4:東京ドームをTOBした三井不動産もアクティビストがきっかけ

2020年11月、三井不動産が東京ドームにTOBを実施し、完全子会社化しました。もともと香港のアクティビストであるオアシス・マネジメントが東京ドーム株の筆頭株主となり、ジャイアンツの魅力を活かした東京ドームの有効活用などを求めていましたが、経営陣と折り合いが付かなかったため、社長解任要求などをだしました。

そこで、登場したのが三井不動産です。三井不動産は東京ドームに友好的TOBを実施。オアシスもそれに応じたことでTOBは成功し、東京ドームは三井不動産の傘下に入りました。

アクティビストは企業変革を促進させる存在でもある

アクティビストは、企業買収のハゲタカファンドなどとイメージがダブり、あまりよい印象ではないかもしれません。ただ、今回みてきたとおり、アクティビストは経営、資産、人材を有効利用していない会社を変革させる役目を果たしています。

機関投資家も、ESGの観点もあり、企業にモノを言う必要性が高まってきています。アクティビストが関与すると株価が動くきっかけとなることも多いのでニュースなどを注目してみておくようにするとよいでしょう。

執筆:平田和生
証券外務員、内部管理責任者、米国証券外務員資格(シリーズ7)保有。慶應義塾大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。日本株トップセールストレーダーとして、鋭い市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスで国内外機関投資家、ヘッジファンドから高評価を得る。これまで外資系の投資顧問会社の日本支社の代表、日本投資顧問業協会の部会長、外資系コンシェルジュ会社のスタートアップ社長を努め、現在は主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。

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