あやしい絵展
「あやしい絵展」ポスタービジュアル


江戸時代末期から明治時代にかけて西洋の知識や技術が次々と日本へもたらされたことは、私たちの生活や風習はもちろん、美術にも大きな影響を与えました。激動の時代を生きぬくパワーを作品に求めたり、妖艶、グロテスクといった言葉がふさわしい表象的な美しさに抵抗する作品が多く見られるようになったのです。

そうした異質な美しさにクローズアップした展覧会「あやしい絵展」が2021年、東京国立近代美術館(3月23日~5月16日)、大阪歴史博物館(7月3日~8月15日)で開催されます。その見どころと楽しみ方をご紹介します。

あやしい魅力あふれる名画がそろう。松園と清方の美人画に注目

「あやしい絵展」では幕末から昭和初期にかけての“あやしい”魅力を放つ作品が集います。そのなかでもまず注目したいのは、鏑木清方(かぶらき きよたか:1878-1972)と上村松園(うえむら しょうえん:1875-1949)の作品でしょう。両氏は「美人画」の巨匠として、明治・大正・昭和時代にかけて活躍した画人です。その卓越した筆致と、内面からあふれ出るような美しさは、今なお見る者の心を強くひきつけてやみません。「東の清方、西の松園」とも評される、美人画の名手の作品を同時に見ることができる貴重な機会です。

上村松園「焰」(ほのお)

上村松園 《焰》
上村松園《焰》大正7(1918)年、東京国立博物館、東京展のみ、3月23日~4月4日


源氏物語に登場する光源氏の愛人、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)を描いた作品です。光源氏を愛しすぎるために非常に嫉妬深い六条御息所は、生霊(いきりょう)となり正妻の葵の上をあやめてしまいます。「焔」は、そんな愛に溺れた女性の凄絶な苦しみや怨念を描きつつ、その奥に美しさをたたえる不思議な魅力をもった作品です。 ※東京会場のみの出品

鏑木清方「妖魚」

妖艶な人魚が岩の上で休む姿を描いた屏風絵です。水に濡れた長い黒髪を体にはわせ、冷淡なまなざしを向けながら小魚をもてあそぶ姿はあやしい妖気を放っており、一度見たら頭から離れないでしょう。

異質な美しさに注目が集まった時代背景を知る

幕末から明治時代以降、こうした妖艶な美術作品が多く見られるようになった背景には、言わずもがな日本史の転換点ともいえる“開国”が深くかかわっています。

心の内に秘められた、ときに生々しい感情にも目が向けられる

明治時代に入ると“個性”や“自由の尊重”という、これまでとは全く異なった西洋の価値観が少しずつ日本にも広がりはじめます。これらの思潮が、絵画にも大きな変化をもたらすようになります。

たとえば、それまで心の内に秘めていた感情を、はばかることなく表現しようとする動きが見られます。その対象は説話や小説、古典芸能の登場人物の感情にまでおよび、それが時に狂気的であっても、意欲的に描かれるようになったのです。

美人画の確立と、表面的な美への抵抗

このような時代背景の中で、美人画にも“美しい”という尺度を超えた新たな価値観がもたらされます。先述した清方・松園の作品もこの流れを汲んでいます。

明治後期は、私的な空間で鑑賞されていた美人画が、展覧会という公の場で鑑賞されはじめるようになった時代。1907年(明治40年)にははじめて文展(文部省美術展覧会)が開催され、美人画は絵画の主要ジャンルのひとつとしての地位を確立していました。

そんな中、清方・松園らは表面的な美しさへの抵抗、つまり生々しさや日常の疲れなどリアリティのある表現を実践していたのです。

美術界の一部からは批判の声も

当時の美術界からはこのような表現手法に対し、「はしたない」などといった批判があったことも事実です。しかし、文学などを背景として、大衆の間では人気を得て広まっていきます。一般的な美しさとは異なる表現に人々は惹かれ、激動の時代を生き抜くエネルギーを感じていたともいわれます。今の時代を生きる私たちの心にも、響くものがあるのではないでしょうか。

あやしい絵の謎を解く、体験型の展覧会の楽しみ方

今回の「あやしい絵展」は、単に絵画を鑑賞するだけにとどまらない、謎解き体験型となる工夫が施されていることも特徴的です。展示されている絵のどこが「あやしい」のか、作品に描かれた物語や成り立ちがわかる絵解きが用意されており、それらを読み解くことで作品への理解を深めることができます。また作品を通じて、自分自身の内にある価値観を内省してみるのもよいかもしれません。

音声ガイドは声優の平川大輔さんがナビゲーターに!

作品の1点1点が、強く心を惹きつける個性を持っている「あやしい絵展」。まずは気軽に訪れて、個々の作品の筆の走らせ方や色使い、細かな表情や醸し出される雰囲気など細部に至るまで鑑賞し、堪能するのもよいでしょう。あやしい魅力に触れれば、きっと鮮烈に記憶に残ると思います。

一方で芸術は、その時代の社会性や他の文化と密接にかかわっています。より深く楽しむために、明治時代から大正、昭和初期に至る日本の歴史を予習して、当時の時代背景や人々の心情・世相を推し量りながら各作品を鑑賞するのもよいでしょう。

また作品世界の隅々を味わいたいのなら、音声ガイド機を借りるのもおすすめです (有料)。音声ナビゲーターは、アニメ「鬼滅の刃」に登場する鬼・魘夢の声や、映画「アベンジャーズ」に登場するロキの吹き替えなどで活躍中の声優・平川大輔さんが務め、皆さんをあやしい世界へと誘います。

【あやしい絵展】

<東京会場>
会場:東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー(〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1)
会期:2021年3月23日(火)〜 5月16日(日)
開館時間:9:30〜17:00
 ・金・土曜日は20:00まで
 ・入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
※開館日時は変更になる可能性があります。
※観覧料等の詳細は、「あやしい絵展」公式ホームページをご確認ください。

<大阪会場>
会場:大阪歴史博物館(大阪府大阪市中央区大手前4丁目1-32)
会期: 2021年7月3日(土)〜 8月15日(日)
※会期は変更になる可能性があります。
※観覧料等の詳細は、「あやしい絵展」公式ホームページをご確認ください。

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