大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション
ピート・モンドリアン《大きな赤の色面、黄、黒、灰、青色のコンポジション》 1921年 油彩、カンヴァス 59.5×59.5cm デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag


水平と垂直の黒い線で区切られた四角い空間を、赤・青・黄の三原色で彩色した構図――。きっと誰もが一度は目にしたことがあるであろう“コンポジション”で広く知られるピート・モンドリアン(Piet Mondrian)は、近代絵画家の代名詞と言っても過言ではありません。

その、モンドリアンの展覧会が2021年3月23日から6月6日にわたってSOMPO美術館(旧:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)で開催されます。さらに東京会場の会期終了後は、愛知県の豊田市美術館に巡回予定です(2021年7月10日から9月20日)。

23年ぶりに日本での本格的な展覧会となるモンドリアン展の見どころは、抽象絵画の可能性を押し広げた彼の作風の変遷にあります。この記事では、モンドリアンの生い立ちから、展覧会の鑑賞ポイントまでを紹介します。

20世紀の前衛芸術運動から影響を受けたモンドリアン、その絵画の段階的な変化

多くの芸術運動がおこった20世紀の欧州。そんな時代のなかで、モンドリアンはどのような影響を受け、抽象絵画を確立したのでしょうか。

美術教師の父のもとで育った幼少期

ダイフェンドレヒトの農家
ピート・モンドリアン《ダイフェンドレヒトの農家》 1905年頃 油彩、カンヴァス 46×59㎝ デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag


1872年オランダ・アメルスフォールトに生まれたモンドリアンは、美術教師であった父や叔父の影響で幼少のころから素描に触れ、川辺でスケッチに親しんでいたようです。

アムステルダムの美術学校を卒業後は、美術教師を務めながら画業に勤しみます。当時は、写実主義や印象派風の風景画を描いていました。この当時の絵画には、作家としての独自のスタイルを確立しようといろいろな技法を試み、スーラやシニャックのような点描技法など多種多様なスタイルを試した跡が見られます。

写実的とはいえ、このころの作品は赤などの原色を強調することにこだわりが見られたり、複雑に枝分かれした樹木が頻繁に描かれるなど、後の抽象絵画へとつながる片鱗を覗えるものもあります。

神智学への傾倒と、キュビスムの衝撃

色面の楕円コンポジション2
ピート・モンドリアン 《色面の楕円コンポジション 2 》 1914年 油彩、カンヴァス 113×84.5cm デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag


1908年ごろからは、モンドリアンは「神智学」という思想に傾倒するようになります。神智学は、19世紀後半にヘレナ・P・ブラヴァツキーらがアメリカで創始した神秘思想で、20世紀前半に世界中に広がり、モンドリアンをはじめ芸術運動に大きな影響を与えていくことになります。具体的に、モンドリアンの場合は抽象絵画というアプローチによって、高次の存在である神に近づこうと考えたのです。

また神智学に加えて、モンドリアンに大きな刺激となったのが立体派とも言われる芸術運動、「キュビスム」です。1911年、アムステルダムで開催されたパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックらキュビスムの名手が集う展覧会に深く影響を受けたモンドリアンは、迷うことなくその年のうちにパリに移住。このころ、名前のスペルまでオランダ語の「Mondriaan」から、フランス語の読みの「Mondrian」に変えています。

「新造形主義」の始まり

格子のコンポジション8 – 暗色のチェッカー盤コンポジション
ピート・モンドリアン 《格子のコンポジション8-暗色のチェッカー盤コンポジション》 1919年 油彩、カンヴァス 84×102cm デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag


世界は激動の時代に。1914年には第一次世界大戦を迎えます。戦時下、オランダのラーレンで活動を続けていたモンドリアンは、そこで後に同志となるバート・ファン・デル・レック、テオ・ファン・ドゥースブルフと出会います。とくに、3原色を好んだレックの影響は大きく、キュビスムの影響とあいまって独自の世界が形づくられていくこととなりました。

そして1917年。いよいよ芸術史は転換点を迎えます。この年に、ドゥースブルフとモンドリアンは「デ・ステイル」という前衛運動を創始しました。機関誌が発刊され、創刊号のエッセイでモンドリアンは自身の芸術理論を「新造形主義」と名付けたのでした。「デ・ステイル」とは“スタイル”、すなわち「様式」を意味します。

「新造形主義」は先述の神智学の影響を色濃く受けており、神智家の目的のひとつである“真理への到達”を目指そうとする性格を持っています。モンドリアンを代表する種々のコンポジションの作品に見られる垂直線と水平線のみを用いた幾何学的な格子模様、赤・青・黄の三原色と白・黒・グレーの彩色は、まさに抽象表現によって物事の真理に近づこうとする「新造形主義」の美術様式を体現しています。

1920年半ばには、“斜線”を取り入れ「要素主義」を主張したドゥースブルフの確執により、モンドリアンは「デ・ステイル」を去ることになります。その後は晩年にかけ、第二次世界大戦を経験しながらロンドン、ニューヨークと移り住んだモンドリアンは、生涯にわたって水平線・垂直線を強調した新造形主義を追求し続け、コンポジションの名作を数多く制作しています。

作風の変遷を辿って楽しめるモンドリアン展

赤、青、黒、黄、灰色のコンポジション
ピート・モンドリアン 《赤、青、黒、黄、灰色のコンポジション》 1921年 油彩、カンヴァス 39.5×35cm デン・ハーグ美術館 Kunstmuseum Den Haag


風景画を描いていたモンドリアンが、どのようにしてコンポジションのような抽象絵画を描くようになったのか。オランダのデン・ハーグ美術館から50作品が来日する今回の展覧会では、その変遷を辿ることができます。

具体的には、伝統的な自然主義的、印象派的風景絵画を描く中にも次第に色彩の変化を見てとれるでしょう。茶系の彩色が多い風景画に、徐々に原色を多用するようになる、といった具合です。生涯のなかで作風が変化している画家は少なくありませんが、最終的に赤・青・黄という3原色に帰着するモンドリアンは芸術史をみても最も作風が変わった画家とも言え、その軌跡は興味深いものがあるでしょう。

また、デッサンの変化も注目のポイントのひとつ。樹木の枝の形や、教会の建物の窓の形などがわかる線描が次第に垂直と水平の2種類の線のみになっていきます。もちろん「新造形主義」の創始以降の変化も見逃せません。格子状の模様は次第に余白を多くとるようになっていき、究極的な単純化が目指されていきます。

抽象絵画から、私たち現代人は何を感じとる?

モンドリアンのアトリエは、それ自体が実験室のようで、彼が亡くなった後のアトリエには神智学の本が3冊しかなかったといわれています。

絵画表現を抽象化して神の領域に近づこうとした彼の画風の変遷の過程は、モノに依存しながら生活する私たちに何か示唆するところがあるかもしれません。23年ぶりの機会に、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

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「生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて」

会期:2021年3月23日(火)〜6月6日(日)
会場:SOMPO美術館
住所:東京都新宿区西新宿1-26-1
休館日:月曜日(5月3日(月・祝)は開館)
開館時間:10:00〜18:00
観覧料:日時指定入場制
 - オンラインチケット 一般1,500円、大学生1,100円、高校生以下無料
 - 当日窓口チケット 一般1,700円、大学生1,300円、高校生以下無料
※定員に空きがある場合に限り、美術館受付で当日窓口チケットを販売します。
※東京会場の終了後、愛知会場に巡回予定

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