税金,仕組み
(画像=wutzkoh/stock.adobe.com)

4月は昇進・昇給の季節です。今年度はコロナ禍のうちに過ぎましたが、中には業績の伸びた会社もあり、昇給が期待できる方もいると思います。昇給は確かにうれしいのですが、収入が増えただけ手取りが増えるとは限りません。ここでは、収入の増加と手取りの変化を示すことにより、それに対する対策を示してみたいと思います。

目次

  1. 昇給しても手取りが増えない場合とは?
    1. そもそも手取り金額とは?
    2. 昇給しても手取りが増えない場合とは?
    3. 年収1,000万円前後にある増税要因にあたった場合
  2. 年収が800万円から1,200万円に上昇した場合の手取りの変化
  3. 手取り額が思ったより上昇しない理由
  4. 副業による収入の多角化が有効
    1. 方法1:不動産収入を持つ
    2. 方法2:事業収入を持つこと
    3. 収入源の多角化は、人生のリスクヘッジにも有効

昇給しても手取りが増えない場合とは?

昇給は、自身の仕事に対する会社の評価でもあり、誰にとってもうれしいことでしょう。ですが、状況によっては、昇給しても手元に入るお金、いわゆる“手取り”が増えないケースがあります。まずは手取りとは何かという基礎知識から解説しましょう。

そもそも手取り金額とは?

まず、手取り金額はどう計算すればよいのでしょうか。自信をもって即答できる人は意外と少ないのではないでしょうか。手取り金額は、次の算式であらわされます。

給与収入-所得税-住民税-社会保険料=手取り金額
※「社会保険料」には、厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料・雇用保険料が含まれます

一般に言われる手取り額とは「可処分所得」のことで、給与から強制的に引去られる税金と強制保険である社会保険料を引いたものを指します。

昇給しても手取りが増えない場合とは?

そもそも税の構造から収入と手取り額は比例しないようになっています。なぜなら、引去り額のうち最も大きな比率を占める所得税が「累進課税方式」という課税所得額が大きくなると税率も高くなる方式をとっているからです。課税所得金額が増えるほど、税額はいわば指数関数的に増加していきます。

そのため昇給による収入の増加率に対し、手取り額の増加率は基本的に少しずつ下がっていくことを理解しておきましょう。

この税制における大原則に加え、思ったより手取りが増えない場合としては次のようなケースがあるでしょう。

年収1,000万円前後にある増税要因にあたった場合

次の2つのケースが考えられます。

(1) 給与所得控除額が減少する給与金額に到達
昨年2020年から適用された税制改正では、給与所得控除が一律10万円引き下げられ、基礎控除が一律10万円引き上げられています。給与収入850万円までは、プラス・マイナスゼロで増減税はありませんが、給与収入850万円から1,000万円までの方は給与所得控除がさらに15万円減るので、所得控除が減少し、2019年と比べると増税となっています。
【参考】国税庁「昨年から変わった点」

(2)配偶者控除が受けられなくなる給与金額に到達した場合
2018年からの税制改正により、配偶者が専業主婦で収入がゼロであっても、世帯主の年収が1,095万円を超えると、配偶者控除の金額38万円が減少していき、世帯主の年収が1,195万円を超えるとゼロになります。つまり、控除額38万円相当分の税金が増税となります。

年収が800万円から1,200万円に上昇した場合の手取りの変化

昇給自体は喜ばしいことですが、長い目で見て昇給が皆さんの生活にどう影響するかを確認するため、手取り額がどう変わっていくかについて試算しました。

算出したのは、年収が800万円、1,000万円、1,200万円と上昇した場合の手取り額の変化です。想定したモデルケースは、サラリーマン・専業主婦・15歳以下の子供2人の4人世帯。所得控除は基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除のみとしています。

▽表1 収入増加とそれに伴う手取り額の変化
モデルケース:サラリーマン・専業主婦・15歳以下の子供2人の4人世帯

ケース1ケース2ケース3
年収(円)800万100%1,000万100%1,200万100%
手取り額(円)
※税金・社会保険料引去り後
609万4,38476%748万7,90475%868万455472%

※モデルケースで、考慮した所得控除は基礎控除・社会保険料控除・配偶者控除で試算したもの

表1のとおり、年収に対する手取り額の割合を見ると、年収800万円で76%、年収1,000万円で75%、年収1,200万円で72%と手取り額の割合が低下していることがわかります。年収が増加しても、引去り額が増加して、手取り額の増加が年収と同じ比率で増加しないということがわかります。

手取り額が思ったより上昇しない理由

続いて、表2をご覧ください。年収800万円から1,000万円へ、年収1,000万円から1,200万円へ増加した場合の税金・社会保険料の内訳を示したものです。

▽表2 年収増加に伴う税金・社会保険料の内訳(単位:円)

ケース1
年収800万円から1,000万円への増加額内訳
ケース2
年収1,000万円から1,200万円への増加額内訳
年収の増加額200万100%200万100%
所得税-34万1,200-17%-49万5,970-25%
住民税-17万600-9%-22万4,700-11%
税金計-51万1,800-26%-72万670-36%
社会保険料-9万4,680-5%-8万2,680-4%
税金+社会保険料-60万6,480-30%-80万3,350-40%
手取り額139万3,52070%119万6,65060%

※筆者作成

ここで注目したいのが、年収増加額200万円に対する所得税の割合です。ケース1の場合は年収増加額200万円のうち17%が所得税だったのが、ケース2では年収増加額のうち25%が所得税になっています。これは先ほど説明したように、所得が大きくなると所得税率が上がる累進課税方式をとっているためです。

その結果、800万円から1,000万円へ収入が上がっても手取り額は約140万円しか上がらず、年収1,000万円から1,200万円へ上がっても手取り額は約122万円しか上がりません。

所得税の累進効果はどのくらいでしょうか。モデルケースを使って検証してみたいと思います。

*ケース1:年収800万円の場合
収入:800万円
給与所得控除:△190万円
基礎控除:△48万円
社会保険料控除:△107.3万円
配偶者控除:△38万円
課税所得:416.6万円
所得税額:416.6万円×20%-42.75万円=40.57万円(収入の5.1%)

*ケース2:年収1,000万円の場合
収入:1,000万円
給与所得控除:△210万円
基礎控除:△48万円
社会保険料控除:△116.8万円
配偶者控除:△38万円
課税所得:587.2万円
所得税額:587.2万円×20%-42.75万円=74.69円(収入の7.5%)

*ケース3 年収1,200万円の場合
収入:1,200万円
給与所得控除:△210万円
基礎控除:△48万円
社会保険料控除:△125.1万円
配偶者控除:0万円
課税所得:816.9万円
所得税額:816.9万円×23%-63.6万円=124.29万円(収入の10.4%)

※「給与所得控除」には所得金額調整控除を含む。

▽表3 各ケースにおける所得税額の割合の比較のまとめ

ケース1ケース2ケース3
収入800万円1,000万円1,200万円
所得税額40.57万円74.69万円124.29万
収入に占める所得税額の割合5.1%7.5%10.4%

※筆者作成

上記の表でおわかりのとおり、収入に占める所得税額の割合が5.1%~7.5%~10.4%と飛躍的に伸びています。これは主に所得税の累進課税効果によるものです。

それに加えて、ケース2からケース3への過程で、配偶者控除が38万円からゼロになっています。配偶者控除が受けられなくなることによる税額の増加を計算してみましょう。

*配偶者控除が適用されない場合の増税額の試算
所得税:38万円×23%=8.74万円
住民税 38万円×10%=3.8万円
増加する税金計:12.54万円

この12.54万円も手取り額が収入に比例して上がらない要因のひとつになっています。

副業による収入の多角化が有効

給与収入だけでは、昇給に伴う手取り額の増加分が逓減していくことを解説してきました。そこで提案したいのが、本業以外に別の「副業収入」を持って、将来的に収入のバランスをとることです。

もちろん、副業収入も本業収入と合算された上で「累進課税方式」が適用されるため、根本的な解決は難しいです。しかし、副業によっては減価償却費などを経費として計上したり、副業で発生した赤字を本業収入と損益通算できる強みがあります。経費計上や損益通算をすると、課税所得を抑えることができます。年収が同じであっても、課税所得が低い方が手取り額は多くなります。

では、副業収入を持つために、具体的にどんな方法があるかを考えてみましょう。

方法1:不動産収入を持つ

もしキャッシュフローに余裕があれば、ワンルーム・マンションなどの不動産を購入してテナントに貸すことで不動産事業を営むことができます。不動産投資を副業にすることのメリットは次の点があげられます。

(1) 副業のためにそれほど時間を取られない
(2) 建物の減価償却費と住宅ローンの金利が必要経費として計上できるため、適正な家賃収入があっても損益計算書上は赤字になることもあり、給与収入と損益通算して税金の還付を受けることも可能
(3) 家賃収入と住宅ローンの元利支払額をバランスさせれば、家賃で住宅ローンを返していることになり、テナントに家を貸しているうち少しずつ家が自分のものになっていく

給与収入を持ちながら不動産事業を営むことで、上記のような種々の節税メリットを期待でき、かつ事業が増大していく可能性もあります。

方法2:事業収入を持つこと

会社の仕事以外にコンピューターのプログラミングの能力をお持ちだったり、社会保険労務士や司法書士等の資格をお持ちであれば、それを副業として収入を得ることが可能です。

この場合は、個人的に所有していた自宅のコンピューターやプログラマーとしての知識を身につけるための機材の代金や、書籍、講習会の費用などを経費計上することができます。仕事も記事を書いたり、講習会の講師を努めたり、顧客の方の相談に乗ったりとさまざまで、自分の本業以外の人脈を広げることも可能です。

収入源の多角化は、人生のリスクヘッジにも有効

副業を持つメリットは、単に収入が増えることだけではありません。収入源が多角化することで人生のリスクヘッジが図れると同時に、自らの可能性を広げることにもつながります。

皆さんも収入の多角化にチャレンジしてはいかがでしょうか?

執筆:浦上 登
東京築地生まれ。大手重工業メーカーで海外営業を担当後、保険部門に勤務。現在、サマーアロー・コンサルティング代表。ファイナンシャル・プランナー、証券外務員第一種。ライフプラン等の個人相談および講演・記事執筆を行う。

>>会員登録して限定記事を読む

【関連記事】