税制改正
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昨年12月10日に与党から令和3年度の「税制改正大綱」が発表されました。個人所得税の部門では、住宅ローン控除の拡充や教育資金一括贈与の非課税制度の延長など、コロナ禍における景気振興策が見られるとともに、ここ数年来行われている富裕層への節税封じ対策も導入されます。この記事では、税制改正のポイントとその狙いを解説します。

目次

  1. 令和3年度(2021年度)税制改正のポイント
    1. ポイント1:コロナ禍における景気振興対策および世代間の所得移転の促進
    2. ポイント2:富裕層の節税対策へのけん制
  2. 住宅ローン控除の拡充
    1. 改正点1:住宅ローンの控除期間の特例措置の条件延長
    2. 改正点2:床面積要件の緩和
  3. 住宅資金取得等資金贈与の非課税制度の拡充
  4. 教育資金・結婚子育て資金一括贈与非課税制度の延長など
    1. 改正点1:教育資金・結婚子育て資金一括贈与非課税制度の延長
    2. 改正点2:非課税贈与の条件の見直し
  5. 退職所得課税の適正化
  6. その他の改正内容:新型コロナの影響の緩和および景気下支え対策
  7. 税制における今後の課題と動き
    1. 今後の課題1:住宅ローン控除税額控除額の見直し
    2. 今後の課題2:退職税制の見直し
    3. 今後の課題3:公的年金等控除の見直し
  8. 富裕層こそ今後の税制改正の動きに注視したい

令和3年度(2021年度)税制改正のポイント

個人に関連する令和3年度(2021年度)の税制改正大綱の要点は、コロナ禍における景気振興対策および世代間の所得移転の促進と富裕層の節税対策へのけん制ということになります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

ポイント1:コロナ禍における景気振興対策および世代間の所得移転の促進

コロナ禍の景気振興対策は、主に「住宅」「教育」「結婚・子育て」などに関するもので、従来からあった方策の期限延長で対応しているものがほとんどです。景気振興のために新しい税制をつくったというわけではありません。また、その方策を延長することにより、住宅資金・教育資金の贈与という形での世代間の所得移転を促すものになっています。

具体的には、次のとおりです。

  • ・特例措置である「13年間の住宅ローン控除」の期間延長
  • ・住宅資金・教育資金・結婚子育て資金贈与に関する非課税制度の期限延長
  • ・固定資産税の税額据え置き
  • ・自動車の税金の軽減措置(環境性能割・エコカー減税)の延長

ポイント2:富裕層の節税対策へのけん制

次の2つの改正から、富裕層に対するけん制の動きが見られます。

・けん制措置1:教育資金等一括贈与の見直し
教育資金一括贈与に関して、本来の目的から少し外れた23歳以上でかつ学生でない子・孫への贈与に関しては、贈与者の死亡時における残額すべてが相続税の対象となります。

現状は、贈与者の死亡3年前の贈与金額のみが相続税の対象となっていたので、相続税の対象となる金額がより多くなり、節税額が減少することになります。

・けん制措置2:退職所得に関する「2分の1課税」の見直し
勤続年数5年未満の役員以外の社員への退職所得に関する「2分の1課税」の見直しが取り上げられています(役員に関してはすでに見直し済み)。給与を低めにし、退職金を高くして転職をするという節税対策のけん制になっています。

概要がわかったところで、それらの税制改正に関し、1つひとつ説明したいと思います。

※これらの税制改正は国会で審議ののち可決成立するので、その過程で修正されることもありうることをお含みおきください。
※本文中では、過去の税制改正の年度に言及することがあるため、計算がしやすいように、税制改正の年度は西暦で表記しています。


【参考】
令和3年度税制改正の大綱の概要(令和2年12月21日閣議決定)
令和3年度税制改正の大綱

住宅ローン控除の拡充

2021年度の税制改正における「住宅ローン控除の拡充」は、2019年度の税制改正として盛り込まれた住宅需要振興のための施策がベースとなっています。2019年の税制改正の内容は以下のとおりで、消費税増税のための住宅需要落ち込みをカバーするために設けられたものです。

「住宅取得の後、入居時期が2019年10月1日から2020年12月31日までの新築・中古住宅またはリフォームで、消費税10%で購入したものについては、従来10年であった住宅ローン税額控除の期間を3年間延長する」。

そこに加えて、2021年度の税制改正ではコロナ禍による住宅需要の落ち込みをカバーするため、次の改正がなされました。

改正点1:住宅ローンの控除期間の特例措置の条件延長

住宅ローンの控除期間を13年とする特例措置について、関係する契約時期・入居時期が延長されます(図表1)。契約時期で1年、入居時期で2年の延長がなされたため、今後の住宅需要を下支えする効果があると思われます。

▽図表1 住宅ローンの控除期間の契約時期・入居時期の延長


区分 契約時期 入居時期 消費税率
新築 現行 ~2020.9.30
  ↓
改正後 2020.10.1~2021.9.30
現行 2019.10.1~2020.12.31
  ↓
改正後 2021.1.1~2022.12.31
10%のものに限る
建売・分譲・中古・増改築など 現行 ~2020.11.30
  ↓
改正後 2020.12.1~2021.11.30

※筆者作成


改正点2:床面積要件の緩和

次の条件をすべて満たした場合、住宅ローンの控除期間を13年とする特例措置を床面積40平方メートル以上の住宅にも適用されるようになります(図表2)。従来は床面積50m平方メートル以上の住宅が対象だったため、40~50平方メートルの住宅が新たに対象になります。

▽住宅ローン控除の床面積要件

  1. 2021年税制改正により新たに対象となったものであること
  2. 住宅取得者のその年の合計所得金額が1,000万円以下であること

これらの改正により、独身や夫婦のみの少人数世帯の住宅需要の喚起が見込まれます。ただし、2021年度の税制改正の対象になったものに限るため、新築なら2021年9月30日まで、建売・増改築等なら2021年11月30日までに契約する必要があり、時間的にあまり余裕がありません。これから購入する方は、今のうちに購入候補物件を探しておいて、2021年度の税制改正が成立したら、速やかに行動を起こす必要があるでしょう。

▽図2 床面積要件の緩和

住宅取得者の合計所得金額 現行の床面積要件 改正後の床面積要件
1,000万円超3,000万円以下 50平方メートル以上
1,000万円以下 50平方メートル以上 40平方メートル以上
※2021年度の税制改正で契約期間・入居期間を延長したものに限り適用する
※筆者作成

住宅資金取得等資金贈与の非課税制度の拡充

直系尊属から住宅資金などの贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度が2015年に創設されました。2021年4月以降の契約から非課税限度額が引き下げられる予定でしたが、図表3に示すとおり、2021年の税制改正により省エネ等住宅に限り2021年12月までは引き下げは行わないことになりました。

▽図表3 住宅資金取得等資金贈与の非課税限度額の改訂

契約締結時期 2020.4~2021.3 2021.4~2021.12
現行 改正後
消費税率10% 1,500万円 1,200万円 1,500万円
それ以外 1,000万円 800万円 1,000万円
※上記の対象は「省エネ等住宅」に限る。それ以外の一般住宅は現行どおり
※筆者作成


また、非課税制度の対象となる床面積要件が緩和され、先述の住宅ローンの控除期間の特例措置の延長の場合と同様、合計所得金額1,000万円以下の受贈者に対しては40~50平方メートルの物件も対象となります。

先述の住宅ローン控除の特例の延長と合わせ、2021年中の住宅需要の喚起が見込まれます(図表4)。

▽図表4 住宅資金取得等資金贈与の非課税制度における床面積要件の緩和

受贈者の所得制限 現行の床面積要件 改正後の床面積要件
合計所得金額1,000万円超2,000万円以下 50~240平方メートル
合計所得金額1,000万円以下 50~240平方メートル 40~240平方メートル
※2021年1月1日以降に贈与により取得する住宅資金取得等資金にかかる贈与税に適用される
※筆者作成

教育資金・結婚子育て資金一括贈与非課税制度の延長など

住宅ローン、贈与のほか、教育・結婚・子育て資金にかかわる改正も見逃せません。

改正点1:教育資金・結婚子育て資金一括贈与非課税制度の延長

現行の税制では、父母または祖父母が子または孫に教育資金または結婚・子育て資金一括贈与した場合、それぞれ受贈者1人あたり1,500万円、1,000万円の非課税枠があります。この制度は2021年3月31日で終了する予定でしたが、2年間延長になります。

改正点2:非課税贈与の条件の見直し

これらの制度を本来の目的でなく節税目的に使うことをけん制するため、次の改正がなされます。

・けん制措置1:教育資金一括贈与に関する残額の取り扱い
受贈者が贈与者の死亡日に23歳未満、学生などである場合を除いて、贈与にかかる残額がある場合は、その残額が受贈者の相続税の対象となります。現行では死亡前3ヵ月以内の贈与の残額のみ相続税の対象としていたので、相続税の対象となる金額が増えることになります。また、結婚・子育て資金については、すでに残額はすべて相続税の対象なので、教育資金一括贈与を結婚・子育て資金の一括贈与と同様にしたことになります。

この制度はもともと高齢者に偏る財産を若年層に移転させるために創設されたため、所得移転の自由度はかなり高かったといえます。

ところが近年、富裕層が亡くなる直前に、相続税の節税対策のために、学生ではない23~29歳の孫に習いごとをさせるなどして、教育資金一括贈与を非課税限度額一杯の所得移転を図るような例が増加してきたので、徐々にそれらの節税対策をけん制する方向に動いてきました。

今回の税制改正もそのような節税対策をけん制するためのものと言えます。ただし、教育資金一括贈与を本来の目的に使う場合、つまり受贈者が23歳未満または学生である場合などには、贈与者の死亡時期に残額があっても相続税の対象にならないので問題ありません。

・けん制措置2:孫への相続の場合の取り扱い
教育資金一括贈与・結婚子育て資金一括贈与とも、孫に相続させることになった場合、相続税は2割増しとなります。一般の相続では孫へ相続した場合、相続税は2割増しとなりますが、それと同様になります。

▽図表5 教育資金・結婚子育て資金一括贈与非課税制度の延長など

教育資金一括贈与 結婚・子育て資金一括贈与
非課税贈与の適用期間 現行 2013.4.1~2021.3.31
  ↓
改正後 2013.4.1~2023.3.31
現行 2015.4.1〜2021.3.31   ↓
改正後 2015.4.1~2023.3.31
受贈者の要件 子または孫(0~29歳) 現行 子または孫(20~50歳)
  ↓
改正後 子または孫(18~50歳)
同所得要件 合計所得金額1,000万円以下
1人あたりの非課税額 1,500万円 1,000万円
対象となる資金の範囲 入学金、授業料、学用品費、修学旅行費、学習塾の費用、スポーツ教室等習い事費用、留学のための渡航費用等 挙式費用、新居費用、転居費用、不妊治療費用、分娩費用、子供の保育費・医療費等
贈与者死亡時の相続財産への加算 現行 贈与者死亡前3年以内の贈与にかかる残額のみが相続税の課税対象
  ↓
改正後 残額すべてが相続税の課税対象

※ただし、23歳未満、学生等については現行どおり残額は相続税の対象にならない
残額すべてが相続税の対象
贈与者死亡時の孫への遺贈 現行 加算なし
  ↓
改正後 孫の相続税を2割加算(2021年4月1日以降)
※筆者作成

退職所得課税の適正化

今回の税制改正では、退職所得控除を節税目的で使うことに対するけん制を目指した改正があります。退職所得はその退職所得控除額の大きさのゆえに、給与を少なくして退職金を多くするなどの方法により節税手段として使われてきました。一方、そのメリットゆえに退職所得控除額を小さくすべきであるとの意見も出されてきました。

今回の改正はそれほど大きいものではありませんが、退職所得税制の見直しにつながるものということができます。

改正の内容は次のとおりです。

  • ・勤続年数5年以下の短期の退職金については「2分の1課税」の対象外とする(役員等についてはすでに適用済みにつき今回の改正の対象は役員等以外)
  • ・退職所得控除額を控除した残額が300万円以下の場合はその限りではない
  • ・適用は2022年以後の税金に対してとする

この改正により、勤続年数5年以下の役員を含む社員はすべて退職所得の節税効果をフルに受けることができなくなります

その他の改正内容:新型コロナの影響の緩和および景気下支え対策

ここまで税制改正大綱の主なポイントを見てきましたが、ほかに次のような改正も盛り込まれています。

・その他の改正1:固定資産税
従来3年おきに税額が上がっていましたが、2021年度に限り据え置きとなります。

・その他の改正2:子育て関連
国や自治体のベビーシッター費用の補助が非課税となります(従来は雑所得)。

・その他の改正3:自動車の税金
環境性能割の軽減措置が9ヵ月延長され、2021年12月31日までとなります。さらに、エコカー減税措置を2年間延長して2023年4月末まで延長されます。

税制における今後の課題と動き

2021年の税制改正では取り上げられませんでしたが、今後の税制改正で議論の対象となりそうな項目を挙げてみます。

今後の課題1:住宅ローン控除税額控除額の見直し

景気振興対策として控除期間13年の特例措置の延長が採用されました。しかし、一方で会計検査院は年末借入残高の1%を税額控除する方法を問題視しています。

現在の超低金利下では、変動金利で住宅ローンを借りると年利0.4%程度となり、1%の税額控除を適用するとマイナス金利になってしまうというのが問題視されている根拠です。控除しても、ゼロ金利で頭打ちにすべきで、マイナス金利は不必要なローンや、繰り上げ返済をしない動機につながり、不健全だという意見です。この点については2022年度の税制改正で取り上げられる可能性が高いといわれています。

今後の課題2:退職税制の見直し

退職税制は控除額が大きく、節税対策として使われてきましたが、終身雇用制が崩れつつある中で働き方によって損得がでるのはよくないとの意見があり、今後の税制改正で問題にされる可能性があります。

退職所得控除額は勤続年数20年までは1年あたり40万円、勤続20年を超えると1年あたり70万円と高額になるため、30年間勤めると退職所得控除額1,500万円にもなります。

それに加え、「退職金-退職所得控除額」の2分の1しか課税の対象になりません。終身雇用で長期間勤める人には有利ですが、短期で転職する人はそのメリットを享受できず、人材の流動化を促進するという観点からはあまり望ましくないという意見があります。

今後の課題3:公的年金等控除の見直し

労働年齢の高齢化に伴い、年金をもらいながら働く、給与収入のある高齢者が増えています。この場合、厚生年金や企業年金には公的年金等控除が適用され、給与には給与所得控除が適用されることになり、年金をもらいながら働く人は給与収入のみの人と比べ税務的に恵まれすぎているというのが問題点です。今後の税制改正で、この点が問題にされる可能性もあるでしょう。

富裕層こそ今後の税制改正の動きに注視したい

令和3年(2021年)の税制改正の内容と今後の見通しを解説してきました。これからも税制改正で富裕層の方々の節税対策をけん制するような提案がなされる可能性があります。

税制の今後の動向を見極めることが、富裕層の方々の中長期的な財産形成に重要だと思われるので、税制改正の動きには継続して注目されることをおすすめします。

執筆:浦上 登
東京築地生まれ。大手重工業メーカーで海外営業を担当後、保険部門に勤務。現在、サマーアロー・コンサルティング代表。ファイナンシャル・プランナー、証券外務員第一種。ライフプラン等の個人相談および講演・記事執筆を行う。

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