ニューヨークの街並み


長引くパンデミックにより、自然豊かなアップステートニューヨーク(ニューヨーク州の北部)が今、再注目されている。中でもマンハッタンから約200km北に位置するハドソンは、アムトラックと呼ばれる鉄道でも都心と繋がっており、週末を過ごす別荘地として高感度なニューヨーカーを中心に人気を得てきた。昨年春以降は“ウィズコロナ”のニューノーマルとしてステイホームやリモートによるワークスタイルが定着し、本拠地をハドソンに移す人も増えている。

ブルックリンからのヒップな移住組がハドソンの新しい顔に

ハドソンの歴史を振り返ると18世紀には捕鯨のための港として、その後はアメリカの製造業を支える工業地帯のハブとして栄えてきた。昔から船乗りや労働者たちが集う酒場やレストランなどが多く、その名残が今もこの街の魅力となっている。

古き良き街並みはまるで建築史辞典のようだと言われることも多い。ヴィクトリア様式の邸宅からオランダ風のファームハウス、20世紀初頭のアート&クラフト運動に影響を受けたビルディングなど、18世紀以降の代表的な建築様式が一堂に会す。そして90年代以降は多くのアンティークディーラーがショップをこの地域に構え始めた。

FINCH HUDSON
ヴィンテージ愛好家たちの間でも評判が高い店〈FINCH HUDSON〉。ローカルの陶芸家によるセラミック作品なども扱う。555 Warren Street, Hudson New York  ☎︎ 518-828-3430 https://www.finchhudson.com


ハドソンの目抜き通りであるウォーレンストリート(Warren Street)沿いには数多くのアンティーク、ヴィンテージショップが立ち並ぶ。中でも8年ほど前にオープンした〈FINCH HUDSON(フィンチ・ハドソン)〉はスカンジナビア系のミッドセンチュリー家具のセレクションで定評がある。

アンドリューさんとマイケルさん
〈FINCH HUDSON〉オーナーのアンドリューさん(左)とマイケルさん(右)。フレンドリーでスタイリッシュなカップルは地元の人気者だ。


FINCH HUDSONの内装
スカンジナビア系ミッドセンチュリーの家具も状態の良いものが多くそろう。発送も可能なので地元だけでなく、マンハッタンからの顧客も多い。


オーナーのアンドリュー・アリックさんとマイケル・ホフマンさんは、もともとブルックリンのウィリアムズバーグに住み、週末をハドソンで過ごしていた。アンドリューさんは20年以上にわたってサンローランやセリーヌなどのラグジュアリーブランドでキャリアを積み、一方マイケルさんは金融系分野で活躍していたが、ふたりともデザイン家具に興味があり、自分たちの家で使うヴィンテージを蒐集していたのが高じて店をオープンする運びとなった。8年前からハドソンに家を持ち、昨年からはここを本拠地にしている。

アンドリューさんによれば「コロナ以降、ハドソンに移転してくる人も多く、ヴィンテージ家具の需要は増えていますね。昨年5月には向かいにメンズファッションを主体にした2号店〈finch clubhouse(フィンチ・クラブハウス)〉をオープンしましたが、こちらもおかげさまで好調。特にショップ・イン・ショップの理髪店は、ずっと予約が途切れない、といった状況です」とのこと。

グルーミング&ヘアサロン
真向かいにある〈finch clubhouse〉内のグルーミング&ヘアサロン。ほか、メンズのファッション衣料や雑貨などライフスタイル全般を扱う。


アロマキャンドル
ローカルのアーティストとコラボレーションして作った〈FINCH HUDSON〉オリジナルのアロマキャンドル。


ハドソンの魅力についてマイケルさんに聞くと、「毎日ショップで接客しているので友達がたくさんできました。店がハドソンに住む人たちとのコミュニケーションの場となっているんです、フレンドリーでクリエイティブな人たちが多くいらっしゃいます」と語った。かつてはブルックリンでヒップスターのようなライフスタイルを送っていたふたりの店が、今はハドソンを活気づける原動力ともなっているようだ。

カフェスペース
VIEW of the WORLD~海外情報~ vol.7でも紹介した〈The Maker〉ホテルもウォーレンストリート沿いに。1階にあるカフェスペースは常に賑わいを見せる。https://j-prime.jp/archives/1946


ハドソンはアンティーク&ヴィンテージの宝庫

ウォーレンストリート以外にも、ヴィンテージやアンティークを探すなら《ANTIQUE WAREHOUSE(アンティーク・ウェアハウス)》へはぜひ足を伸ばしてほしい。約4000㎡の広大な倉庫にはさまざまなタイプのディーラーによるブースがずらりと並び、常時数千点以上の家具や生活雑貨などが展示販売されている。個性豊かなブースの品ぞろえには目移りしてしまうが、中には日本人ディーラー植田浩介さんによる〈INDIKO(インディコ)〉も。ここでは家具のほか、藍染によるハンドメイドの服とヴィンテージのテキスタイルにも目を惹かれる。

ANTIQUE WAREHOUSE
〈ANTIQUE WAREHOUSE〉はインテリアデザイナーなどプロの訪問も多い、アンティーク&ヴィンテージのメッカ的な場所。2014年にオープン。99 S Front Street, Hudson, New York ☎︎ 908-399-9445 https://theantiquewarehousehudsonny.com


植田さんはもともとマンハッタンで古着やストリート系衣料を扱う店のディーラーをしていたが、4年ほど前にハドソン近郊のキングストンという場所へ拠点を移した。「昔からデニムや先住民族の衣料が好きだったのですが、古くはデニムも藍染だったこと、また日本の衣料も昭和初期ごろまでは手捺染による藍染の衣料が主流だったことなどを知るうち、自分でもやってみたくなって」。 今では自宅内に日本的な手法での藍染工房を構え、原料となる藍の栽培も手がけている。

〈INDIKO〉ブース
〈ANTIQUE WAREHOUSE 〉内にある〈INDIKO〉のブース。アメリカやヨーロッパのヴィンテージ家具と古着、藍染のプロダクトを販売する。https://www.chairish.com/shop/ruqut5


現在の生活環境について植田さんは、「山に囲まれた家では時間の流れもゆっくりで、言葉にはならないものをかみしめるように過ごす時間はとても贅沢に感じられます。藍を栽培する土地もふんだんにあるので生産性も高く、子どもを育てるにも良い環境だと思います。ゆったりした日々の生活からはクリエイティブなアイディアも生まれやすく、本当に移住してきて良かったです」と話す。

自然をインスピレーションとしたアート

アップステートからマンハッタンの西岸にかけて流れるハドソン川沿岸の豊かな自然は昔からアーティストたちの大きなインスピレーションともなってきた。19世紀半ばにはこの界隈の風景画を主に描いたハドソンリバー派と言われる芸術運動が興り、中でも創始者のトマス・コールはメトロポリタン美術館で個展も開催されるほどの大家として知られている。

ART OMI
Courtesy Art Omi. Photograph by Alon Koppel
ウォーレンストリート界隈から車で20分ほどの位置にある〈ART OMI〉。120エーカー(約50万㎡)の広大な敷地には、アートや建築の教育機関も。1405 County Route 22, Ghent NewYork ☎︎ 518-392-4747 https://artomi.org


風光明媚なランドスケープを活かしたサイトスペシフィックなアートや建築作品を屋外展示する〈ART OMI(アート・オミ)〉では、これまで世界約100ヶ国2000名以上による作品を紹介してきた。祭日以外、年間を通じて開館しており、しかも入場は無料。四季折々の自然を楽しみながら、アウトドアで作品鑑賞ができるのはハドソンらしいアクティビティと言っていいだろう。

Magnetic Z
Courtesy Art Omi. Photograph by Bryan Zimmerman
プリンストン大学で教鞭もとる建築家Cameron WuによるMagnetic Z。階段を登って、作品内部を体験することも可能。


カルチャーと自然、その両方が充実したライフスタイルに魅了されるハドソン。コロナ以降は特に不動産価値もかなり上がっている。自分の人生にとって何が一番大切か、というプライオリティーをつける良い機会でもある今、「ハドソンか? それともマンハッタンか?」そんな選択肢に頭を悩ませるニューヨーカーも増えているようだ。

ハドソンの景色
ハドソンリバー沿いを走るアムトラックの車窓からはハドソンバレーの美しい景色も楽しめる。ドラマチックな夕日の色に包まれるハドソン駅界隈。


撮影/GION 構成・文/市川暁子 企画編集/横山直美(cat)

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