日本,叙勲制度
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毎年、春と秋に、さまざまな分野で功績のあった人に国から贈られる「勲章・褒章」。受勲者が臨む儀式である親授式と天皇陛下への拝謁を報道で目にしたことがあるかもしれません。晴れやかな表舞台の一部は報道されますが、その成り立ちや叙勲されることの意義を説明できる人は少ないでしょう。個人としては最高峰の名誉ともいえる日本の叙勲制度、その知られざる世界に迫ります。

最高峰の名誉、「勲章」「褒章」とは何か?

日本では優れた成果を上げた功労者を表彰する制度として、「勲章」と「褒章」の2つがあります。いずれも国や地域、公共において功績があった人から毎年候補者が選考され、天皇陛下の御裁可をもって発令、そして勲章・褒章が授けられます。テレビなどで耳にする“叙勲”とは、こうした手続きによって勲章や褒章を授けることを指します。

叙勲は年に2回「春の叙勲」、「秋の叙勲」が行われており、これらを合わせて春秋叙勲と呼ばれています。大勲位菊花賞など一部の勲章の受章者は、皇居に参内して天皇陛下に拝謁する機会があります。

勲章は、原則70歳以上の人を対象としており、その人の生涯を通じた国家や社会に対する功績を総合的に判断されます。それに対し、褒章は原則55歳以上で、特定の分野で顕著な実績を収めた方に授与される点に違いがあります。

まずは各制度の沿革と種類を押さえましょう。

明治時代から始まった、勲章・褒章制度

日本の勲章・褒章制度は、1875年(明治8年)に勲章制度が創設され、次いで、1881年(明治14年)に褒章制度が創設されました。現在私たちがニュースなどで目にするのは、これらの制度が2003年(平成15年)、2016年(平成28年)に改正されたものです。政府は制度改正を経て受章機会の拡大を進めており、より幅広い人々に積極的に授与しようと取り組んでいます。

勲章・褒章の主な種類

功績によって、叙勲される勲章と褒章にはさまざまな種類があります。主な勲章には、下記の種類があります。

▽主な勲章の種類

種類授与対象
大勲位菊花章(だいくんいきっかしょう)
桐花大綬章(とうかだいじゅしょう)
旭日大綬章または瑞宝大綬章を授与されるべき功労より優れた功労のある方
旭日章(きょくじつしょう)瑞宝章(ずいほうしょう)国または公共に対し功労のある方 旭日章:功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた方
瑞宝章:公務などに長年にわたり従事し、成績を挙げた方
文化勲章(ぶんかくんしょう)文化の発達に関し特に顕著な功績のある方

【参考】政府広報オンライン「勲章のはなし 国が功労を表彰するということ」

最高位にあたる大勲位菊花章の受章者には、皇室や元内閣総理大臣の名を連ねています。旭日章や瑞宝章、文化勲章は、官民や教育機関での功労者が受章しています。受章者は日本人に限らず、2020年秋には外国人叙勲として141名の方が受章しています。
【参考】内閣府「令和2年秋の叙勲受章者名簿」

一方、特定分野における善行に主眼が置かれる褒章は、受章する分野によって綬(リボン)の色、呼び名が変わる点が特徴です。

▽主な褒章の種類

種類授与対象
紅綬褒章(こうじゅほうしょう)自己の危機をかえりみず人命の救助に尽力した方
緑綬褒章(りょくじゅほうしょう)長年にわたり社会に奉仕する活動(ボランティア活動)に従事し、顕著な実績を挙げた方
黄綬褒章(おうじゅほうしょう)農業、商業、工業などの業務に精励し、他の模範となるような技術や業績を持つ方
紫綬褒章(しじゅほうしょう)科学技術分野における発明・発見や、学術およびスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた方
藍綬褒章(らんじゅほうしょう)・会社経営、各種団体での活動などを通じて、産業の進行、社会福祉の増進などに優れた業績を挙げた方
・国や地方公共団体から依頼されて行われる公共の事務(保護司、民生・児童委員、調停委員などの事務)に尽力した方
紺綬褒章(こんじゅほうしょう)公共のため私財を寄付した方

【参考】政府広報オンライン「勲章のはなし 国が功労を表彰するということ」

2020年秋の叙勲では、802名の方が褒章を受章。著名人としては、俳優の中井貴一さんや、漫画家の高橋留美子さんなどが紫綬褒章を受章しました。

叙勲されることの意義は?

叙勲者は内閣総理大臣が決定した「春秋叙勲候補者推薦要綱」に基づいて、各省庁の長から推薦されることとなっています。その後、審査、閣議決定を経て叙勲者が決定します。この手続きからも、叙勲とは自らの功績が国家から認められ、それが世間にも示される意味で、個人にとって最高位の名誉だといえます。

一方で勲章・褒章は、「いかなる特権もともなわず効力は叙勲された人一代に限ったもの」と憲法で定められています(第14条第3項)。つまり、この勲章・褒章を子孫に受け継ぐこともできませんし、また叙勲されたことによって受章者は賞金がもらえるわけでもありません。

実益はなくとも、叙勲を受けることの最大の意義は、個人の功績が後世に残ることにあるといえるでしょう。実際に、春秋叙勲は日本において広く認識されています。国や公共のために日々貢献している人にとって、叙勲されることで努力や功績が評価されることは誇りでもあり、さらなる活躍に向かうモチベーションにつながるはずです。

歴史と文化を象徴する、海外の勲章

勲章・褒章のような、国として個人を表彰する制度は“栄典制度”とも呼ばれ、海外にも数多く見られます。ただし、国によって栄典制度の成り立ちはさまざまで、その違いに各国の歴史と文化が表れています。井田敦彦氏の論文を参考にすると、イギリス、フランス、アメリカの栄典制度は次のような特徴があるといえそうです。

イギリス

イギリスには貴族階級が存在しており、その下に准男爵とナイト(騎士)の爵位があります。ナイト(騎士)はランクごとに騎士団を構成し、その構成員の団員章としてランクごとに与えられるのが勲章となります。勲章の種類が社会的な階級、職種、職業の中の地位に値するように体系的に整備されています。

フランス

大統領から授与される主な勲章として、レジオン・ド・ヌール勲章と国家功労勲章があります。レジオン・ド・ヌール勲章は、国家に奉仕した文民・軍人に対しての最高位の国家勲章です。ほかに、文化省から授与される芸術文化勲章などがあります。

アメリカ

アメリカの勲章は、おもに軍人に対する戦功章である点が特徴的です。文民に対しては、国家安全保障や文化などの分野で功績のあった人に授与される「大統領自由勲章」があります。

社会貢献へ尽力する民間人にスポットを当てる日本の勲章・褒章制度

勲章・褒章制度について解説してきました。日本の勲章・褒章制度は、現在、民間への授与を積極的に推進しており、社会やたくさんの人のために尽力してきた人をスポットライトで照らす役割を果たすと同時に、国や社会において功績が評価されるべきものを世間に示す役割も持っています。

また、勲章・褒章制度には「一般推薦」があります。年齢などの条件もありますが、十分な功績を認めて推薦してくれる人がいるのなら、叙勲は決して遠いものではないのかもしれません。

文・J PRIME編集部

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