確定拠出年金,受け取り方
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「掛金が全額所得控除になる」「運用益が非課税」などの税務メリットを魅力に感じて、iDeCoや企業型確定拠出年金に加入されていられる方は多いと思います。ですが、この恩恵を最大限に受けるためには、受け取り方まで考える必要があります。

この記事では、どのような受け取り方をすれば、税務メリットをフルに活かすことができるのか、その方法について解説します。

目次

  1. 税務メリットに優れる、確定拠出年金のおさらい
  2. 確定拠出年金の受け取り方は3種類
  3. 「年金方式」で受け取る場合:雑所得として計算され、総合課税に
    1. 年金方式でiDeCoを受け取った場合のシミュレーション例
  4. 「一時金」で受け取る場合:退職所得として計算され、分離課税となる
    1. 一時金での受取る場合のシミュレーション例
  5. どうしたら税務メリットをフルに生かせるか?
  6. 受け取り時の状況に応じて最適な方法の検討を

税務メリットに優れる、確定拠出年金のおさらい

確定拠出年金とは、企業または個人が拠出した掛金を加入者自身が運用方法を選択して自らのリスクで運用する年金です。企業が従業員のために掛金を拠出する「企業型」と、企業の従業員や自営業者の方が自分で掛金を拠出する「個人型」の2つがありますが、いずれも老後に備えるための制度という点は共通しています。「個人型」はiDeCoという名称で広く知られています。

「企業型」「個人型」とも、確定拠出年金は税制上優遇されている点が特長です。「企業型」の場合、掛金は100%企業の損金に計上でき、運用益も含めた企業の年金資産には税金がかかりません。「個人型」の場合は、掛金は全額所得控除の対象になり、運用益も非課税です。

確定拠出年金の受け取り方は3種類

一見すると税制的に恵まれている確定拠出年金ですが、じつは受け取り時の税制まで考えた上でないと十分なメリットを享受することはできません。

確定拠出年金の受け取り方には、「年金」「一時金」「年金と一時金の組み合わせ」の3通りがあります。それぞれで税金の計算も変わってくるため、ひとつずつ見ていきましょう。

「年金方式」で受け取る場合:雑所得として計算され、総合課税に

年金で受け取る場合、確定拠出年金は公的年金などに係る雑所得とみなされ、公的年金等控除の対象となります。

雑所得の金額は下の図表1に基づき計算しますが、総合課税なので、確定拠出年金の収入だけでなく公的年金やその他の収入も加えて計算する必要があります。公的年金やその他の収入の多い方は税金も高くなることになります。

▽図表1:公的年金等にかかる雑所得の速算表(令和2年分以後) 

年金を受け取る人の年齢公的年金等収入額の合計額公的年金等に係る雑所得金額
65歳未満60万円以下0円
60万1円以上130万円未満収入金額-60万円
130万円以上410万円未満収入金額×75%-27万5,000円
410万円以上770万円未満収入金額×85%-68万5,000円
770万円以上1,000万円未満収入金額×95%-145万5,000円
1,000万円以上収入金額-195万5,000円
65歳以上110万円以下0円
110万1円以上330万円未満収入金額-110万円
330万円以上410万円未満収入金額×75%-27万5,000円
410万円以上770万円未満収入金額×85%-27万5,000円
770万円以上1,000万円未満収入金額×95%-145万5,000円
1,000万円以上収入金額-195万5,000円

【出典】国税庁「公的年金等の課税関係」

年金方式でiDeCoを受け取った場合のシミュレーション例

下記は公的年金受給者がiDeCoを年金で受け取った場合、どれだけ税金が増えるかという試算です。所得税率を5%として計算していますが、ほかの収入が多いと所得税率が高くなる可能性があります。

▽設定例
・年齢:65歳以上
・公的年金収入:240万円
・iDeCo年金収入:120万円

・(1) 公的年金収入だけの場合の雑所得の金額
240万円-110万円=130万円
・(2) 公的年金収入とiDeCo年金収入が両方ある場合の雑所得の金額
(240万円+120万円)×75%-27.5万円=242.5万円
・(1)から(2)への雑所得の増加額
242.5万円-130万円=112.5万円

▽(1)から(2)への税金の増加額
(A)所得税+復興特別所得税:
112.5万円×5%×2.1%=約5.7万円 ※所得税率を5%と仮定
(B)住民税:112.5万円×10%=約11.3万円

(A+B)税金計:約17万円

上記のようなケースでは、iDeCoで積み立て、運用したお金を年金で受け取ると、約17万円の税金が増えることになります。

「一時金」で受け取る場合:退職所得として計算され、分離課税となる

iDeCoで積み立て、運用したお金を、一時金として受け取った場合は「退職所得」となり、退職所得控除が適用されます。

退職所得控除は、通常、企業からもらう退職一時金に適用される税制ですが、iDeCoなど確定拠出年金を一時金で受け取る場合にも適用されます。退職所得および退職所得控除額は、勤続年数に応じた計算が必要です。

▽課税退職所得額の計算式
課税退職所得額=(退職金の額-退職所得控除額)× 1/2

▽図表2:退職所得控除額の計算式

勤続年数(A)退職所得控除額
20年以下40万円×A
※80万円に満たない場合は80万円
20年超800万円+{70万円×(A-20年)}

退職所得控除額は勤続年数20年で800万円、30年で1500万円とかなり大きく、かつ、課税退職所得金額は計算式に示す通り、退職一時金から退職所得控除額を引いた額の2分の1になるので、大きな節税効果が期待できます。

一時金での受取る場合のシミュレーション例

・確定拠出年金のみの場合
たとえば30歳から60歳までの30年間iDeCoの積立を行い、運用後の受け取り額が1,200万円あるとします。これを一時金で受け取る場合の税金はいくらになるでしょうか。

iDeCo一時金総額:1,200万円
退職所得控除の額: 800万円+{70万円×(30年-20年)}=1,500万円

この場合、iDeCo一時金総額より退職所得控除額の方が大きいので、税金はかかりません。

それでは確定拠出年金は、年金方式にするより一時金にした方がよいのでしょうか。

答えはそう単純ではありません。通常の場合、企業からの退職一時金をもらう方が多く、その場合、退職所得控除額は、退職一時金にも使うことになるので、両者で退職所得控除額をわけ合うことになるからです。

・同一年度に2つの一時金を受給する場合
上述したように、会社員は多くの場合、退職一時金をもらうケースが多いことでしょう。これは、iDeCoとあわせて、2つの一時金を受給することになります。同一年度に同時に受給した場合、どのような税額となるのか、試算してみましょう。

▽前提2
・勤続年数:38年(22歳から60歳)
・退職一時金:2,000万円
・iDeCo一時金:1,200万円
・iDeCo加入期間:30年(30歳から60歳)
・退職一時金およびiDeCo一時金受給年齢:60歳

▽シミュレーション
・退職一時金およびiDeCo一時金受給額計:3,200万円
・退職所得控除を受給する際の勤続年数:38年
・退職所得控除額:800万円+{70万円×(38年-20年)}=2,060万円
・課税退職所得金額:(3,200万円-2,060万円)×1/2=570万円

(A)所得税および復興特別所得税:(570万円×20%-42.75万円)×1.021=約72.7万円
(B)住民税:570万円×10%=57.0万円
(A+B)税金計:129.7万円

退職一時金とiDeCo一時金を同一年度に受給すると、退職所得控除額を超えてしまい、かなり税金がかかってしまうことがわかります。

・2つの一時金を異なった年度で受給する場合
それでは、2つの一時金を異なった年度に受給したらどうなるでしょうか。退職一時金を60歳で受給し、iDeCoの加入期間は、同じ30年間で比較するため35歳から65歳※にずらしたケースで計算してみたいと思います。
※現在iDeCoの加入年齢は60歳までですが、2022年5月1日から65歳まで加入することができるようになります。

▽前提2
・勤続年数:38年(22歳から60歳)
・退職一時金:2,000万円
・iDeCo一時金:1,200万円
・iDeCo加入期間:30年(35歳から65歳)
・退職一時金受給年齢:60歳
・iDeCo一時金受給年齢:65歳
・退職一時金およびiDeCo一時金受給額計:3,200万円

▽シミュレーション
(1)退職一時金の税額計算
退職一時金金額:2,000万円
退職所得控除額:800万円+{70万円×(38年-20年)}=2,060万円)
税額:0円
→退職所得控除額が退職一時金より大きいので、課税退職所得金額および税額もゼロ
※退職所得控除額は60万円余ります。

(2)iDeCo一時金の税額計算
→この場合は一時金同士の重複年数を考える必要があります。
・退職所得控除額:800万円 +{70万円×(30年-20年)}=1,500万円
・重複年数:25年
・退職一時金のみなし勤務年数:(2,000万円-800万円)÷70万円+20年=37年
※計算方法は下記参考URLを参照
・重複みなし勤務年数:24年
※みなし勤続年数とiDeCo加入期間の重複年数

・重複みなし期間相当の退職所得控除額:
800万円+{70万円×(24年-20年)}=1,080万円
・iDeCo一時金退職所得控除額:1,500-1,080=420万円
・課税退職所得金額:(1,200万円-420万円)× 1/2=390万円
 
(A)所得税+復興特別所得税:(390万円×20%-42.75万円)×1.021=約36.0万円
(B)住民税:390万円×10%=39.0万円
(A+B)税金計:75.0万円

【参考】みずほ総合研究所「退職金と企業年金の税務Q&A」

ここまでiDeCoの加入期間は同じ30年間として、退職一時金と同年に受け取った場合と、異なる年に受け取った場合を比較してきました。結果をまとめると次のようになります。

(1)勤続期間とiDeCo加入期間が5年ずれることによって重複期間が30年から25年へと5年間減り、その期間相当分=5年分の退職所得控除額をiDeCo一時金の退職所得控除額として使うことができるようになる。

(2)退職一時金における退職所得控除額が60万円残ったので、その分の退職所得控除額(1年分に相当)が増え、iDeCo一時金に対する退職所得控除額がさらに1年延び、最終的に6年分となる(70万円×6年=420万円の退職所得控除額が増える)。

その結果、税額は129.7万円から75万円に減少し、54.7万円(-42%)の節税が可能になりました。

どうしたら税務メリットをフルに生かせるか?

今まで検討したことをまとめてみましょう。一時金による退職所得での受け取りの場合、図表3に示す通り、受け取り時期をずらすことにより、退職所得控除額を有効活用することができ、大きな節税効果が実現できます。

▽図表3:一時金での受け取り方法と税額比較

同一年度に2つの一時金を受領する場合2つの一時金を異なる年度に受給する場合
受け取り方法一時金
適用税制退職所得
受け取り年度同一年度iDeCo一時金を5年遅れで受け取る
勤続年数38年
退職一時金2,000万円
退職一時金の受給年齢60歳
iDeCo加入期間30年
iDeCo一時金,200万円
iDeCo一時金の受給年齢60歳65歳
重複加入期間30年25年
一時金計3,200万円
所得税+復興特別所得税72.7万円36万円
住民税57万円39万円
税金計129.7万円75万円

対して、年金方式での受け取りと一時金での受け取りの比較は、次の理由によりそう簡単ではありません。

(1) 年金方式では受け取り期間が10年以上の長期になるので、その間に収入や家族構成が変わり、税額も変わる可能性がある。
(2) 総合課税なので、公的年金や他の収入によって所得税率が変化し、税額も変わる。

上記の事情を踏まえた上で、企業からもらう退職一時金の税額をゼロとし、納税者の状況が1年目と変わらないと仮定して、あえて年金方式による税額を提示すると図表4の通りとなります。

▽図表4:年金での受け取り方法と税額

1年分10年分
受け取り方法年金
適用税制雑所得
公的年金額240万円2,400万円
iDeCo年金額120万円1,200万円
その他収入なし
所得税+復興特別所得税5.7万円57万円
住民税11.3万円113万円
税金計※17万円170万円

※退職一時金の税額はないものと仮定
※税金計は公的年金にiDeCo年金を加えた場合の税金の増加額を示す
※所得税率は5%と仮定

ごく大雑把に見ると、一時金での受け取りのほうが、節税メリットがありそうです。年金方式の活用の仕方として考えられることは、60歳時点で受け取る一時金が退職所得控除額を超える(課税退職所得額が発生する)場合、超えた分を年金に振り替えることで、節税効果がでるかどうかを検討することだと思います。

受け取り時の状況に応じて最適な方法の検討を

iDeCo、確定拠出年金は税務メリットがあるので老後資金の貯蓄にはうってつけの商品ですが、「掛金の積立」「運用」「受け取り方」の三段階がそろって税務メリットが確定します。

この三段階のうちで、最も多くの要素が絡み複雑なのが「受け取り方」です。この記事では最も基本的な節税の方法を解説しましたが、実際に確定拠出年金を受け取られる時点の皆さんの状況に応じて、どういう方法が最もメリットがあるのか、専門家に相談されることをおすすめします。

執筆:浦上 登
東京築地生まれ。大手重工業メーカーで海外営業を担当後、保険部門に勤務。現在、サマーアロー・コンサルティング代表。ファイナンシャル・プランナー、証券外務員第一種。ライフプラン等の個人相談および講演・記事執筆を行う。

文・J PRIME編集部

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