『季音』薪火による繊細な火入れで 食材のうまみを巧みに引き出す創作薪火料理


鎌倉駅西口から歩いて数分の今小路通り沿いにひっそりと佇むレストラン「季音(きのん)」。新鮮な鎌倉野菜や相模湾長井漁港の魚介、厳選した肉を薪火で火入れした、コンテンポラリーな創作料理を提供する店である。オーナーシェフの村野敏和さんは、日本のみならず、サンフランシスコのミシュラン三ツ星レストラン「Saison(セゾン)」で腕を磨いてきた。素材のうまみを引き出した料理のファンとなる人が、地元民を筆頭に後を絶たない。時間と手間をかけた薪火料理の魅力をお届けします。

修業時代の経験を生かした、薪火料理を軸にしたレストラン

食材を焼く。その熱源として薪火による直火を取り入れたスタイルが、「季音」の最大の特徴であり魅力である。日本で定着している炭火焼きの調理法ではなく、薪火焼きを採用したのには、村野さんの修業時代の経験が大いに関係している。

「サンフランシスコでは薪火を導入したレストランが少しずつ増えてきていて、その中でも『Saison』の調理技術はすごくレベルが高いと感じていました。『ここで働きたい』と志願する人はたくさんいましたが、非常に狭き門で、日本人の雇用は僕が初めてだったそうです。“日本人代表”としても恥ずかしくない仕事をしなければ、という想いが常にありましたし、レベルの高い同僚がしのぎを削っている現場は非常に厳しく、刺激的でした。その後、日本に戻り、いざ自分の店をオープンしようとなったとき、薪火焼きで調理をしたいと強く思いました。薪が与える繊細な燻香が一番の魅力で、食材のみずみずしさを保ちつつ風味を効率よく凝縮させる点も優れています。 薪火はオーブンのように温度や時間をセットすることができません。 火の強弱はその時々で変わり、火入れは自ずと不均一に。でも、そこを操ることができるのが薪火の魅力。ガスの火では出せない味わいなのです。焦がし具合、燻し具合など、料理人の技量と経験、個性がそのまま料理に反映されます。薪が生み出す独自の味わいと、見ているだけで温かな気持ちになれる炎のゆらぎを堪能してもらいたくて」

薪火
竈(かまど)の隣でパチパチと小さな音を立てながら燃え揺らぐ薪火。火の強弱を操りながら火入れすることで食材の味が決まる。村野さんの技術と経験によって、燻(いぶ)し具合を巧みに調整していく。


カウンターキッチン
厨房がまるでステージのように感じられる完全オープンキッチン。一本の原木からひいた二枚の板で作ったL字型のカウンターから、村野さんの丁寧な仕事ぶりを眺められる。


熟成肉の薪火焼き
250℃程度の薪火の火力で、フランス・ビュルゴー社の窒息鴨をじっくりと時間をかけながら燻す。コース料理には「本日の熟成肉の薪火焼き」として、日替わりの肉が提供される。


薪火の繊細な火入れ加減で奥行きのある味わいが生まれる

基本的に仕込み、調理、サービスのすべてを村野さんひとりで担っており、自身の目が届く範囲で客をもてなすことを大切にしている。

「お客さまと直接会話する時間も楽しいですね。お客さまからは、薪火調理について質問をいただくこともしばしばあります。店の状況次第では、実際に調理の様子を直に眺めてもらうことも」

揺らぐ薪火の炎を眺めながら寛いでいると、コース料理の最初に振る舞われる「丹波栗のポタージュスープ」が。

ポタージュスープ
「丹波栗のポタージュスープ」。和栗の中でも風味も甘みも濃厚な丹波栗。すりおろした栗本来の味がストレートに感じられる。「茹で上がったばかりのあったかくてホクホクした状態で丹波栗の皮をむいて作業することが美味しさの秘訣です」と村野さん。


「日々思索と試作を重ねてクオリティを高めていきたい」と語りながら出してくれたのが、北海道のバフンウニを使った定番メニューのウニトースト。器の高台に乗せた、寿司のように見立てた盛り付けが楽しい一品だ。

パテドカンパーニュ
「トーストに使用したのは、地元のパン屋から仕入れているパン・ド・カンパーニュ。表面から5ミリ程度がカリッと焼き上がるように、薪火を弱火に調整してじっくりと焼きました」。口に運ぶ瞬間に、パンの芳ばしい香りが鼻をくすぐる。パンの表面はカリッと焼き、パンの下部の茶色い部分は「ブレッドソース」という燻したパンから作ったソースに浸している。食感が楽しいパンととろけるような舌触りのバフンウニの一体感は、どこかデザートのような味わい。


「海鮮類は地元の漁師さんや市場の仲卸さんから仕入れて、地元の旬の食材を使うことが多いですね。ここでは出合えないバフンウニは北海道から新鮮なものを取り寄せています。昆布だしをベースにした液体ソースをかけるとよりウニのうまみが強まります」

ひとつの食材のうまみを引き出す調理方法を徹底的に考える

細部まで緻密に構築しながら、アウトプットはシンプル。素材のうまみをストレートかつ濃厚に楽しめるのが、村野さんの料理の魅力である。

「『Saison』で学んだのはひとつの素材を深く突き詰めること。例えばビーツを使うなら、それをどれだけ掘り下げて美味しくできるのかを考えられるかが大切。ほかのレストランでは、ビーツとフォアグラとか、組み合わせの妙を提案する料理も多いですよね。僕が好きなのは、ひとつの素材の使い道を突き詰めた料理。素材の良さが際立つ料理を常に目指したいです」

リゾット
北海道産の真鱈の白子を使ったクリーミーなリゾット。バターをくぐらせ、薪火の薫香をつけながら焼いた白子の上には、鎌倉の小坪海岸で獲れたタコを燻したタコブシを削った。


「季音」のコース料理を締めくくるのは、2品のデザート。この日、出てきた一品めはラ・フランスとマシュマロを使ったアイスクリームだ。

デザート
ラ・フランスとマシュマロをベースに作った口溶け滑らかなアイスクリームの上にキャラメルを。「キャラメルは生クリームと牛乳、砂糖を溶き、一旦ペーパーフィルターで濾してからバターを加え、さらに薪火で燻して作っています。この一連の作業によって味に奥行きが生まれるんです」


「季音」のコースメニューは8品から9品。そのどれもが旬の食材の美味しさをストレートに感じられる、手間ひまかけたシンプルで奥深い料理だ。村野さんの料理にかける情熱に感動し、常連は2週間に1回くらいに訪れるほどだという。村野さんは、そんなお客さまの期待を超えられるようにと、コース料理をフレキシブルに新鮮な内容にアレンジする。常に最高の味を届けるために、厨房の中、村野さんの思索は続いていく。



【ショップインフォメーション】
「季音」
神奈川県鎌倉市御成町13-22
☏ 0467-39-5091
営業時間
Dinner: 17:30∼20:00
おまかせコース8品〜
8,200円
*別途、消費税+薪火料7%

休 日曜日、第2・第4月曜日(ランチは木、金、土のみ営業) 
https://kinon-kamakura.com/

撮影/吉次史成 構成・文/矢島聖佳

※新型コロナウイルス感染症対策として店内やスタッフの除菌、営業中のマスク着用を徹底。

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