うなぎ時任


日本における鰻文化に新たな波をもたらす新進気鋭の鰻専門店「うなぎ時任」。伝統を守りつつ、いままでにない味や感動を追求した、和食とフレンチを融合させた鰻フレンチ割烹が話題を呼んでいる。2年前に東京・麻布十番に満を持して店をオープンさせた店主の時任恵司さんは、鰻料理の世界に足を踏み入れて、はや20年。鰻にかける熱い想いと愛情は並々ならぬものがあります。客の目の前で新鮮な鰻をさばき、串打ちし、炭火でじっくりと丁寧に焼き上げる。磨き抜かれた職人技を生で見られる圧巻のパフォーマンスは、心躍るディナータイムを誘ってくれます。時任さんの柔軟な発想によって生み出される、新しい鰻料理の魅力をお届けします。

寒い季節に食べ頃を迎える鰻を味わい尽くす贅沢なフルコース

日本で鰻が文献に初めて登場したのは、かの万葉集だと語り継がれている。短歌で謳われたのは、夏痩せした人に鰻を食べることを勧める内容だった。そのことからも、古くから鰻は「滋養強壮に効果のある魚」として愛されてきたことがうかがえる。そうした慣習や「土用の丑の日」に鰻を食べることを推奨するイベントが定着し、「鰻といえば夏」という、一般的な共通認識が浸透した。しかしながら、実際のところは「鰻は寒い季節に食べ頃を迎えるんです」と時任さん。その理由はいくつかあるが、第一に自然の摂理が前提といえる。なぜなら、鰻に限らず、魚自体が寒さから自らの身を守るために脂肪を蓄え、脂がのった状態になるからだ。冬の鰻を食べたことがない人は、「うなぎ時任」のコース料理で、ぜひ味の違いを確かめてみてほしい。

時任恵司さん
創業から200年以上続く鰻の老舗「麻布野田岩」で15年間修業した経験を持つ時任恵司さん。各店舗の料理長を務めたのち、パリの支店へ。そのときにヨーロッパのさまざまな食や文化を体得し、鰻料理とフランス料理を融合したスタイルを編み出した。カウンター8席と個室のみ。カウンター越しに、ライブ感のある調理風景と時任さんとの会話を楽しめる。


料理とカウンターでの会話を通して、鰻の新しい魅力や正しい知識を届けたい

長きにわたり老舗の鰻屋で修業した時任さん。パリの支店にも派遣され、海外のさまざまな文化に触れたことで、改めて日本の鰻文化に向き合う機会を得たという。 「日本では、なぜか鰻に関しては昔ながらの老舗店が強く支持される傾向がありますよね。フレンチやイタリアン、日本料理も寿司屋でさえも、新しい店が次々話題になるのに。つまり、作り手も食べる側も固定観念に縛られてしまっているところがどうしてもあるのではないかと。そんな意識を少しでも変えたいという想いがありました。そこで、自分の店は、鰻料理の核となる伝統的な部分を守りながら、フランス料理の技術を融合したスタイルでやっていきたいと思うように。自分がそのときに作りたいと思ったメニューにトライしていきたいと思っています」

うなぎバーガー
先付けとして供される「鰻バーガー」。「うちの看板メニューです。麻布十番のお祭りに出店するときに、『外で簡単に食べられるもの』を考え、バンズに挟んで食すスタイルがひらめいて」と時任さん。甘みのあるふわふわとした食感のバンズもさることながら、トマトやレタス、マスタードにも鰻が合うことに気づかせてくれる一品。


うなぎパイ
独創的なアイデアと技術力をもって生み出された「鰻パイ」。パイ包みの中身には、ポルト酒と蒲焼きのタレをベースにしたソースで煮込んだ濃厚な味わいの鰻とフォアグラが。フランス料理で肉料理に使われることが多いポルト酒のソースは、甘みがあり鰻との相性も抜群。


斬新な鰻料理を披露しながら、時任さんは鰻に関する基本的な知識を丁寧に教えてくれた。 「天然鰻が旬を迎えるのは秋頃ですね。天然鰻はもともとアミノ酸の数値が高いのが特徴。アミノ酸は、甘味、苦味、酸味などさまざまなうまみを持っていて、『アミノ酸が増える』=『おいしさが増す』ということを意味します。一般の方は知らないと思いますが、夏に出回る養殖鰻は『土用の丑の日』に合わせて、人為的な手法で急速に成長させる傾向があります。一方で、冬の養殖鰻は餌をゆっくり食べて育つので、養殖鰻の中でもよりうまみが強いんです。そういったことを理解したうえで味わってもらえたら嬉しいです。うちの店では、仕入れの状況によって、天然鰻と養殖鰻の食べ比べもお楽しみいただけますよ」

鰻のうまみ成分をアップさせる調理方法を編み出す

鰻の性質を理解し尽くした時任さんがメニューを考案するときに大切にしているのは、“うまみのかけ算”をすること。

「鰻はうまみの相乗効果によって、美味しさを引き出しやすい素材です。天然鰻と養殖鰻に合った調理法で鰻のタレやソースでうまみを足すと、より美味しさがアップするんです」

うなぎとごぼう
「鰻と新牛蒡のエスカルゴバターソース」。エスカルゴを用いた前菜料理にも使われるエスカルゴバターでうまみの相乗効果を引き出したひと皿。鰻の身はふっくらとやわらかく、皮の表面はパリパリ。肝焼きの苦み、まろやかでコクのあるソースが口の中で優しく溶けていく。


鰻一尾を贅沢に使って丁寧に焼き上げた、ふっくらと香ばしい極上のうな重

鰻重
愛知県三河一色産の300gの鰻を丸々一尾使用した特上うな重。市場に多く出回っている鰻は、大体200〜250gのものが多く、大きめの鰻のほうがより脂ののりが良く、美味しさを存分に堪能できる。炭火で丁寧に、焦げ目をつけることなく 焼かれたふっくらとした鰻は上質な濃口醤油と味醂でシンプルに味付け。ご飯は羽釜で炊いた新潟県魚沼産コシヒカリ。 もっちりとしていて粘りと甘みが強く、鰻やタレとよく絡み合う。輪島の漆器作家にオーダーした重箱は、中身が冷めにくいサイズに設計してもらった。コースの締めは、もう少しボリュームを抑えたうな重になる。


鰻の焼き加減をつぶさに確認し、ふっくらやわらかく焼き上げる

鰻を調理する際にいちばん大切にしているのは焼き加減、断言する時任さん。鰻の焼きは2回。素焼きをし、タレをつけて本焼きに入る。

時任恵司さん


「温度を見ながら焼いていくことが大事。炭火はガスと違い団扇で風を送り、火の入れ方、炭の起こし加減を操ることが可能。目の前のお客さまに美味しい鰻を届けたい一心で、鰻の状態をしっかり見ながら焼き上げていきます」

鰻を焦がさないように、細心の注意を払いながら、幾度も表裏を返しながら焼 いていく。その間に炭に鰻の脂が落ち、煙が出ることで薫香をまとった香り高 い鰻が焼き上がるのだ。手間暇を惜しまない熟練の職人技と鰻の新たな魅力に心 を打たれ、驚きと感動の幸せな余韻に包まれる。これまでの鰻料理の価値観が 揺さぶられるフルコースを、このシーズンに堪能してみてほしい。



「うなぎ時任」
東京都港区麻布十番2-5-11 AZABUMAISON201

☏ 03-6812-9671
営業時間
Lunch: 12:00∼14:00(水曜、金曜、土曜のみで、売り切れ次第終了)
ランチコース 12,000円

Dinner: 18:00∼22:00
お任せショートコース 15,000円
お任せ定番コース 18,000円
季節の特別コース 28,000円
休 日曜日、および不定休
http://tokitou-unagi.jp/

撮影/吉次史成 構成・文/矢島聖佳

※新型コロナウイルス感染症対策として店内やスタッフの除菌、営業中のマスク着用を徹底。

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