吉里謙一
空間デザイナー・吉里謙一さんの事務所は、東京・茅場町の川沿いに位置する築90年以上という古いビルにある。アンティークの家具や見本の素材などに囲まれた、気持ちのいい光が入る空間。


国内外の商業施設の設計など、多いときには40以上の案件を抱える空間デザイナー、吉里謙一さん。その多忙な日々を支えるのが、クライアントにイメージを伝えるスケッチを描く際に欠かせないペンとノートだ。あらゆるブランドやメーカーのものを使った上で選抜された、「これがないと仕事が進まない」こだわりの愛用品だ。

ボールペンから万年筆、マーカー、色鉛筆まで、伝えたい内容によって使い分ける

ラミー,サファリ
左が4色ボールペンの《ラミー2000》。右は万年筆《ラミーサファリ》。ホワイトのブラッククリップは日本限定で販売されたもの。生産工程の3/4は今もドイツ国内で手作業にて作られている。


ショップ、ホテル、オフィスなどの設計からブランディングまで多岐にわたって活動をする吉里謙一さんにとって、ペンは重要なビジネスツール。現在、使っているのは、あらゆる種類を試した結果、「これに尽きる」と選び抜かれたばかり。そのひとつが、ドイツの筆記具メーカー〈ラミー〉の4色ボールペン《ラミー2000》だ。1966年にデザインされ、ボディは樹脂とステンレス。樹脂の表面はヘアラインで仕上げられ、スプリングクリップはステンレス無垢材が用いられている。バウハウスの流れをくむ美しいデザインと機能性の高さから、1980年に発表された万年筆《ラミーサファリ》とともに筆記具界のロングセラーになっている。

「《ラミー2000》は本当にお薦めです。出したい色のカラーチップを上にしてノックするとその色が出てくる仕組み。形もとても美しい。仕事でお客さんと打ち合わせしながらスケッチやメモを書くので、ペンは主張しすぎないほうがいいんです。デザイン性は高いけれど、存在感が出過ぎない。そのバランスが絶妙です。書き味もいいし、あらゆるボールペンを片っ端から使ってこれに行き着きました。持ったときの重量感も僕に合っています」

ボールペンは縦のラインなどを勢いよく引くのに適しているので、デザインの手数を多く見せたいスケッチを描くのに向いているという。一方、万年筆は一度描いたスケッチの上に、さらに要素を足していくときに使うことが多いそう。 「万年筆は、あらゆるペンの中でコピー紙へのインクの乗りが一番いい気がします。なので、何かを付け加えるアイデアを見せたい場合は、万年筆の線がしっくりくるんです」

ちなみに鉛筆でスケッチをするときもある。 「まだはっきりと形が定まっていないけれど、こんな感じですよね、と雰囲気として見せるときは鉛筆の柔らかい感じが合います」

ほかにも、色を使う際に欠かせないのが〈トゥーマーカープロダクツ〉のアルコールマーカー《コピックスケッチ》だ。 「空間設計は建築とは違って色が必須になります。《コピック スケッチ》の良さはなんといっても色数の豊富さ。微妙な色彩も表現できます。色調違いでAとBがあり、それぞれ72色、全144色のタイプを使っています。あと、これもコピー紙に対するインクの乗りがいい。僕の世代は、学校で手描き図面の書き方を習い、社会人になってからもコンピュータと手描きを併用するハイブリッドな環境でした。なので、CAD(コンピュータを使う設計支援ツール)も使いますが、スピードを要求されるときは手で描くほうが断然早い。あと、空気感といった情緒的なものを共有したい場合もコンピュータより、手描きのほうが伝わりやすいですね」

コピック
アルコールマーカー《コピック》の中でもプロフェッショナル向けのモデル《コピックスケッチ》。太さの異なるペン先が両面に装着されている。


また、色鉛筆は100 色揃った〈三菱鉛筆〉の《ユニカラー》を使用。 「色鉛筆はそれだけで描く場合もありますが、コピックで下地を描いた上に、仕上げとして使うことが多いです。ドイツのメーカーなど、いろいろなブランドを試した結果、もっとも自分に合っていたのがこれ。気に入っている理由の一番は発色がいいこと。あと、適度な柔らかさがあるので、描いていても疲れません」

ユニカラー
〈三菱鉛筆〉の《ユニカラー》。高級微粒子顔料が使用され、透明度と彩度の高い色調に設計されている。いろいろなタイプの紙質にムラなく馴染むのも特徴。


ペンの相棒となるノートは、紙質にこだわる

ノート
アートとデザインの素材を提供する、イギリス・ウェストサセックス州にある画材メーカー〈Seawhite of BRIGHTON〉のスケッチブック。吉里さんはパリで購入。


スケッチにはノートも不可欠だが、長く使っているのがイギリス〈Seawhite of BRIGHTON〉のブラックカバーのもの。

「スケッチブックだと思うのですが、紙質がちょっとザラついている。そこが僕には良くて、ボールペンのインクがよく乗ってくれます。日本では見かけないので、パリに行った時に画材店で大量買いします。これは自宅に置いて、家で仕事する際に使うことが多いですね」

ノート
スケッチの一部。これはボールペンで描いている。


ほかにも自分で紙や仕様を選んで作れる、東京・蔵前の〈カキモリ〉のものを愛用。紙を綴じるリングは上下についているだけ。

「僕は右利きなのですが、全面にリングがあると左ページに描く時、手が当たってしまう。それがイヤであえて中央を抜いています。紙質も30種類以上の中から万年筆やボールペンのインク乗りがいいものを選びました。自分にとってストレスのない形にできるのが〈カキモリ〉の良さですね」

これもほぼスケッチ用に使用しているとのこと。

ノート
蔵前のショップ〈カキモリ〉でオーダーしているノート。数種類あるサイズ、表紙、裏表紙、中紙、リング色、留め具を自分好みに組み合わせることができる。



モレスキン
イタリア〈モレスキン〉のジャーナル《カイエ》。柔軟かつ耐久性のある表紙はカードボード製。9×14cmのポケットサイズで、末尾16ページは切り離しができる。切り離したメモを挟めるポケット付き。


もうひとつ、移動中などによく使うのが、〈モレスキン〉の《カイエ》。表紙が柔らかく、ポケットサイズで持ち運びに便利だという。 「ちょっとしたメモや、移動中や旅先のスケッチに向いています。中性紙でインクもきれいに伸びます」

手描きの線には、どこか人の心に響くエモーショナルな気配が表れる。これらのペンやノートを使って生み出されるスケッチが元になっているからこそ、吉里さんがデザインする空間には、ウイットに富んだ、人が安心して集える心地良さがあるのかもしれない。


吉里謙一
Kenichi Yoshihzato
(プロフィール)
1974年千葉県生まれ。武蔵野美術大学造形学部卒業。工芸工業デザイン学科でインテリアデザインを専攻し、島崎信教授に師事。2007年に「cmyk Interior & Product」を設立。〈コクヨ〉のショールームなど商環境を中心に設計からプロダクト製作、ブランディングまで行う。著書に『にぎわいのデザイン 空間デザイナーの仕事と醍醐味』(コンセント)。https://cmyk-jp.com/

撮影/兼下昌典 構成・文/三宅和歌子

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