長山一樹さん
3年前に出合ってすっかり惚れ込んでしまった、1921年にデザインされたフランスの照明〈グラ ランプ〉シリーズ。レアなフロアランプを始め、デスクランプ、ウォールランプなどさまざまなタイプをコレクション。ピエール・ジャンヌレのラウンジチェアとの相性も抜群。


広告、雑誌などで大活躍のフォトグラファー・長山一樹さん。彼のスタジオにはピエール・ジャンヌレの椅子や、ドナルド・ジャッドの《オープンサイドチェア》、ポール・ケアホルムによるラタンの《PK22》といったヴィンテージ家具であふれている。そのコレクションのきっかけとなったのが、フランスの照明〈グラ ランプ〉に出合ったこと。機能美の極致ともいえるこの照明の魅力について語ってくれた。


メカニカルな構造に惹かれて、3年前から収集。

デスクランプ
ヴィンテージ市場でもなかなか出ないという、ウッドベースの《207》。小さめのデスクランプで、科学者の手元を照らすために作られた。


1921年にフランスのデザイナー、ベルナール・アルビン・グラによって生まれた照明シリーズ〈グラ ランプ〉。装飾を排除し、機械を思わせるインダストリアルなデザインを打ち出し、モダニズム建築の巨匠、ル・コルビュジエを始め、多くのクリエイターやアーティストが愛用していたことでも知られる。しかし、この照明の真骨頂は、その造形美だけでなく機能にあると、コレクターでもある写真家・長山一樹さんはいう。

「ネジや溶接を一切使用しない構造で、すべてボールジョイントでつながっているんです。それによってアームやシェードの角度が自由自在に動いて、好きな位置で止めることができます。当時としてはものすごく画期的な構造で、グラは宇宙人ではないかと言われていたそう。また、大衆向けというより医者や科学者のために作られたものなので、それなりに高級品でした。それだけに作りが良く、丁寧に扱われていたのだと思います。だからこそ、100年たった今でも実用できるのかもしれません」

黒いデスクランプ
ウッドベースの《206》。この形で使うのがスタンダード。



黒いデスクランプを上にむけている
シェードを天井や壁に向けて間接照明としても使える。人間の関節に似たボールジョイントなのでアームやシェードが自在に可動する。



黒いデスクランプを曲げている
細かい作業をする際は、光源を手元に持ってきて使用。どの位置で止めても安定するバランスの良さにも驚き。


「この照明を知るまでは特にヴィンテージ家具に興味はありませんでした。でも、3年前にこれと出合ったら、すっかりハマってしまって。とにかくバリエーションが多いんです。復刻品も現行販売されているのですが、当時のものとは鉄の素材感や金具の質感も異なります。僕は“金属の塊”といった、どっしりと重量感のあるオリジナルのほうが断然好きです。ただ、現代の家具に合わせると存在感が際立ってしまうので、合うものを求めていたら、自然とヴィンテージのテーブルや椅子などが増えてしまいました」

スタジオにはル・コルビュジエが〈グラ ランプ〉とともにアトリエで使用していた、ドイツのメーカー〈トーネット〉が1871年に発表した椅子《214》も置かれている。

「〈トーネット〉の曲げ木や籐の座面と〈グラ ランプ〉の無骨な鉄との組み合わせがすごく格好いい。ル・コルビュジエの従兄弟である建築家・ピエール・ジャンヌレが、インドのチャンディーガル都市計画の際にデザインした、1950年代のラウンジチェアとも合う。これにも背と座面に籐が使われています」

ランプのジョイント部分
ネジ不使用のジョイント部分。製造年代によって刻印が変わり、これは「RAVEL GRAS(ラベル グラ)」と刻印があるため、RAVEL社で作られた1930年代のものだとわかる。


過去を想像できるロマンがあるのも、ヴィンテージの魅力。

斬新なデザインと機能で、ル・コルビュジエのみならず、アンリ・マティスやレオナール・フジタらアーティストにも愛された〈グラ ランプ〉だが、1960年代のプラスチックブーム到来に押され、70年代には生産中断に。

「60〜70年代は色の時代でもあり、芸術分野でもインテリアでもカラフルなものが注目されるように。〈グラ ランプ〉はブラックとニッケルクロームで展開していたのですが、実は晩年期には、余っていた在庫に色を塗ったものも出したんです」 それがグリーンのランプだ。

「ハンマートーン(※1)で仕上げているので、ハンマーグリーンと呼ばれています。アメリカを中心にポップな色が全盛だった時代に、この色を選ぶところも〈グラ ランプ〉らしい。ハンマーグリーンのものは年代は新しいのですが、制作された数が少ないのでけっこう希少なんです」

3色のデスクランプ
左からハンマーグリーン、ブラック、ニッケルクローム。それぞれ時代は異なるが、すべてウッドベースの《206》。



グリーンのデスクランプ
ハンマートーン(※1)とは金属をハンマーなどで細かく打ち付けて表面を凸凹にする加工だが、同様に凹凸模様を出す塗装方法もあり、このグリーンはそれで仕上げている。



デスクランプのジョイント部分
後期のモデルになると台座のジョイントも木のボールで作るように。それもレア。


「このランプを追い越せるものは、今も出てきていないと思います。構造も造形も、照明デザインの最高峰なのでは。行き着くところはこれ以上ないというか、結果的にどんなデザインもここに帰結してしまう。リペイントされていると価値が下がるので、ここにあるのは製造当時のままのオリジナル。電気コードこそ変えていますが、それを今でも普通に使えるというのはすごいですよね」

数年前までは特に興味がなかったヴィンテージ家具だが、今となっては「ヴィンテージ以外、手に入れる意味を見出せない」とも言う。「ヴィンテージならではの、使ってきた人の痕跡があるところにロマンを感じます。こういう人がこういう風に使ってきたのだろうな、と想像ができる。古いものの良さって使ってみないと気づかないんです。気づくことってすごく大事で、音や重さ、動きなど、ショップやギャラリーで見ているだけでなく、空間においてグイグイ触ることでわかることがある。現代はネットも充実していて、気づく機会を失いがち。でも、僕はそれだと進化しない気がして。なので、自分が気づけていると感じること自体も嬉しいんです。ヴィンテージ品はそれを与えてくれる。時代の反動なのか、今、クラフトマンシップが見直されてきていますよね。身体を通して感じるオフラインの欲は今後、さらに需要が高まると思います」

並べられた椅子
スタジオにある椅子は撮影小道具としてリースも行なっている。一番右がル・コルビュジエも使っていた〈トーネット〉の《214》。


長山一樹
Kazuki Nagayama
(プロフィール)
1982年神奈川県生まれ。スタジオ勤務を経て、守本勝英氏に師事。2007年に独立。ファッションフォトグラファーとして、様々な分野で活躍する。2018年には初の写真展「ON THE CORNER NYC.」を開催した。撮影時もスーツを着用。https://www.ngympicture.com/ インスタグラムアカウント@kazuki_nagayama

撮影/兼下昌典 構成・文/三宅和歌子

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