シャルべ


どんな分野においても経験を積むほどに、基本の重要性を思い知る。ファッションもしかりだ。特にビジネスでの装いには縛りが多いからこそ、ベースとなるアイテムへのこだわりが着こなしの洗練度を左右する。そしてビジネスにおいて、スーツ以上にまとう人の“人となり”が滲み出るのが、メンズファッションの基軸ともいうべきシャツである。今回はその究極の一品を求め、世界最古にして最高峰のフランスのシャツメーカー〈シャルべ〉へ。メゾン経営者のアンヌ=マリー・コルバン氏とジャン=クロード・コルバン氏姉弟自らが、奥深いフレンチ・エレガンスの世界を案内してくれた。

一流の人々に愛される、フランスが誇る「シュミジエ」

〈シャルべ〉の名は、ビジネスファッションにこだわる人なら一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。英国王エドワード7世を始めとする世界のロイヤルファミリー、シャルル・ド・ゴールやウィンストン・チャーチル、ジョン・F・ケネディといった各国首脳、マルセル・プルーストなどの文学者、カトリーヌ・ドヌーヴやソフィア・コッポラなど映画界のスター、ココ・シャネルやイヴ・サンローラン、カール・ラガーフェルドなど時のモードの担い手……。同メゾンのシャツは、あらゆる分野の一流の人々に選ばれてきたことでも知られている。

その歴史の始まりは帝政時代の1838年に遡る。ナポレオン1世のワードローブ管理人であった父を持つ、クリストフル・シャルベによって設立された。当時、シャツはお抱えのリネン係が主人のために誂えるか、顧客が裁縫店に生地を持ち込んで作るのが一般的であったそうだが、〈シャルべ〉は世界で初めて生地のストックを有するシャツ専門店としてオープンした。それまでそのような店がなかったことから、「シュミジエ(シャツメーカー)」という新しい言葉が誕生したのだという。

額に入った証明書
1855年パリ万博に訪れた当時英国の王子であったエドワード7世は、即座にパリの洗練されたシャツに魅了され、その後生涯〈シャルべ〉の顧客となる。エドワード7世の御用達メゾンであることを証明する書類にも、「chemisier(シュミジエ)」の文字が。



パリの街角
創業当初は、パリ・リシュリュー通りに店を構えていた〈シャルべ〉だが、パリの社交の中心の変化に伴い、1877年にヴァンドーム広場に移転、1981年に同じくヴァンドーム広場の現在の場所に移る。ヴァンドーム広場に店を構えるメゾンとしては最古参である。


現代シャツの礎を築いたメゾンの革新的な精神

シャツにこだわるエグゼクティブたちは、口を揃えて「〈シャルべ〉は別格」であるという。何しろ、現在私たちが着ているシャツ(ワイシャツ)の原型を作ったのは、他でもない〈シャルべ〉だからだ。それ以前のシャツは、長方形の布を縫い合わせ、ウエストや袖口で絞りドレープを寄せたものであった。それを〈シャルべ〉は顧客一人ひとりに合わせてパターンを作り、体にフィットするシャツを生み出した。またヨークを前身頃ではなく、後ろ身頃に配したのも〈シャルべ〉の発明である。

同メゾン創業直後、トレンドに追随しいくつもの模倣ブランドが登場したが、それはすべて19世紀半ばには消えていった。創業から180年経った今なお〈シャルべ〉がトップ・オブ・トップのシャツメーカーとして君臨し続けている理由は、伝統に忠実であると同時に、常に革新的であり続けようとするメゾンの精神にある。シャツの新しいデザインを考案するだけでなく、白が基本であったシャツに様々な色や柄を取り入れるなど、既成概念を打ち崩し、時代とともに変容し新しいものを求める顧客の要望に応え続けてきた。

イラスト
Mrダンディとの愛称で呼ばれたニューヨーク出身のソーシャライト、エヴァンダー・ベリー・ウォールも、〈シャルべ〉の顧客であった。ブティックの壁には〈シャルべ〉の付け襟をした愛犬を連れて店に服を誂えに来た彼を描いた、洒落の効いたイラストが。


カルテに顧客一人ひとりの思いを感じて

今回取材に対応してくれた現経営者のジャン=クロード・コルバン氏はこう語る。「よく“最高のシャツを出してくれ”とおっしゃるお客様がいます。しかし、ベストな一枚は人それぞれに違うのです。ですから、私たちは何がお客様の体型、好み、雰囲気、生活スタイルにフィットするのか、それを慎重に丁寧に探っていきます」。そう言って見せてくれたカルテには、顧客のサイズなどの必要情報以外にも、その時の会話や選んだ生地についてなど、事細かに記されていた。

紙
裏面に、検討した端切れが貼られた顧客カルテ。ビスポークオーダーでは、色や柄の微妙な差異や、襟のフォルム、時計の見せ方によって変更できる左右の袖の長さなど、顧客の要望にどこまでも細かく耳を傾ける。


サヴォワ・フェール(匠の技)に裏打ちされた美しさと極上の着心地

〈シャルべ〉のシャツは、驚くほど体にも目にもストレスがない。そこには一流だからこそのこだわりが随所に潜んでいる。例えば、ストライプやチェック柄のシャツであっても、縫い目が切り替わってもまるで一枚の生地のように柄が見事に繋がっている。また背中の曲線を描くヨーク下の身頃にはダーツがなく、すっきりと美しい後ろ姿を実現し、その計算された立体裁断がボディラインに寄り添う。ジャケットを重ねた時にももたつきがなく実に着心地が良いのだ。

ブルーストライプの生地
〈シャルべ〉の中でも人気の高いブルーストライプ柄。一番柄合わせが難しい箇所が襟。襟、台襟、ヨークのつなぎ目が水平に美しく縫い合わせられており、メゾンの妥協のないこだわりと職人技を感じる。



チェック柄のシャツ
ストライプよりもさらに柄合わせが難しいといわれるチェック柄だが、一見前立ての縫い目もわからぬほどぴったりと柄が繋がっている。ボタンは全てマザー・オブ・パールを使用。


ヴァンドーム広場の直営店で夢のビスポークを

〈シャルべ〉の既製シャツは、日本のセレクトショップなどでも手に入る。しかし、究極の一枚を求めるなら、ぜひパリ・ヴァンドーム広場にあるメゾンの唯一の直営店に訪れてみて欲しい。理想はやはりビスポークだ。その着心地と自分好みにアレンジされたディテイルに、他にはない“特別な何か”を感じるはずだ。

3階のビスポークサロンには、数え切れないほどの生地のストックが並んでおり、それを目にするだけでも心が躍る。なんとフロアの一角に収められた白の生地だけでも約420種類にも及ぶのだそうで、全体ではどれほどのストックがあるのか、オーナーのコルバン氏でさえも想像がつかないという。そしてその多くが自社開発した織機で織られたオリジナルだという。

シャツの生地
膨大な数の生地ストックが並ぶビスポークシャツのフロア。「小さな生地見本を見ても、実際に服のサイズになるとイメージが全く違って感じるものです。なので、お客様には実際の生地を体に当て、出来上がりをイメージして生地を選んでいただきます」と共同経営者のアンヌ=マリー氏。〈シャルべ〉の代名詞とも言える上質な生地の数々は、衣擦れの音も耳に心地よい。


ビスポーク&カスタムオーダーの顧客だけが足を踏み入れることができるフロアで、実際に生地を体に当てながら、自分にぴったりの一着を思い描く時間は、至福のひとときに他ならない。

壁に並べられたシャツ
襟の形だけでもこれだけのバリエーションが。日本からも多くのエグゼクティブたちが、こだわりのシャツやスーツを誂えに本店を訪れるのだそう。


〈シャルべ〉の世界観が詰まった全5フロア

ブティック


前述した通り、このブティックは世界でただひとつの〈シャルべ〉の直営店であり、ここにメゾンのエスプリの全てが詰まっていると言える。1階はネクタイやスカーフ、スリッパなどのアクセサリー、2階にはレディスシャツ、3階はビスポークシャツ、4階はメンズの既製シャツとホームウェア、5階はビスポークスーツのフロアとなっている。

シャツというアイテムの奥深さに心ゆくまで浸ることができるフレンチ・エレガンスの殿堂。ここでは語り切れなかった名門のこだわりを、ぜひパリのブティックで自身の肌で感じてみて欲しい。

ブティック
〈シャルべ〉の顧客の25%は女性だという。レディスシャツはよりトレンド性が高く、2階のレディスフロアには鮮やかなカラーのバリエーションが。



裁断
シャツと同時にスーツを誂えれば、パーフェクトなビジネススタイルが完成する。5階のビスポークスーツのフロアでは、卓越した技術を持つテーラーたちの丁寧な手仕事を垣間見た。



ネクタイ
ネクタイも世界中にファンを持つ人気アイテム。ネクタイストックのフロアに並ぶそのバリエーションの多さに驚かされる。



Charvet
〈シャルべ〉

28 Place Vendome 75001 Paris
+33 (0)1 42 60 30 70
オーダー希望の場合は要予約

営業時間
月曜日〜土曜日 10:30〜18:30
定休日
日曜日

http://charvet.com

コットンシャツ:既製服380€〜、カスタムオーダー445€〜、ビスポークオーダー645€〜、スーツ:既製服4025€〜、ビスポークオーダー5300€〜(価格は素材、モデルによって異なる)

撮影/Olivier Leroy 構成・文/ルロワ河島裕子

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