
ワインの一大生産地として、そして最高峰のワインを生み出す地として世界に名を轟かせるブルゴーニュ。そのブルゴーニュ地方、コート・ド・ボーヌの南端の村サントネに、ブルゴーニュワインを語るに欠かせない歴史遺産ともいえる巨大なカーヴを有する城館「シャトー・デュ・パスタン」がある。この由緒あるシャトーで伝統のワインづくりを続けているのが、〈ドメーヌ・フルーロ・ラローズ〉だ。かつてはかの「ロマネ・コンティ」が醸造・熟成されていたという時代もあり、今上天皇が皇太子時代に訪問されたという逸話を持つシャトーと、名門ドメーヌ(自社畑でのブドウ栽培から、醸造・熟成、瓶詰めまでを行うワイン生産者)の真摯なワイン造りの物語をお届けしよう。
ブルゴーニュでも指折りの歴史を誇る由緒正しきドメーヌ

ドメーヌの創業者クロード・フルーロがサントネにドメーヌを設立したのは1872年。彼の妻の旧姓であるラローズと合わせ、〈ドメーヌ・フルーロ・ラローズ〉とした。フランス革命以前よりワイン製造を手がけてきたフルーロ家は、ブルゴーニュでも長い歴史を誇る名家である。1912年、クロードは息子で2代めとなる息子のオーギュストとともに、この「シャトー・デュ・パスタン」を購入し、その日からシャトーは当ドメーヌの拠点となった。
現在は4代め当主のニコラ・フルーロ氏とその妻である日本人の久美子夫人が、このシャトーを守り、ドメーヌのワイン造りと運営を担っている。

ワイン史に名を刻むシャトーとその秘話に心踊る
実はこの「シャトー・デュ・パスタン」は、19世紀後半からロマネ・コンティを所有していたジャック=マリー・デュヴォーによって、1843年に建てられた。今尚、伝説のネゴシアン(ワイン商)として語り継がれ、〈ドメーヌ・ドゥ・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)〉のヴォーヌ・ロマネの一級ワインのラベルにも名を残す彼が建てたその城は、地上3階、地下2階からなり、地上層は醸造・テイスティングなどを行う仕事場と居住スペース、地下層はカーヴ(ワイン貯蔵庫)となっている。それぞれのフロアは700平米もの広さを持つという。
当代一のワイン商であったジャック=マリーは1869年にロマネ・コンティを購入、その翌年からフルーロ家がこのシャトーを購入するまでの約40年間にわたり、はるばるヴォーヌ・ロマネからブドウを馬車でサントネまで運び、このシャトーでロマネ・コンティは醸造され、熟成されていたという。ワイン好きなら、この地に立ち、その話を聞くだけでも身震いしてしまうことだろう。

ブルゴーニュ随一の美しさを誇るカーヴ

前述した通り、地下2層はカーヴとなっているが、このカーヴが圧巻なのだ。まず天井高が各階5メートル、つまり地下10メートルの深さを持つ。壁には通気口があり、現在も自然換気だけで一年を通じて地下1階が11.5度、地下2階が10.5度に保たれているという。「通常のカーヴよりも地下深く、気温が低いため、ワインがじっくりと時間をかけて熟成していきます。クラシックな長熟型のフルーロ・ラローズのワインには、最高のカーヴです」と案内してくれた久美子夫人が説明してくれた。約180年前に作られたカーヴが、現在でもワインの熟成に最良の環境を生み出していることに感動する。


ドメーヌの個性を代弁する2つのモノポール
さて、この〈ドメーヌ・フルーロ・ラローズ〉が名門と称されるのには、ドメーヌの歴史と偉大なシャトー以外にも理由がある。それは希少とされるモノポールを2区画も有していることだ。モノポールとは単独のワイン生産者によって所有管理される単一区画のことで、他の生産者がいないため、造り手の個性が現れるとされている。
その一つがシャトーのすぐ裏手にある「サントネ・プルミエ・クリュ・クロ・デュ・パスタン」。2.5haの敷地に赤ワイン種のピノ・ノワールが75%、白ワイン種のシャルドネが25%の割合で植えられている。「この土地は鉄分を多く含む粘土石灰質で、周囲に比べ石が少なく適度な水分を蓄えています。ピノ・ノワールに適した土壌ですが、ここから生まれる白もふくよかでしっかりとした味わいです」とニコラ氏。
また保有する畑の中でも当主のニコラ氏のお気に入りであるという、もう一つのモノポールが、「シャサーニュ・モンラッシェ・プルミエ・クリュ・クロ・ドゥ・ラ・ロックモール」。クロ(石の囲い)で囲われた1haの区画の土地は、周囲の小石混じりの石灰質の土地と異なり、ラーヴと言われる板状の石灰質の岩盤が、ミルフィーユ状に何層も重なっているのだという。その板状の岩盤の層を突き抜けて根を張っていくブドウの木からは、複雑な味わいが生まれる。プルミエ・クリュ(1級畑)ではあるものの、グラン・クリュ(特級畑)に限りなく近いと高い評価を受ける区画だ。


2018年当時の皇太子の訪問は、地元でも話題に
偉大な伝統とともに最高級のワインを生み出すこのドメーヌに、2018年秋、当時皇太子であった現天皇陛下が訪問された。日仏修好160周年の行啓の地に選ばれたことは、このドメーヌがブルゴーニュ、ひいてはフランスを代表するドメーヌであることを裏付ける証でもある。そして、それは地元ブルゴーニュでも大きなニュースとなった。「陛下の行啓は、サントネ村、そしてブルゴーニュにとってもとても栄誉あることであり、歴史的なことでした」とニコラ氏は振り返る。

権威ある品評会で49年ぶりの出品でゴールドメダルを受賞!
2019年4月に行われた、世界最大規模のワインコンクールである「マコン・コンクール・デ・グラン・ヴァン・ドゥ・フランス」では、9000本を越すワインの中から、赤・白共に「シャサーニュ・モンラッシェ・プルミエ・クリュ・アベイ・ドゥ・モルジョ」の2017年がゴールドメダルに輝いた。これはパリ農業コンクールに次いで、フランス国内外で知名度が高く歴史が古いものだ。1970年を最後に出品を止めてから、実に約半世紀ぶりであった。それは先代が受賞した賞状を見た久美子さんが、ニコラ氏に幾度か出品を提案した結果、ようやく頷いてくれ実現したものだったという。
「ニコラは商売っ気がないというか、職人気質というか、コンクールの出品などに全く興味がなかったのです。しかし、今回の受賞が、一人でも多くの人に〈ドメーヌ・フルーロ・ラローズ〉のワインを知っていただき、楽しんでいただくきっかけになったら嬉しいですね」と久美子さんは微笑む。歴史あるドメーヌの看板の偉大さに溺れることなく、ひたむきにワイン造りと向き合ってきた名門の確かな逸品が、口福のひとときをもたらしてくれることだろう。


DOMAINE FLEUROT LAROSE
/ CHATEAU DU PASSE-TEMPS
〈ドメーヌ・フルーロ・ラローズ/シャトー・デュ・パスタン〉
7 route de Chassagne
21590 SANTENAY
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fleurot.larose@wanadoo.fr
(訪問は完全予約制のため、電話かメールで問い合わせを)
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撮影/Olivier Leroy 構成・文/ルロワ河島裕子