大野重和
仕事で海外を飛び回る、クリエイティブディレクター/コピーライターの大野重和さん。出張には必ず靴3足を携帯。


靴はただ履くだけでなく、造形としても美しい。週末の靴磨きが何よりもリラックスできるという、クリエイティブディレクター/コピーライターの大野重和さん。〈ジョンロブ〉や〈チャーチ〉など靴好きのマストブランドのほか、マニアックなブーツなどこだわりの革靴を教えてもらった。

その国の一番いいものを身に着ける

革靴
もっとも愛着がある〈ジョンロブ〉の2002年イヤーモデル。18年履いているがきれいに磨かれ、現役で活躍中。


無類の靴好きと聞いて自宅を訪ねると、イギリス・ロンドンのビスポークブランド〈ターンブル&アッサー〉の麻シャツに、〈H.モーザー〉のステンレスベルトの時計を身に着け、出迎えてくれた大野重和さん。隙のないファッションでキメる彼が、上質な靴や服を愛用するようになったのは20代前半からだと言う。
「もともとファッション好きで、それまではいわゆるデザイナーブランドのものを着ていました。それが、最初の就職でファッションショーをプロデュースする会社に入ったら、先輩に『デザイナーのショーを仕事にする人間ならばデザイナーブランドではなく、普遍的で上質な服を着ろ』と言われたんです。その言葉が、クラシックな服にシフトするきっかけとなりました」

その後、メンズ雑誌の編集者などを経て、取材を繰り返すうちにこだわりにも磨きがかかってきた。
「2007年に自分の会社を立ち上げたのですが、海外での仕事も多く、取材でいろいろな偉い方に会います。イギリスではナイトやロードといった爵位を持つ方にもインタビューをするのですが、そのときは必ずイギリスのスーツにイギリスの靴で臨みます。すると『こいつ、わかっているな』という感じで心を開いてくれて、いい話が聞けるんです。相手へのリスペクトを込めて、その国の一番いいものを身に着ける。イギリス、フランス、イタリアは服から靴まですべてそろうので、どんどんグレードアップしていきました」

革靴,オペラシューズ
シーンに合わせて選ぶため様々な種類と国の靴がそろう。階段下から、1段めのオペラシューズ、右/イタリア〈アルティオリ〉、左/イギリス〈バーカー〉。2段めのスウェード靴、右/イギリス〈チャーチ〉、左/アメリカ〈オールデン〉。3段めのコンビシューズ、右/イギリス〈アルフレッドサージェント〉、左/イギリス〈チーニー〉。4段めのレースアップ、右/〈オールデン〉、左/イギリス〈エドワードグリーン〉。


イタリアの〈アルティオリ〉では、初めてビスポークでオペラシューズを作るなど、イタリアやアメリカ、フランスなどのブランドもあるが、多いのはやはりイギリス製。
「取材に行った先で買うことが多いですね。ロンドンから電車で1時間くらいのところにノーザンプトンという、〈ジョンロブ〉をはじめ、イギリス中の靴ブランドの工場が集まる街があり、そこにも取材で訪れました。実際に作っているところを見学させてもらって、ますます作りの良さに感動。気がつくとシャツも〈ターンブル&アッサー〉のビスポークだし、イギリスのものが好きなのかも。雨が多い気候のせいか、靴も生地も他の国に比べると丈夫にできているというか長持ちする気がして、そこが気に入っています」

TPNPOを考えて靴を選ぶ

革靴
雨の日のための革靴。水に強い加工が施された革素材が使用され、ラバーソールで滑りにくい。右からイギリス〈トリッカーズ〉のブーツ、スーツに合わせられる〈チャーチ〉、ジャケットスタイルに履くフランス〈パラブーツ〉。


また、靴はコレクションアイテムではなく実用品でもある。大野さんがここまでそろえてきたのには、ただ好きなだけではない理由がある。
「スーツに合わせる靴は最低限必要なのですが、例えばコンビシューズは英語ではスペクテイターシューズと呼ばれ、競馬などスポーツ観戦する際のシューズなんですね。だから僕もサーキットを取材するときなどはコンビシューズで行きます。他にもスウェードはオフィスなどではなく郊外のホテルや宿で履くのに適しています。パーティにはオペラシューズででかけるし、雨の日にもそのための革靴があるなど、訪れる場所やシーンによって使い分けています」

そこには明確な基準もある。
「TIME(いつ)、PLACE(どこで)、OCCASION(何を)というTPOの考え方がありますが、それを自分の中で進化させ2つの要素をプラスしたTPNPOを意識するようにしています。もう一つのPは、PERSON(誰と)、NはNATIONALITY(どの国の人と)です。お国柄というのは確かにあって、オーストラリアやニュージーランドの人にはカジュアルなスタイルでないと胸襟を開いてもらえないし、イギリス人にはドレスコードをわきまえていないと見下されてしまう。TPOだけでなく、国やどういった立場の人と対面するかで、靴選びも変わってきます。自分が靴好きだからこだわりたいというのももちろんありますが、その人のバックグラウンドに沿った装いをするのは、相手に対する礼儀でもあると思っています」

TPNPOの考えを一言でまとめると「大統領に会っても恥ずかしくない装い」だと言う。実際に2016年開催された伊勢志摩サミットでは公式ブックを作る仕事で、9か国の大統領や首相に対面した。
「伊勢志摩サミットのときは〈ジョンロブ〉を履いていたと思います。ロンドンのビスポークスーツにビスポークシャツ、ビスポーク靴を身に着けていれば、国をあげてのフォーマルな場でもドレスコードを外すことはないし、自分も相手も気持ちよく過ごせる。自己満足だけでなく、場を心得るというのもファッションの楽しみの一つだと考えています」

ブーツ
足に合わせてギュッと締められるようにバックルがたくさんついているバイクブーツ。右/〈トリッカーズ〉、左/イギリス〈ルイスレザーズ〉。


しかし、そうはいってもそこまでこだわれるのはやはり“好き”だからに他ならない。だからビジネス用だけでなく、趣味の靴もマニアックに追究。例えば写真の2足のバイクブーツ。
「今は卒業したのですが、15年間バイクに乗っていました。イギリスの〈トライアンフ〉を2台乗り継いだのですが、その頃に履いていたのがこのブーツです。エンジンの熱でジュッと焦げた跡も残っています。茶色はイギリス〈トリッカーズ〉のもので超レア。黒はイギリスのバイク乗りが愛用するレザージャケットメーカー〈ルイスレザーズ〉のスペシャルなブーツです。趣味の靴の中での宝物で、今は眺めて楽しんでいます。オタクチックですが、好きなものに囲まれていると気持ちいいんです」

これらの靴は、リビングのソファから眺められるラックにディスプレー。
「靴箱にしまうのではなくあえて見えるように。きれいに磨いて眺めてうっとり。お酒を飲みながら手に取ったりもします。靴も家具と一緒で使えるアート。歴史や技術が凝縮され、眺めても履いても手入れをしていても、どんなときでも美しく、自分の自信を支えてくれます」

シューケアキット
〈チャーチ〉のシューケアキットで週末に靴磨きをする。靴は20年履いているイタリア〈ボノーラ〉。


大野重和
Shigekazu Ohno
(プロフィール)
1972年札幌生まれ。ファッションショーのプロデューサー、複数の出版社の編集者、フリーエディターを経て2007年に自身の会社「レフトハンズ」設立。雑誌、広告の企画制作をはじめ、PR、ブランドコンサルティング、イベントプラニング、メディア戦略など多岐にわたる事業を展開している。『Forbes JAPAN』でファッションコラム「Forbes Business Attire」を担当。http://lefthands.jp

撮影/兼下昌典 構成・文/三宅和歌子

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