信頼

富裕層を対象に百貨店がサービスを提供する「外商部門」がいま注目を集めています。外商部門の接客を受ける外商顧客は、新しいライフスタイルを実現するさまざまなサービスを受けられるのがその理由です。

百貨店の外商ビジネスの歴史を見ると、興味深いことに「リレーションシップ・マーケティング」の実践を命題とする小売りビジネスの未来が見えてきます。リレーションシップ・マーケティングとは、長期にわたり顧客と良好な関係と取引を継続する取り組みです。

百貨店の外商ビジネスは、歴史的に顧客のもとへ直接訪問して商品を販売しながら、顧客との継続的な関係を構築しており、今後の小売りビジネスで必要とされているリレーション・マーケティングの活動が実施されてきたモデルといえます。

リレーションシップ・マーケティングと外商ビジネス

今日の小売業の達成目標の1つとして取り上げられるリレーションシップ・マーケティングは、百貨店の外商ビジネスの考え方と類似しています。そして、この外商ビジネスは、いまも百貨店の経営戦略にとって大きな柱となっています。

外商ビジネスでは、顧客の信用度を確認することが可能であり、商品の支払いを後から回収する掛売りが、百貨店における外商ビジネスの基本的な流れでした。

ルーツは江戸時代の呉服屋

百貨店における外商ビジネスのルーツは江戸時代の呉服屋で行われた販売方法で、掛売りと結びついた仕組みとして発展しました。呉服屋の起源は、行商販売であるといわれており、当時の得意先は武家屋敷でした。武家屋敷に出向いて注文を取り、支払いは年2回として掛売りを行う仕組みが呉服屋にも引き継がれ、百貨店における外商ビジネスのルーツになったと考えられます。

実は、ピーター・ドラッカーは著書『マネジメント』において、「企業の目的は顧客の創造である」と指摘しています。その中で、17世紀に創業の途上にあった越後屋を「デパートの原型」として挙げています。顧客が手にする価値は、商品などの財そのものではなく、効用であるという基本的な考え方を実践しているのが、百貨店の外商であると指摘しているのです。

呉服屋の時代にも、店頭販売は存在していましたが、呉服屋の担当者は、顧客の好みを事前に熟知しており、あらかじめ用意しておいた品物を奥から出してきて顧客に見せ、その上で販売していました。顧客管理をベースにしたリレーションシップ・マーケティングが実行されていたわけです。

ビジネスを支える掛売りという仕組み

掛売りという仕組みは江戸時代であっても顧客の信用の上で成り立つ制度でした。江戸時代の末期には武家の財政が悪化し、掛売りでは支払いの回収が困難なケースが頻発しました。そこで、外商や掛売りとは異なった、新しい仕組みを採用する呉服屋も現れてきました。百貨店の起源といわれる越後屋の現金掛値なしという仕組みです。

越後屋では、上顧客ばかりではなく一般顧客の取り込みを狙い、掛値なし、価格交渉なし、現物引き換えの現金商売が江戸初期に導入されました。この仕組みはやがて他の呉服商も多く追随することとなり、現金掛値なしという販売はその後、百貨店の定義そのものとしてみなされることになりました。上顧客への掛け売りとあわせ、百貨店の販売形態の2本柱となったのです。

その後、1950年代以降、百貨店業界では外商部門の強化が行われました。百貨店のストアイメージを確立させる戦略で、企業イメージ向上とロイヤルティを基盤にした高級化路線の強化が目的でした。百貨店の外商制度はその後も継続し、多くの百貨店の売上に一定のシェアを占めるようになっていきます。

1970年代の景気低迷に伴う百貨店業界の売上低下の中で、百貨店は生き残りをかけて外商部門をテコ入れし、従来以上に顧客との距離を近づけるなど、営業効率の向上に取り組みました。

1985年以降のバブル景気時には、外商の拠点作りが積極的に実施され、出張所が多数開設されていきました。これらの拠点は徐々に事務所機能からギフトショップなど、商品販売機能を持つ拠点へと変化し、郊外の顧客開拓によって売上拡大に寄与することになります。

外商ビジネスの変化と課題

外商におけるリレーションシップ・マーケティングでは、特に重要な顧客は担当者が店内を案内し、その買い物をサポートする動きが定着しています。さらに、新規の顧客開拓も外商にとっては重要な活動となります。この新規の顧客を開拓する際に、大きなウエイトを占めるのは既存の外商顧客からの紹介です。富裕層は独自のネットワークを持っていることが多く、また、紹介された顧客は高い信用度が期待できるため、顧客からの紹介が非常に有効なのです。

外商の課題としては、重要な顧客対応に最適な人員配置や、販売時における値引きなどによる粗利益率の低下が挙げられています。さらに、百貨店を取り巻く社会環境や顧客ニーズの変化に対応した外商ビジネスの変化として、部署の統廃合や業務の効率化が推進されています。

月賦制度とクレジットカードの普及による顧客の囲い込み

顧客に対する直接的な信用をもとにした外商制度と掛売りに対し、戦後新たに広まってきたのが、アメリカから導入された月賦制度やクレジットカードの仕組みです。月賦制度やクレジットカードは、それまで上顧客のみに提供していた掛売りの仕組みを大衆層にまで拡大し、外商制度とは別に通常販売時の商品購入に際しての利便性を大きく向上させることになりました。

百貨店では、クレジットカードの普及と共に信販会社などが発行する汎用クレジットカードを受け入れるようになっていきます。やがて、与信、回収、債権管理などを提携先のカード会社が担い、百貨店は発行業務に専念する自社クレジットカードが主流となります。

もともとアメリカにおいてクレジットカードは、店舗による利用者の本人確認のために使われるようになったと言われています。利用者がキャッシュやチェックの代わりにクレジットカードを示して品物を買い求め、掛取引を行う仕組みでした。

それがやがて、顧客を囲い込むための方法になっていきます。日本でも、クレジットカードの広がりとともに、顧客を百貨店のファンにするための具体的な施策として用いられるようになっていきます。

顧客として登録し、ファンになってもらうことで、顧客を店舗に誘導したうえで、買い物状況を把握し、さらに要望を聞きだすことができます。結果として、これが長期的視点での収益拡大の基盤になるというわけです。各社は、クレジットカードを基盤として、値引き率の引き上げ、季節ごとのセールへの勧誘、特別な催事への招待など、付随するサービスを投入して付加価値を高め、顧客のロイヤルティ向上に努めています。

ちなみに、外商のサービスは多くの場合、掛売りであるため、ハウスカードとも言われるその百貨店でのみ使える外商カードが存在します。外商カードは、決められた外商担当者が連携しています。外商カードを使用することによって、外商担当者はその購入履歴から、必要なタイミングで必要な商品提案を行うことできます。外商担当者は、多様な商品、サービスを取り扱う百貨店の強みを生かし、サービスを限定しない提案ができるのです。一般のクレジットカードではなかなかできないサービスといえるでしょう。

また、外商カードの場合、利用限度額を外商担当者と顧客とのリレーションによって決められるなど、生身の接客を軸にした仕組みになっています。

外商ビジネス×インターネットが実現する、究極のリレーションシップ・マーケティング

百貨店の外商ビジネスとクレジットカード、外商カードで構成される仕組みは、顧客との長期的な関係を重視するリレーションシップ・マーケティングのモデルとして、今後の小売りビジネスにおいて重要な役割を担うと考えられています。

さらに、小売りビジネスに必要とされるロイヤルティプログラムの参考にもなるでしょう。インターネットを活用した小売業の仕組みの効率化が進むからこそ、歴史的に培われてきた外商ビジネスがもつ独自の競争力、商品やサービスの提案力が、広く小売業界において求められるのです。

クレジットカードの登場が百貨店の外商ビジネスに大きな影響を及ぼしたことと同様に、インターネットがリレーションシップ・マーケティングのドライバーとして重要な役割を担うのは間違いありません。それは、商品の販売がECへ移行する、という点ではなく、外商ビジネスにおける大きな強みである顧客管理との関連性です。

たとえば、ある顧客の性別、年代、過去の購入履歴などの詳しいデータを所有したうえで、「40代、アジア旅行好きの女性はこんなことに興味がある」といった外部のビッグデータを組み合わせて分析することで、その人が求める潜在的なニーズ、もしかすると本人も気づいていないかもしれないものを掘り当てることができるかもしれません。それは、直接的に結びつく旅行商品だけではなく、資産運用商品、健康管理サービス、相続対策、葬儀関連など幅広い選択肢が考えられます。

そして、こうした提案を、実店舗という物理的な制約を越えて、時機を逃さず、よりリアルタイムに、さらに低コストで提案できるという点も非常に大きいと考えられます。

顧客にとっては、もちろん自分の担当者の丁寧な説明を聞きたいということも多いかもしれませんが、商品によってはあまり時間を掛けたくないこともあるでしょう。また、今回の新型コロナウイルス感染症のように対面での購入がしにくい状況でも問題なく買い物ができるという点は大きなメリットになります。

リアルな対応によるきめの細かい接客と、データを起点としたサービス提案という2つの軸が掛け合わさることで、外商顧客が受けるサービスの質は、時代の流れを受けた新たなものへと進化すると考えられるのです。

いわゆるネットショップはまったくこれを実現することができません。クレジットカードとインターネット、そして外商担当者がいる百貨店にしかできない「究極のリレーションシップ・マーケティング」を、百貨店は無理なく展開できるのです。その意味で、富裕層を対象にしたインターネットを用いた外商ビジネスの潜在的な成長性は、非常に大きくなってくるでしょう。

いつの時代にも小売業は大きな市場のひとつです。デジタルイノベーションの小売業における具現化は、百貨店の取り組みが一つのモデルとなりそうです。未来の小売りを見るとき、百貨店の動向にぜひ注目していきましょう。

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