虎白

名店「神楽坂 石かわ」で長年研鑽を積んだ小泉瑚佑慈さんが独立し、2008年にオープンさせた日本料理店『虎白(こはく)』。2015年から5年連続ミシュラン三つ星を獲得し、日本を代表する店として多くの美食家から愛されてきた。日本料理の核となる良質な水と昆布の相性を追求した滋味深い“だし”と、日本料理には珍しい食材の使い方。「日本料理では珍しい食材」「自分自身がワクワクする、いままでに食べたことのない料理」を心に留めて小泉さんが生み出す独創的なひと皿には、“口福”が満ち溢れています。

心地よい感動を誘う、伝統的な日本料理を超える“驚きのひと品”

虎白,エントランス
木造建築を基調としたエントランス。店の建築は、小泉さんが全幅の信頼を寄せる「アーキヴィジョン広谷スタジオ」が手がけた。


虎白,小泉,料理人
30歳の時に「虎白」の店主となった小泉さん。オープンして8年目に国内最年少の三ツ星料理人に。


日本料理の命といえるだしへのこだわり、卓越した技術や季節感を繊細に捉えた表現力。和食としては珍しい、トリュフやキャビアをはじめとする西洋料理の豪華食材を大胆に組み合わせる遊び心と柔軟なイマジネーション。小泉さんが長年の修業で体得してきた圧倒的な技術とセンスが凝縮されたひと皿は、高級日本料理を食べ尽くしてきた客の舌をも唸らせてきた。

掛け軸,虎,髙仲健一
肩ひじ張らずに食事を楽しんでもらいたくて、心静かな時を過ごせるギャラリーのような空間演出を心がけました」と小泉さん。店名にちなみ、虎の掛け軸を画家・書家・陶芸家として活躍する髙仲健一さんに描きおろしてもらった。


食材そのものが持つ力を見極め、新たな調理法を編み出す

「食材の持つ美味しさを最大限に引き出すためにどんなことができるのか、と日々考えています。そして、いままで感じたことのない味をお客さまに提供したい、と。四季折々の伝統的な日本料理を食べられる店は東京に限らずたくさんあるので、『虎白』でしか食べられない料理を作りたいと思っています。例えば鱧を湯引きにして梅肉でいただいくという、伝統的な日本料理の調理方法もちろん素晴らしいと思います。でも、いままで知っている味覚は、飛び抜けた感動的な味わいにはならない気がしていて」
と語る小泉さん。だからこそ、伝統的な手法とは全く違うアプローチの方法をとことん突き詰められるように、ふだんから五感を磨くようにしているという。

「プライベートでもいろいろな料理を積極的にいただくようにしていますし、旅先でお寺を訪れたり、気になる美術館や陶芸家の展示に行ったり。うちの店のオブジェや絵を手がけてくれた作家の髙仲健一さんの制作現場に行くことも。千葉の山中で十数匹の家畜と共に生活し、薪の火を熱源として作品を創作していて、彼の生き方にとても刺激を受けます。技術を磨くだけではなく、センスを養うインプットの時間を大切にしたいと思いますね」

店内,虎白
店内はあえて個室を作らず、パーテーションで仕切ったモダンな空間。コース料理で長時間座る客を気遣い、ゆったり腰をかけられるソファチェアをセレクト。壁面の上に飾られた髙仲健一さんの「狩猟図」は17枚あり、ストーリーを読む楽しさも。


日本料理の命であるだしの美味しさを繊細に突き詰めたスペシャリテ

コースは昼夜ともに“おまかせ”で35,000円。スープ、お造り、肉料理、デザートなど、そのときの旬の食材で小泉さんがメニューを考案している。この日の突き出しは「シャトーブリアンと冷製ジュレ」。序盤に出てくるメニュー構成としても印象的なひと皿だ。“『虎白』秘伝のだし”で作ったジュレとヒレ肉が引き立て合う、爽やかなハーモニーに夏らしさが感じられる。

シャトーブリアン
「シャトーブリアンは軽く塩漬けをしてうまみを引き出しました」と小泉さん。表面をサッと焼いて仕上げたやわらかな肉と昆布だしで作ったジュレのピュアなうまみがけ合う。蛇腹切りにしてだし酢につけたキュウリの付け合わせでさっぱりと。品格と華やかさを際立たせる器は、骨董店で購入した古伊万里。


記憶に残る感動や驚きのあるひと皿を作るうえで基礎をなしているのは、だしをきちんと引くこと。食材を引き立てるのも、食材を支えるのもだしの役割だと、小泉さんは考える。“清澄な水”を感じるだしを使った料理は、『虎白』のメニューの骨格と言っていいだろう。

「自分が求めるだしの味は、常に試行錯誤を重ねていて、店をスタートした時点からは随分進化したと思います。全国からさまざまな水と昆布を取り寄せて、それぞれにだしを引き、好みの味を探りながらいまの味に辿り着きました」
聞けば、硬度0.2mg/lという日本でも珍しい超軟水の白神山地の水を使っているという。超軟水が導くまろやかな口当たりと、独特の柔らかな食感、口溶けのよさは実に心地がよい。加えて、『虎白』のお造りは醤油とわさびでいただくのではなく、だしを用いた“ジュレで食す”スタイルを貫いている。

料理,虎白
天然琵琶鱒を軽く藁焼きに。昆布だしのジュレをベースに橙の柑橘の酸味を効かせ、花穂紫蘇やミョウガ、万能ネギなど薬味を合わせて。「脂のノリ方が上品で身が締まった琵琶鱒は、なかなか入らない食材です」と、小泉さん。


料理を楽しむ気持ちから、無限にアイデアが生みだされる

小泉さんの料理は食材の使い方が大胆な面もあるが、決して奇をてらったものではない。
「ただ珍しいだけだと意味がないし、新しい素材や技法を取り入れればいいというわけでもありません。何より素材の美味しさが際立ち、これまでにない表現ができるかどうかが重要。自分自身がそういった可能性について考える時間が何より楽しいんです。好きだからこそ、無限にアイデアが生まれます。僕たちが楽しんでいないと、お客さまにも喜んでいただけない。スタッフみんながハッピーじゃないと、幸せな料理は絶対できないと思っています」

虎白,料理
「蒸したトウモロコシを1日休ませると、糖度が高くなり、とっても甘くなるんですよ」と小泉さん。トウモロコシを鰹と昆布のだしに入れて寒天寄せに。寒天の甘さとキャビアの塩味の意外性のある一体感に驚かされる。


鮑
蒸し煮にした鮑のスライスを、蒸したもち米の上に乗せ、葛でとろみをつけた鮑のだしで風味豊かに。鮑の柔らかさと弾力性のあるもち米が重なり合う食感が新鮮なひと皿。


酒,
酒店では販売していない、蔵から直送される希少な酒も堪能できる。


小泉さんの言葉はどれもシンプルで純粋で、人の心を柔らかくする温かさがある。そして、彼の作る料理が唯一無二の存在感を放つのは、人間的な魅力や哲学がぎっしりと凝縮されているからに違いない。仕事の手を休め、英気を養いたいと願う時、透徹した世界観を持つひと皿ひと皿に心を委ねてみてはいかがだろう。


「虎白」
東京都新宿区神楽坂3-4
☏ 03-5225-0807
営業時間 正午~、17:00〜
基本コース 35,000円
休 日・月・祝日
https://kagurazaka-kohaku.jp/

※「感染防止徹底宣言ステッカー」認可店

撮影/吉次史成 構成・文/矢島聖佳

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