須田二郎,ウッドボウル

うつわはおもに料理のためのものですが、作家が作るそれには暮らし方や社会の捉え方まで変えてくれるほどの思想があります。それを知ることはアートに心動かされる感覚ともよく似ていて、かかわることで自分の中の何かが変わるような体験。そんなうつわの「名作」をたどる連載の第4話は、須田二郎さんのウッドボウル。

日本の森林と食卓をつなぐ木工家

作家もののうつわを使うことは、産直の野菜を食すことに似ていると感じることがあります。作り手の顔が見え、素材や製法に信頼がおけるからですが、須田二郎さんのウッドボウルは、それに加えて採れたての野菜のごとく、森から切り出して間もない生木(なまき)のうちにうつわ型に削られることもあり、農作物のようにみずみずしい。ではなぜこの製法をとるのか。

伐採から製品化までたった数週間、木工品としては短期間の、いわばできたてに近い状態で私たちの手元に届くのには、美しさを求める以上に森の木の使い道を広げたい思いがあります。

須田二郎,ウッドボウル
曲線と木目が優美なサクラのウッドボウル¥12,000(税込・直径40cm)。サラダボウルはもちろん、ちらし寿司の飯台としても重宝。


捨てられる木材の使い道を整える

大都市・東京にも昭和40年ごろまでは、雑木林や里山が多くありました。落ち葉や下に落ちた細い枝は、村人が堆肥や薪、炭として無駄なく活用するなど、森林は生活とつながり自然と手入れがされていたのです。しかし戦後になると住宅様式も生活スタイルも変化し、そうした木の使い道は減る一方。5〜20年おきに一定の面積を、伐採し切り株から新しい芽を育てる皆伐(かいばつ)という整備も、切り出した樹木の需要がないという理由で次第に行われなくなり、放置される雑木林が増えました。仮に人手や費用があって伐採できたとしても、粉々にされ燃料用のチップになるのが関の山。2トントラック一台分もの木材が、チップにするとたった3000円ほどで取引されてしまいます。

須田さんが使うのは、放置され大きく育ちすぎた大木や、マンションなどの宅地造成のため里山まるごと伐採して出た雑木、森の整備のために森林ボランティア団体が切った樹木など。「余りもの」となった木の命を救い上げ、うつわとして新たな役割を与えることで、木工家として生計を立てることができることを実証するとともに、森林の問題へ関心を持ってもらうことを望んできました。

須田二郎,ウッドボウル
カシの木に宿る独特な模様は虫食いが原因というが、人には描けない複雑さを持ち、どことなくセクシーでもある。¥15,000(税込)


余りものを魅力あるうつわに

須田二郎という木工家の手から、初めて木のうつわが生まれたのは、1999年。欧米で流行していたウッドターニング(木工旋盤)という技法に目をつけ、東京・西多摩エリアの森林ボランティアの活動で得た雑木を利用したのが始まり。

ウッドターニングとは、旋盤(せんばん)という回転する機械に木の塊をセットし、刀物をあてて形を削り出す技法。須田さんが始めた頃は習得が困難な職人技術でしたが、2000年代に入ると日曜大工のツールとして広めようという動きが起こって、機械の性能が飛躍的に向上しました。いまでこそ個人作家は多いですが、須田さんはたったひとりで技術を磨いた、孤高の第一世代です。

須田二郎,ウッドボウル
伐採されたばかりの木は、水分が多く生命力にあふれているため、削ったそばから形を変え、乾燥とともに自然なゆがみを宿す。数週間乾かしたのち、オイルを塗って製品となる。


20年来親しまれる東京生まれのウッドボウル

その後、東京の「うつわ楓」に展示されたウッドボウルは、徐々にスタイリストの西村千寿さん、高橋みどりさん、料理家の栗原はるみさんや松田美智子さんといった食のエキスパートたちの目にとまり人気の品に。しかも、一度使った人のほとんどがリピートするという、その魅力とは……。

第一に、カシ、クルミ、ナラ、カエデ、サクラなど木によって異なる一点物の木目の美しさ。森のために始めたもの作りだからこそ「樹種の選り好みはせず、手に入った木材をとにかくうつわに」とは、須田さんのモットーのひとつです。生木のまま削り、乾燥によって生じる自然なゆがみを作風にいかすことは、木の消費サイクルを早めることを意図してのことです。

その上、直径40センチのボウルでもとにかく軽い。ぎりぎりまで薄く削る技を駆使し、大きくても扱いやすいウッドボウルを生んできました。大鉢を作れるのは、太くなるまで放置される木があるということ。例えばナラの木は、樹齢50年を超えると寿命を迎え台風などで倒れやすいため、人に害を与える障害木というレッテルを貼られることも。倒れた木や迷惑な木の第二の人生が大鉢なのです。

「ウレタン塗装はせず、オイルフィニッシュで仕上げますが、食用のサラダ油を使ったのは、僕が初めてだったのではないかと思います」と須田さん。木材を生活に活かそうとするなら、身近なもので手入れができることも大事です。天然木のうつわは、料理の汁や油を吸い込むことで、味わい深く育っていきます。

須田二郎,ウッドボウル
須田二郎,ウッドボウル
木の塊から入れ子式に大小のうつわを削り出す技術でサイズ展開を増やしつつ、早くたくさん作ることで良心的な価格を保つよう心がける。カトラリーや調理ヘラには、乾燥の進んだ家具の端材を利用。サーバースプーン¥1,980(税込) 。


一銭にもならない木を救う先に未来はあるか

こうして見ると、須田さんの木のうつわの魅力は、日本の森林の悲しい現実と表裏一体だということが分かってきます。

日本の森林のほとんどは定期的な手入れが必要な人工林。雑木林に限らず、杉やヒノキなどの森も人の手が十分に行き渡らないことで根が張らず土が痩せ、土砂災害の原因となっています。手入れを続けながら、空いた土地にはもともとの植生を生かした植林をし、人の手を借りずとも自然循環の中で成立する森林にすることも急務だといわれています(*1)。

「雑木って美しいんですよ。曲がりくねっていたり、虫食いがあったりして建材や家具には到底使えないんだけど、そのままで綺麗だということはこの仕事をして気づいたことです。雑木林も定期的に整えられればいいのですが、理想的な循環のサイクルはとっくに崩れて大木が増えているため、運び出すのにも費用がかかり、運び出しても二束三文で処分される。行政や企業が製品化や販売に関心を持ってくれるなど、再利用の持続的なサイクルができればと願うのですが、なかなかうまくいきません」と嘆く須田さんは、展示会のたびに自分の言葉で森の現状を伝えることを続けています。

手作りのうつわを使うことは、作り手の顔が見えると同時に、そのメッセージを受け取ることでもある。使う私たちが、須田さんの取り組みのその先にどんな未来を広げていけるのか、一緒に考えることは、作り手の心意気を末永く支えることにつながるのかもしれません。

*1 参考:『三本の植樹から森は生まれるー奇跡の宮脇方式』 宮脇昭著 祥伝社(2010年)

 

衣奈彩子/SAIKO ENA
うつわライター/編集者
(プロフィール)
女性誌編集部を経て2005年独立、子育てをきっかけに家族のおいしい食卓に欠かせないうつわにはまる。なかでも同世代の作家が想いを込めたふだん使いのうつわが気になって仕方がなく、仕事とプライベートの垣根なく作り手と交流し取材を重ねる。うつわを中心に手仕事や暮らしにまつわるテーマで執筆の傍ら、作り手の思いを伝える書籍の編集にも携わる。著書に「うつわディクショナリー」(CCCメディアハウス)、編著に「料理好きのうつわと片づけ」(河出書房新社)
https://www.instagram.com/enasaiko/?hl=ja

撮影/白石和弘
http://shiraishikazuhiro.com/

須田二郎
木工家
(プロフィール)
1957年、新潟県生まれ。天然酵母のパン屋や農業、炭焼き職人を経験する中で森林や雑木林の植生に興味を持つ。90年代に森林ボランティア団体「西多摩自然フォーラム」の活動を通して、チェーンソーの扱い方や樹木の切り出し方を習得。1998年にウッドターニングの存在を知り、間伐材を用いてうつわ作りを始める。2004年、AAW(アメリカウッドターニング協会)の会員に。現在は東京・八王子に工房を構えギャラリーやインテリアショップでの展示会を中心に作品を販売する。
https://sudajiro.tumblr.com/
https://www.instagram.com/sudajirokikori/?hl=ja

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