ガストロノミー

世界屈指の“美食エリア”と言われるスペインのバスク地方で、話題を呼んでいるのが、ビルバオ郊外にある三つ星レストラン「アスルメンディ」である。オーナーシェフは、世界的に注目を集めるエネコ・アチャ・アスルメンディさん。伝統的なバスク料理からモダンなタイプまで、長年の修業でさまざまな郷土料理を身につけてきた彼が生み出す最先端のバスク ガストロノミーは、“故郷をリスペクトする想い”から始まったという。伝統と革新性が感じられる“エネコ流バスク料理”を東京で体験できるのが、東京・六本木にある『ENEKO Tokyo』だ。ミシュラン3ツ星を獲得したレストランが創造する新しいバスク料理をお届けします。

バスクの自然との共生を考えた、 レストランの新しい営み

ENEKO Tokyo
『ENEKO Tokyo』のレストランのエントランスは、自然を大切に想う、エネコさんのスピリットが感じられるグリーンウォールが。


オーナーシェフであるエネコ・アチャ・アスルメンディさんは、海と山の食材に恵まれた故郷のバスク地方の個性や可能性を信じ続けてきた人だ。27歳という若さで『アスルメンディ』をオープンし、35歳のときに3ツ星を獲得。故郷を想う気持ちから湧き上がる「バスクの自然との共生」や「クオリティの高い素材を継続的に提供するシステム構築」に成功したエネコシェフ。長い時間をかけて実践してきた、環境や自然を大切にする持続可能なシステムは、いま世界的な注目を集めている。

ENEKO Tokyo
プロジェクターの映像に映っているのが、オーナーシェフのエネコ・アチャ・アスルメンディさん。


例えばそのうちの一つが、雨水を貯蔵し、ろ過した水をリサイクルする試み。メインダイニングの上階では、その水を使ってスタッフがハーブやエディブルフラワーを栽培。その都度、収穫してフレッシュな素材を使用し、調理している。また、生ゴミをリサイクルし、堆肥化したものを取引先の生産者に渡し、作物の肥料として循環させているという。地球環境のことを様々なアングルから考え、限りある資源を有効活用し、無駄のない取り組みを継続していくことがエネコシェフのスタイルだ。イノベーティブな発想こそが、“エネコ流バスク ガストロノミー”の真髄と言えるだろう。そのスタイルを東京で体現しているのが『ENEKO Tokyo』なのである。

伝統的なバスク料理をエネコシェフの感性で噛み砕いたモダンなひと皿

彼が作るバスク料理のコースは、プレゼンテーションも個性的。日本ではレストランに着くとテーブルに案内されてすぐに食事が始まるのが常だが、スペインでは食事の前におしゃべりを楽しむリラックスタイムをもつという。自国の慣習をヒントに、『ENEKO Tokyo』でもダイニングルームに通される前に、エネコ流の遊び心あふれる演出が用意されている。エントランスを抜けた先にある「グリーンハウス」で、季節の草花や苔玉を愛でながら楽しむアペリティフの時間。これを“ピクニック”と呼んでいる。

ENEKO Tokyo
ランチとディナーのコースの始まりは「グリーンハウス」での“ピクニック”から。季節の草花や苔玉を愛でながら、フィンガーフードや「ゴルカ・イサギレ」というワイナリーでエネコさんがオリジナルで作っている白ワイン、チャコリをいただく。テクスチャーのある壁は「バスクの風」をイメージしてデザインしたもの。


ダイニングではエネコシェフのクリエイティブな感性が光る、前菜やメイン、デザートなどのコース料理を堪能できる。伝統的なバスク料理は主に2つに大別され、1つはスペイン北部のビスケー湾に面する「海バスク」と呼ばれるエリアの魚介類を中心とする料理。もう1つはフランス南西部の国境をまたぐピレネー山脈に沿った内陸部の「山バスク」料理で、肉の加工品や乳製品、野菜、豆、フルーツなどを使ったものがある。揚げたり、煮込んだり、塩漬けしたり、ローストしたり。シンプルな調理方法で作られた料理は、素朴で温かなムードが感じられるのが特徴だ。

エネコシェフは伝統的なバスク料理を自身の感性で噛み砕き “モダンバスク料理”を展開。彼が作り出すひと皿には、食感がもたらす驚き、味の変化を堪能できるソース使い、心ときめくエレガントな色彩が配された盛り付けなどが緻密に計算されている。

ENEKO Tokyo,芝海老
芝海老のまわりにエビのオイルを乳化させた丸い形状の白いソース、海藻パウダーで仕上げた緑色のキューブ型のセロリのピクルス、リンゴのコンポートなどを細かく散りばめた多層的な味わいを楽しめる前菜。最後にシェフが粉雪のようなトマトのシャーベットを盛り付ける素敵な演出も。


お祖母さんが作った料理がインスピレーションソースに

現在『ENEKO Tokyo』の総支配人兼、料理長を務める磯島仁さんは、エネコさんについてこう語る。 「エネコシェフが大好きな言葉は“Traditional” と“Modern”。彼の料理は自身のお祖母さんが作った料理からインスピレーションを得て、それをモダンに昇華させたものが多いんです。エネコは幼い頃、お祖母さんにレモンのかき氷をよく作ってもらっていたそうで、前菜の『芝エビと野菜のジュレとトマトのグラニテ』はそんな記憶をヒントに彼の感性で咀嚼して考えたものです」

ENEKO Tokyo
金目鯛を、バスク地方で愛されるサクサクとしたフリットに。ちなみに、バスクの『アスルメンディ』では日本を意識し、あえて“てんぷら”と呼んでいるそう。鉄瓶から回しかけるソースは、大量の赤パプリカを1時間ローストして重石を乗せ、一晩放置することで野菜のエキスを抽出したもの。


味わいをより一層ふくよかなものするソース使いは、エネコシェフが作る料理の際立った特徴といえる。

「エネコの料理は、フランス料理のようなブイヨンを使わないんです。その代わりに例えば、水のみで素材を長時間炊き、旨みを十分に引き出したソースを作ります。他には、素材とオイルを乳化させて作る『エマルションソース』など。素材そのものの旨みをギュッと凝縮させたソース作りには強いこだわりがあります」と、磯島シェフ。


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バスク料理ならではといえる食材を使った「豚肉、キノコ、アスパラガス」という名のひと皿。「エネコシェフは食材名だけを並べてメニューにすることが多いですね」と磯島シェフ。豚肉は低温で3時間コンフィに。キノコを乳化させたソースの上に、細長くカットして炒めたエリンギをのせて。


磯島仁,ENEKO Tokyo
バスクの『アスルメンディ』で4カ月研修を経験した料理長の磯島仁さん。お客様の目の前でシェフ自らが仕上げの盛り付けや料理の説明を丁寧に行うのが『ENEKO Tokyo』のスタイル。


ENEKO Tokyo,デザート
わさびのアイスのほのかな苦味、トマトやフランボワーズの甘みや酸味、懐かしさを感じるメレンゲの味など、素材の旨味が上品に引き立て合うデザート。


料理以外にも『アスルメンディ』やバスクの息吹を感じられる演出がそこかしこに

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バスクの『アスルメンディ』にも「グリーンハウス」があり、そこでは絶滅しかけている豆やトウモロコシの品種を60種ほど保管している。『ENEKO Tokyo』でも、日本の古来種の豆や絶滅しそうな花の種を譲り受け、未来に残すべく「グリーンハウス」でディスプレイ。


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「グリーンハウス」には、料理で使用するスパイスの原料のラインナップも。その場で手に取り、香りを楽しむことができる。


メインダイニングのテーブルは、地元ビルバオの 「Arkaia」(アルカイヤ)というメーカーから輸入したもの。リラックスできるカジュアルな空間の中には、芸術の街とも称されるビルバオの風景を切り取ったアートやオブジェがそこかしこにディスプレイされており、遥か遠くの土地や文化に思いを馳せることができる。

ENEKO Tokyo,ダイニング
メインダイニングでは、シンプルモダンなインテリアが、贅沢な寛ぎの時間へと誘う。


ENEKO Tokyo,個室
ゆったりと食事が楽しめる個室は3部屋用意。


洗練された料理や空間演出やからは想像し難いかもしれないが、どこかバスクの郷土料理の素朴さが感じられる優しい味わいもまた、エネコシェフの本質と言える。それはきっと、シェフが幼い頃に感動した料理の原体験や故郷への愛情をひと皿の中で大切に表現しているからに違いない。丁寧な料理がもたらす美食時間が、自然豊かなバスクへの心の旅へ導いてくれるだろう。



「ENEKO Tokyo」
東京都港区西麻布3-16-28 TOKI-ON西麻布
☏ 03-3475-4122
営業時間
Lunch: 12:00~15:00(L.O 14:00)
5品 5,000円、6品7,000円、8品 13,000円。
Dinner : 18:00~22:30(L.O 20:00)
8品 13,000円、11品 20,000円

休 月曜日・火曜日(祝日の場合、翌火曜日)、年末年始、
土日祝不定休(ウェディング利用日は休み)
https://eneko.tokyo/

撮影/吉次史成 構成・文/矢島聖佳

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