『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。

「ブレンド」と「ロースト」というお茶の加工の仕方に着目し、日本ならではの四季が感じられる素材を取り入れ、新しい日本茶の味わいを提案する『櫻井焙茶研究所』。表参道のスパイラルビルの5階にある店内には、お茶や茶道具の販売スペースと茶室をモダナイズしたような洗練された空間が併設。奥の茶房では、店主の櫻井真也さんが日本各地を回って選び抜いた幅広い種類のお茶を、美しい所作でもてなしてくれる。

一切無駄のない所作で、香り高い上質なお茶が淹れられる。

美しく経年変化をした銅板素材を使った収納兼パーテーションが目を引く店内。無垢の木に黒漆を塗った艶感のあるカウンターのなか、無駄のない美しい所作でお茶を淹れてくれるのが店主の櫻井真也さんだ。

鹿児島から取り寄せた天然の温泉水が湧く茶釜からまろやかな湯を柄杓で茶器に移し、お茶をおいしく飲める温度まで湯冷ましを。その湯で淹れてくれた1杯目のお茶は、京都府宇治産の 玉露「ごこう」である。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
平宝瓶(ひらほうひん=平らな形の取っ手のない急須)に茶葉を入れ、35℃くらいの人肌程度に冷ましたお湯を、茶葉がバラバラにならないように、外から中央へまんべんなくゆっくりと優しく注ぐ。


舌に強く残る、玉露の旨み。

「お湯の温度によって主にカテキンという渋みの成分とテアニンと呼ばれる旨味成分の抽出を調節しています。お湯が50度以上になると渋みのほうが出やすくなるので、それ以下に保つようにしています。それによって旨みが出やすくなるんです」と櫻井さん。

お湯を注ぎ3分置いたタイミングで平宝瓶の蓋を開けると、濃厚な旨みを感じるこっくりとした茶葉の上品な香りが立ち昇る。その一瞬で場の空気や時間の流れがゆっくりと変化し、全身でお茶を味わう官能体験が始まる。カウンターからプロの所作を眺め、お茶の正しい淹れ方を学ぶのもまた味わい深いものだ。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
玉露の一煎目に合わせたお菓子は丹波篠山産の黒豆。舌に強く残る玉露の濃厚な旨みと、香ばしさのなかに漂う控えめで優しい甘さが調和する。


お菓子を堪能している間、櫻井さんがそっと2煎目の玉露を差し出してくれた。1煎目よりも渋みが出た厚みのある味わいで、カテキン成分によって頭の中が覚醒していく。そうした効果が期待できるのも玉露ならでは。仕事の合間に玉露を飲んでリフレッシュするのもおすすめの飲み方だ。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
茶室に入る前に手を清めるために使う「蹲(つくばい)」に見立てたしつらえ。カウンターにいながら、水の流れや時の移ろいが感じられる。


旬の素材や季節のうつろいに敏感でいることが五感を育てる。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
季節によって合わせる素材が異なるブレンドティー。口の小さいグラスから、すだちのフレッシュな香りがツンと立つ。


玉露の旨味を味わった後は、カクテルのようなアイスブレンドティーが出された。紫蘇とフレッシュなすだちの皮を絞って風味付けをしたものだ。
「ブレンドティーに合わせるフレッシュな素材は、季節によって変わっていきます。いまは新緑の季節なので紫蘇を。3月、4月はふきのとうを使ったりもしていましたし、夏は桃を使うこともありますね」

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
ブレンドティーのアテとして、漬物にした玉露の茶葉を。軽く白ぽん酢を回しかけていただくのが美味。からだにも良さそうな一品。


櫻井さんは茶葉の選定からお茶の合組(こうぐみ=ブレンド)やロースト、客前でお茶を振る舞うところまですべてを担当。日々、味覚に敏感であるために大切にしていることは、素材の味を見極め「季節を感じること」だという。

「元々はバーテンダーだったんですが、前職でお茶に巡り合い、日本茶の種類や特徴、抽出する時間による味の変化について勉強していくうちに、どんどん興味が深まっていったんです。裏千家のお茶の先生に茶道を学んだり、日本茶の専門店で煎茶の淹れ方を学んだり。お茶の世界に身を浸しているなかで、日本には老舗のお茶屋さんは存在するけれど、モダンなスタイルでお茶を愉しめる店がないと感じ、自分なりの新しいお茶の味わいや愉しみ方を日々研究しています。例えば桃や生姜を使うときは、主張し過ぎないようにバランスを考えます。みんなにおいしいと思ってもらえる味、家庭でも簡単に淹れられるブレンド、その季節ならではの味を意識します。テイスティングしながら、いつもああでもない、こうでもないと試行錯誤を繰り返しながら。また、五感を豊かにするために、日々、季節に対して敏感であるように意識していますね。梅雨時なら、葉っぱの匂いや雨の匂いを感じたり、咲いている花を眺めたり、スーパーで旬の食材に積極的に触れるようにしています。頭の中はいつもそんなことでいっぱいです(笑)」

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
店内には櫻井さんが参考資料にしている懐石料理の蔵書も。


そうした日々の積み重ねによって、五感が鍛錬されていくのだろう。お茶の世界に入って17年経つという櫻井さんだが、どんなに訓練を重ねてもお茶の世界は奥が深く、まだまだわからないことや新しい発見がある、と好奇心は尽きない。

「接客していると外国人の方の反応が興味深くて。珈琲の焙煎って世界中に広まっていますよね。海外の人は日本茶だと玄米茶や焙じ茶が好きなんですよ。それはなぜかというと“香ばしい味わい”が好きだから。種類によっては、本当に珈琲っぽい味わいが出るものもあるんです。そう考えたときに、焙じ茶が実はいちばん世界に通用する日本茶なんじゃないかな、と思ったりもして」

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
焙じ茶は6種から好きな茶葉を選んでもらい、その場で焙じて“出来立ての茶葉”を提供するスタイルをとっている。


『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
福岡県の八女市で栽培された「つゆひかり」という品種の焙じ茶。スパイシーな香気とまろやかな甘みが際立ったほっとする味。漬物と一緒に供される。


焙じ茶の2煎目はやや渋みを感じる味わいが口内に広がる。珈琲好きも唸るような“クセになる香ばしさ”が印象的だ。そして、コースの締めくくりとして供されたのは、櫻井さんが点てた抹茶と信州小布施の「桜井甘精堂」の伝統的な栗菓子。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
目を閉じ、姿勢を正して精神統一。静寂に包まれながら抹茶を点てる。


『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
福井県鯖江市で活動する塗師・中野知昭さんによる日常のシーンに寄り添ってくれるモダンな漆器。陶芸家・竹村良訓さんの茶碗に注がれた抹茶との色彩のコントラストが美しい。


抹茶は、苦味も控え目で栗菓子の素材の甘みが優しく引き立つ。ストレート、ブレンド、ローストといったバラエティに富んだ日本茶と季節の和菓子を享受する贅沢な時間は、日本茶の奥深さに触れるだけではなく、日本の文化や四季の移ろいに感動する心をも育ててくれるに違いない。

『櫻井焙茶研究所』 都会の真ん中にある静謐な茶房で、日本茶の魅力に浸る。
店の入り口付近では常に30種ほどのお茶や茶道具を販売。最近、オンラインでの販売も開始した。


櫻井焙茶研究所

東京都港区南青山5-6-23 5F
☎︎ 03-6451-1539
売店 11:00〜20:00
茶房 11:00〜22:00(Lo 21: 30)
https://www.sakurai-tea.jp/

撮影/上原未嗣 構成・文/矢島聖佳

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