欧米,量子コンピュータ,2030年
(画像=Yurchanka Siarhei/Shutterstock.com)

欧米を中心に、次世代コンピュータの開発競争が進んでいます。その中で注目されているのが、従来のコンピュータの1億倍ともいわれる桁外れの計算能力を持つ量子コンピュータです。米国では総額12億ドルもの予算を投入し、研究開発を進めています。ここでは、量子コンピュータがこれからの世界をどう変えていくのかについて、解説します。

世界中で資金が集まる。狙いは「量子革命をリードする」

量子コンピュータが注目されている背景には、これまで続いてきたコンピュータの進化に限界が見えてきたことが挙げられます。これまでは、コンピュータは半導体の集積率が18ヵ月ごとに2倍になるという「ムーアの法則」に沿って性能が進化してきました。しかし、ムーアの法則による半導体の性能向上にも陰りが見えており、新たなイノベーションが求められてきています。

また、あらゆるものがインターネットにつながるIoTの普及や、人工知能(AI)、機械学習といった新たな技術の登場により、コンピュータで処理するデータが世界中で膨大になってきています。そのため、コンピュータにはより高速な処理性能が求められています。このような状況で、今までとはまったく異なるアプローチで情報を処理するコンピュータとして、量子コンピュータに期待が集まっているのです。すでに世界的に取り組みが始まっています。

米国では2018年に「国家量子イニシアチブ法」が制定され、トランプ大統領が5年間で総額12億ドルの投入を決めたとして話題になりました。狙いは、アメリカが量子革命をリードすることです。コンピュータサイエンス、物理学、工学などさまざまな領域の専門家を交えて実験を推進したり、未来の量子研究者を育成する研究センターを作ったりといったプランがあります。企業やベンチャーには、政府機関との共同研究においてノウハウを提供することを求めています。

ヨーロッパや中国においても、同様に大型の投資が決まっています。日本においても、他国よりも規模は小さいものの、経済産業省や文部科学省を中心にプロジェクトが立ち上がっています。

Googleの量子コンピュータは1万年を200秒に

研究開発は着実に進んでいます。Googleが開発した量子コンピュータは、従来型コンピュータでは最速とされるスーパーコンピュータでも1万年かかる計算を、たったの200秒で実行してしまったのです。

ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは、「量子アニーリング」と呼ぶ量子コンピュータを用いた交通最適化アプリを開発しています。量子アニーリング方式とは、膨大な組み合わせの中から最適なものを選択する組み合わせ問題に特化した方式で、量子コンピュータ企業のD-Wave Systemsが世界で初めて開発に成功したとされています。

例えば、金融市場の変動を踏まえたポートフォリオの更新や配送情報や交通量の変化を踏まえた物流の仕組み構築など、産業のさまざまな問題を解決できると考えられています。

Google、マイクロソフト、IBM……。世界的IT企業が対応を強める

注目を集めている量子コンピュータですが、現在D-Waveを追うようにGoogle、マイクロソフト、IBMなどを筆頭にそれぞれ研究開発が進んでいます。IBMはウェブ上で誰でも扱えるIBMQを発表し、量子コンピュータに興味がある企業や学術機関とコミュニティを形成し、量子コンピュータの活用方法を提供しています。また、Googleはアメリカ航空宇宙局(NASA)と共同研究を進め、自社でも量子コンピュータを開発しています。マイクロソフトは、量子コンピュータ向けの冷却装置やプログラミング言語の開発を進めています。

日本ではNTTがQNNCloudを公開(サイトは2019年3月末にクローズ)していました。各社それぞれ量子コンピュータの実用化に向けて研究開発を進めていますが、IBMのように自社だけでなく、他社とコミュニティを形成する「オープンイノベーション」形式で進めている例が目立ちます。

量子コンピュータはまだ広く実用化されているとは言えませんが、今後私たちの生活を大きく変えるきっかけになると考えられます。今注目を集めるフィンテックなどはもちろん、ヘルスケア、バイオサイエンスなどの分野でも広く活用されていく可能性があります。

量子コンピュータに関する各社、各国の動向をフォローし、世界の人々の暮らしが実際にどのように変わっていくのかを考えてみてはいかがでしょうか。

文・J PRIME編集部

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