素粒子,ミューオン,できること
(画像=Anton Balazh/Shutterstock.com)

日本の歴史において、最大のミステリーといえば「卑弥呼の墓」でしょう。その所在をめぐって多くの考古学者が研究を続け、いまだに見つけられていない卑弥呼の墓ですが、素粒子「ミューオン」の活用により発見できる可能性があるとして、注目を集めています。

X線よりも高い透過力を持つ、宇宙からの放射線の一種「ミューオン」

ミューオンとは、宇宙から地球に降り注いでいる素粒子の一種であり、「ミュー粒子」とも呼ばれています。宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)が地球の大気に衝突することで生じる素粒子であり、10平方センチメートルあたり、毎秒1個ほど降り注いでいると言われています。

ミューオンは、1937年に岡山県出身の日本の物理学者、仁科芳雄博士が宇宙線の中から発見しました。当時の物理学の理論では説明できない性質があったため、多くの物理学者がその正体を解明するための糸口を探ってきました。さまざまな研究が進み、今日では宇宙を構成する素粒子(レプトン)の一種であると考えられています。

そんなミューオンは、X線よりも高い透過力(物質を通り抜ける力)を持っており、厚さが数キロメートルもある岩盤もすり抜けます。一方で、高密度の物質に衝突すると浸透する量が減少するというおもしろい性質も持ち合わせています。

ミューオンは建造物の非破壊検査を可能にする

このミューオンの高い透過力と、高密度物質との衝突時に透過力が減少する性質が、発掘調査の現場で注目されています。ミューオンを活用すれば、考古学的に貴重な建造物を破壊せずに調査できるわけです。

ピラミットなどの古代遺跡は、調査のためとはいえ、むやみに破壊して発掘するわけにはいきません。ミューオンを利用すれば、その浸透量を計測することで、本来ならば破壊しないと確認できない部分について、密度や構造を把握できるわけです。

いわば、巨大な建造物ごとレントゲンにかけられるわけで、画期的な調査手法であることがわかるでしょう。

クフ王のピラミッドの中心部にある巨大空間の発見にも役立った

考古学の分野におけるミューオンの活用はすでに始まっています。最も有名なのが「クフ王のピラミッド調査」です。

2015年、ピラミッドの謎を解明する目的で、フランスや日本などの研究機関によって「スキャンピラミッド」というプロジェクトが発足しました。このプロジェクトでピラミッド内部の調査に用いられたのが「ミューオン」なのです。

プロジェクトの一環として、クフ王のピラミッドをミューオンで調査した結果、未知の巨大空間の存在が明らかとなりました。初めて発覚した事実であったため、2017年11月に科学誌「Nature」で発表されました。それをきっかけに、世界中でミューオンが大きな話題となったのです。

卑弥呼の墓特定など歴史的な大発見につながる可能性も

考古学の第一線で活用され始めたミューオンですが、日本の歴史における最大の謎である「卑弥呼の墓」の特定にもつながると期待されています。

2020年1月に橿原考古学研究所と名古屋大学の研究チームは、卑弥呼の墓があるという説がある「箸墓古墳」について、内部の構造を明らかにする目的でミューオンを使った調査を実施しました。3世紀中ごろから4世紀につくられたとされる古墳は、天皇に関わる墓であるため、ほとんど調査できていません。そこで、古墳に立ち入ることなく調査できるミューオンによる調査が検討されたのです。

橿原考古学研究所が実施した3次元航空レーザー計測で、直径が約39メートル、高さが約4.7メートルの円形の丘があることがわかったといわれています。これらの調査結果次第では、卑弥呼の墓が特定されるという歴史的な発見につながる可能性もあります。調査結果は2020年度中にも発表される可能性があり、大きな注目が集まっています。

ミューオンで古代文明の謎が解明されるのか

ミューオンの活用により、卑弥呼やクフ王のピラミッドの謎が解ける可能性に、期待は大きくふくらんでいます。追加の調査によって邪馬台国の場所や当時の状況が明らかになったりするなら、それは考古学的な進歩と言えます。あれほどの巨大建造物が当時どのようにしてつくられたのかを知る、大きな一歩となるでしょう。ただし、謎は謎のままにしておいたほうが夢がある、という意見もあるでしょう。贅沢な悩みでもあります。

文・J PRIME編集部

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