
株式投資をしている方なら富裕層が投資することで有名なヘッジファンドという言葉は頻繁に耳にするのではないでしょうか。
しかし、実際には一般投資家に馴染みがあるのは言葉だけで、その実態はあまり知られていません。
そこで今回はヘッジファンドの仕組みや特徴について紐解いていきます。
ヘッジファンドの仕組みや特徴とは?投資信託やETFとの違いから解説
まずはヘッジファンドの基本的な仕組みや特徴について、投資信託との違いから解説します。
絶対収益型のハイリスク・ハイリターンを目指す投資ファンド
ヘッジファンドが投資信託やETFなどと大きくことなるのが、絶対収益型であるという点です。
絶対収益型とはマーケットが上昇基調にあるときはもちろんのこと、下落基調にあってもリターンの最大化を目指すというポリシーの基に運用されるタイプということになります。
つまり、相場環境がどんな状態にあっても目標とする絶対リターンの確保を常に目指してファンド運用されているのがヘッジファンドです。
その一方で投資信託やETFであれば、ファンドのパフォーマンスを測る際にS&P500株価指数や日経平均などのベンチマークが常に意識されます。
パッシブファンドであればベンチマークに対するトラッキングエラーが少ないかが重要であり、ゼロに近いほど優秀なファンドということになります。
また、アクティブファンドならそのようなベンチマークを上回るリターンを目指すことになり、少なくとも3%以上のプラスにならないと手数料の面から旨みの少ないファンドと判断されかねません。
ヘッジファンドは相場環境に関わらず目標となる絶対的リターンを得るために高いレバレッジを効かせながら投機性や投資効率が高いハイリスク・ハイリターンとなる運用スタイルが取られています。
現物の株や債券はもちろんのこと、空売り、先物やオプションといった金融派生商品を積極的に駆使して運用されています。
ヘッジファンドのこのような運用スタイルからおのずと現物株や債券などの伝統的な金融商品への投資とはリターン相関度が低いという特徴があります。
そのためヘッジファンドをリスク分散のための代替投資(オルタナティブ投資)となる運用先として個人富裕層だけでなく、年金基金やハーバードなどの著名な大学法人といった機関投資家からも積極的に資金が投じられています。
私募ファンドであること
ヘッジファンドも投資信託やETFと同様に複数の投資家からの資金を集めて運用されています。
しかし、決定的に異なる点として挙げられるのが、ヘッジファンドが私募ファンドであるということです。
公募ファンドの投資信託やETFの場合、証券会社やネット証券会社を通じて多くの投資家からの資金を募り運用されています。
運用先の金融当局の登録を経た運用会社により、当局の規制の下で予め設定されたファンドの運用ポリシーに従って運用され、基本的に運用ポリシーに反する運用はできません。
また、ファンドのパフォーマンスについては常に情報開示が求められ、透明性が重視されています。
しかし、私募ファンドであるヘッジファンドの場合、全く運用状況が異なってきます。
ファンドの出資者は投資経験が豊富にある大口の適格投資家に限定され、一般的には50人未満となっています。
大口投資家対象の商品で出資者も少ないことからファンドの一口当たりの最低投資額は億単位ということも珍しくありません。
ヘッジファンドの多くは、規制の緩いケイマンやバミューダ諸島などのいわゆるオフショア金融センター内で登録されたファンド運用会社が多いため、日本国内で販売されている投資信託やETFと違って投機性の高い空売りやデリバティブを駆使した自由な運用スタイルを取っています。
また、出資者が大口の適格投資家に限定されていることからポートフォリオの内容やパフォーマンスに関する情報開示もオープンではありません。
そのため実際にどのような運用状況にあるのかが見えにくいというものもあります。
当然のことながら日本の金融庁登録となっておらず、また日本国内の証券会社やネット証券などからは直接購入できません。
ヘッジファンドはヘッジファンドと同様のスキームで組成された日本の投資信託を除いて、後述するようにプライベートバンクの投資一任勘定によるか、あるいは海外のオフショア生保会社などのラップ口座などを通じて購入することになります。
成功報酬型の手数料体系
投資信託やETFの場合、ノーロードなどを除いて購入手数料がかかり、それ以外に預入期間中は信託報酬が発生します。
ただし、どちらも手数料競争などで手数料は著しく下がってきており、ETFの場合は経費率が0.5%に満たないものが数多く販売されています。
一方でヘッジファンドの場合、同じように購入手数料は発生しますが、最も大きな違いは成功報酬型の手数料体系が取られていることです。
成功報酬型とはファンドマネージャーの裁量によって生み出された「資産運用益」から手数料が徴収される手数料体系のことです。
尚、一部の投資信託でも成功報酬型の手数料体系となっているものもありますが、ほとんどその数は限定されています。
成功報酬型の手数料体系においては、まさにファンド運用に成功すればするほど運用益もファンドが受け取る手数料も上がっていくという仕組みになっています。
実際の手数料率はファンドによって異なるものの、20%から30%というものも珍しくありません。
ただし、成功報酬を算出する際には公平性の観点から「ハイウォーター・マーク」という基準が用いられています。
これは年初の基準価格を純粋に上回るパフォーマンスが生じた時のみ成功報酬が発生するという考え方です。
例えば、年初に100万円の基準価格が途中で80万円に下がり、それがまた100万円に戻っても成功報酬は発生しないことになります。
商品選別にはヘッジファンドごとに異なる戦略の理解が重要!
ヘッジファンドといっても実に様々な戦略やスキームがありますので、実際に商品を選ぶ際には個々のファンドごとに異なる戦略の特徴についてよく理解しておく必要があります。
というのも戦略によって想定されるリターンやリスクも大きく異なってくるからです。
ヘッジファンドで用いられる代表的な戦略をご紹介していきましょう。
株式ロング・ショート
株式ロング・ショートでは、まず市場で過小評価されてまだ上昇が期待できる割安銘柄株を見つけてロングし、それと同時に市場で過大評価されている割高な銘柄株をショート(空売り)します。
つまり、同じタイミングで株式のロングとショートのポジションを取ることからこの戦略名が付けられています。
ポジションを取ったロングとショートは割安とされた銘柄の価格が上がったところで利益確定の売りを入れ、反対に割高な銘柄が下がったところで買い戻します。
通常の株式投資信託がロングのみの取引となるところ、売りも買いも両方で仕掛けることで積極的に利益を狙いにいく戦略となります。
株式ロング・ショート戦略はヘッジファンドの代表的な手法の一つですが、規制緩和によって投資信託でも同じ手法を取る商品も登場するようになっています。
グローバル・マクロ(Global Macro)
グローバル・マクロはマクロ経済的な視点から世界の国や地域別の政治的・経済的なトレンドや将来の見通しを分析した上で、自ら立てたシナリオや見通しに合致する株式、債券、金利、通貨、先物、コモディティなど様々な投資対象のロングやショートポジションを持つ戦略です。
グローバル・マクロは一切のヘッジ(Hedge)をおこなわず、ヘッジファンドで取られる全ての戦略の中でファンドマネージャーの裁量が最も大きいと言われています。
そのため、ボラティリティが最も大きいヘッジファンドとなっています。
グローバル・マクロの投資手法を取るファンドはグローバル・マクロ・ファンドと呼ばれ、グローバル・マクロ・ファンドの資産規模は一つの国の金融経済や為替システムに影響を与えるほどの大きさを誇ります。
中でもジョージ・ソロスがジム・ロジャースとともに1973年に設立したクオンタム・ファンドなどが有名です。
ジョージ・ソロスのクオンタム・ファンドは1992年9月にイギリスに「ポンド危機」を起こすほどでした。
クオンタム・ファンドはこの時約100億ドルもの英国ポンドを売り浴びせ、10億〜20億ドルもの巨額な利益を出しています。
イギリスはこのポンド危機後、最終的にはERM(欧州為替相場メカニズム)からの離脱を余儀なくされました。
レラティブ・バリュー(Relative Value Funds)
レラティブ・バリューは割安な資産に対するロングポジションと割高と考えられる資産に対するショートポジションを同時に仕掛けます。
その際に一時的に発生する価格の歪みが生じた後で、その価格が元の状態に戻る際に生まれる利益を取る戦略となります。
この戦略で代表的なのが、「債券アービトラージ」や「金利アービトラージ」になります。
イベント・ドリブン
イベント・ドリブンは企業が合併や買収、再生、リストラといった企業そのものに大きな影響を与える特定の重要な事象(イベント)を投資機会として捉えて運用する戦略になります。企業買収を例に挙げると、買収時の株価が買収される側の企業の本来的な価値や相場から考えて割高であるとマーケットが考えたとします。
この場合、買収する側の企業は割高でその企業を買収したことから株価は下落すると考え、下落する可能性があります。
このようなイベントを投資チャンスとしてその企業を空売りし、後で買い戻すことでリターンを得ようというのがこの戦略の特徴になります。
マネージド・フューチャーズ(CTA)
マネージド・フューチャーズは商品先物、通貨先物、株価指数先物など様々な流動性の高い先物商品に分散投資する運用手法となります。
CTAとはコモディティ・トレーディング・アドバイザー(Commodity Trading Advisor)の頭文字から来ており商品投資顧問業者を意味していますが、実際にはヘッジファンドなどの運用者が指しています。
金融工学や統計学に基づいてAI(人工知能)による相場のトレンド分析を通じたプログラム売買が主流となっています。
上げ相場でも下げ相場でも発生するトレンドをコンピュータプログラムで自動解析し、トレンドフォロー型の運用スタイルが取られています。
特にアメリカでは株式ロング・ショート戦略とともにメジャーな投資手法として知られています。
その他の戦略
その他にも複数の投資戦略をリスク分散のために組み合わせて運用する「マルチ・ストラテジー」や経営困難に陥った企業の債券を購入し、その後にその企業の信用力回復時の債券価格上昇によるリターン確保を狙う「破綻債券(Distressed Debt)」といった戦略もあります。
ヘッジファンドに投資するには?
ヘッジファンドを購入する場合、大きく分けて以下の3つの方法が考えられます。
ヘッジファンドと同様のスキームで組成された日本の投資信託を購入する方法
厳密な意味でのヘッジファンドとは異なりますが、今回ご紹介したヘッジファンドの運用手法と同じような方法で運用されている日本国内の運用機関により組成された国内投資信託を購入する方法がまず挙げられます。
日本の金融庁の登録要件を満たしていないヘッジファンドはそのまま日本国内での販売ができません。
従って、日本国内での購入に限定するのであれば、同じようなスキームの国内投資信託か、メジャーなヘッジファンドと同じようなパフォーマンスを生み出すように組成されたミラーファンドを購入することになります。
プライベートバンクの投資一任勘定を介して購入する方法
日本国内で営業している富裕層向けの外資系プライベートバンクで投資一任勘定による購入という方法もあります。
日本国内ではUBSウェルスマネジメントやクレディスイス証券などが代表的なプライベートバンクです。
ただし、これらのプライベートバンクでアカウントを開設するには億単位の流動資産があることが必須となります。
海外のオフショア生保会社のラップ口座経由で購入する方法
香港やシンガポールなどに多いIFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)と呼ばれる海外のオフショア生保会社の代理店経由でラップ口座を開設し、そのアカウント上でヘッジファンドを購入する方法も可能です。
ただし、海外のIFAは必要な金融庁からの投資助言・代理業の登録を受けていないため、日本では営業していません。
従ってこのようなIFAの事務所を直接訪問する必要があります。
その際、日本人のIFAがいる事務所でないと英語による意思疎通が求められることになる点には注意が必要です。
オフショア生保会社の代理店経由でヘッジファンドを購入するメリットは数千万円~数億円ともいわれるヘッジファンドの最低投資額を数百万円レベルに下げ、少額投資を可能にする点にあります。
反対にデメリットはラップ口座とIFAを介する分だけ様々な手数料が発生し、投資コストを大きく押し上げてしまう点が挙げられます。
まとめ
ヘッジファンドは長年富裕層を中心に支持されてきた経緯があることから何となく敷居が高いイメージを持たれています。
しかし、特に株式投資が上手くいき余剰資金があるような場合、自分の資産をリスク分散させるツールの一つともなりうる商品です。
実際にヘッジファンドに投資する投資家の多くはそのような考えに基づいて運用しているとされています。
今回ご紹介した内容をきっかけにヘッジファンドにも注目してみてはいかがでしょうか。
文・The Motley Fool Japan編集部/The Motley Fool Japan
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