
フランスが導入したデジタル課税に対して、アメリカが報復関税をかけると発表。
米中貿易摩擦だけでなく、アメリカとフランスの対立が表面化しつつあります。
しかし、その問題となるデジタル課税についての議論はあまりされていません。
今回はフランスで導入されたデジタル課税の与える影響について解説します。
デジタル課税とは
デジタル課税とは、IT企業を対象にした税金です。
現在、世界でも最大規模のIT企業へと成長したGoogleやApple、フェイスブック、Amazonは頭文字を取ってGAFAと呼ばれていますが、これらの企業が最大26兆円の課税逃れがあると指摘されました。
これを受けて、各国は曖昧だったIT企業の売上に対して税金を掛ける、デジタル課税の導入について議論されるようになりました。
どうして納税逃れが起きてしまったのか
どうしてIT企業を対象としたデジタル課税が検討されているかというと、IT企業の課税が現在の法律だと規定されにくいのです。
Amazonの租税回避方法
多くの日本人が利用しているAmazonですが、Amazonの本拠地はアメリカ合衆国にあります。
日本での運営はAmazon.co.jpという日本法人が行っていますが、商品の売り主は日本法人ではなく、アメリカ合衆国にあるAmazonの本拠地になります。
Amazon.co.jpは千葉県などに巨大な配送センターを持ち、そこから商品を配送しています。
しかし、外国企業が日本で行う事業の税金を徴収するには、外国企業が日本に倉庫以外の恒久的施設(支店など)を所有しているのが条件です。
つまり、法律上はAmazonの支店は日本にない事になり、これが大きな問題点となります。
現在の法律だと国内に支店がなければ、日本はAmazonに対して法人税を請求できません。
日本に倉庫があり、日本のお店や個人が売買に参加しているのに、法人税は全てアメリカ合衆国に入ります。
2009年、東京国税局はAmazon.co.jpを調査した結果、配送センターが倉庫以上の業務をしていると認定し、恒久的施設であるとみなして追加課税を掛けようとしました。
しかし、日米間の相互協議の結果、日本側の主張は認められず追加課税は僅かしか支払われていません。
Amazonは同様のビジネスモデルを日本以外にもドイツやフランスでも行っており、大きな問題となっています。
Googleの租税回避方法
Googleもアメリカ合衆国に本社はありますが、巧みな方法を使って税金を納めずにいます。
まず、アイルランドに2つの法人(A社・B社)を作ると、アメリカ以外の外国市場で活用できるグーグルのライセンス(IP)を譲渡します。
この際、IPを譲渡したA社とは、IPを活用した利益はA社が可能な限り多く持つように契約を結びます。
B社はA社の支店ですが、IPを利用したコンテンツの売買を実質的に担当します。
コンテンツを販売して多額の収益を得ますが、IPの使用料金として大部分が消えます。
損益通算を行うため、アイルランドに入る法人税は微々たるもので、B社が獲得した収益の大部分がA社に流れるのです。
今回は簡略して解説しましたが、Googleは租税回避のために更に別の国に法人を作り、そこを経由してお金を流れる様にして、更に税金を支払わないビジネスモデルを作り上げました。
複数の国の有利な課税条約を巧みに使っているのです。
このようにIT企業は自分に有利な条約を利用した「条約漁り」を繰り返し、本来なら外国で得た収益をその国に納めることなく、貯めこんでいるのです。
デジタル課税に対する世界各国の反応
デジタル課税に関して世界各国の反応は2つに分かれています。
複数の国家が賛成を表明し、アメリカが猛反対をしているのです。
デジタル課税に賛成な国
デジタル課税に積極的なのはイギリスとフランスです。
イギリスはEU離脱の対策費を獲得したいという本心もあり、2018年の時点でデジタル課税の導入を検討。
2020年4月から導入できるように法整備を進めてきました。
フランスも2019年3月にデジタル課税の法案を発表、7月に法案が可決されました。
EUではデジタル課税に関する議論が重ねられてきましたが、結論は出ず、先進国が競うようにデジタル課税の導入を発表しています。
先進国以外だとチェコが2019年11月にデジタル課税の法案が可決。
他にもスペインやイスラエル、インドなどが独自のデジタル課税の導入を検討しています。
デジタル課税に反対な国
デジタル課税を猛烈に反対しているのは、アメリカ合衆国です。
なぜなら、イギリスやフランス、チェコなどが独自に設立したデジタル課税の対象になっているのはアメリカの企業が中心となっています。
フランスの場合、デジタル売上高が30億円以上の企業を対象に3%の課税となっており、対象となっているのはアメリカを中心とした約30社。
総額600億円の税収が見込まれています。
この決定を不服としたアメリカは、自国のIT企業を不当に標的していると反論。
報復措置としてフランスからの輸入品に対して、約2600億円の関税をかけると発表しました。
不当な関税の裏には、このまま各国でデジタル課税が本格化することを懸念して、牽制の意味が込められています。
アメリカ以外の反対している国はアイスランドやスウェーデン、デンマーク、フィンランドの4カ国が反対しています。
これらの国は、法人税率が低いのを利点として他国の企業を誘致していたため、各国でデジタル課税が導入されると誘致するメリットが消えてしまうため反対の立場を取っています。
日本の場合
日本はデジタル課税の導入について前向きに検討していますが、フランスやイギリスのように単独で法案を可決する動きはありません。
2019年10月に開かれたG20 財務省・中央銀行総裁会議で、経済協力開発機構がまとめたデジタル課税に関する新ルールが検討されました。
売上高に対して営業利益の割合が一定以上の企業を対象に10%の課税というシンプルな内容に従うと思われていますが、これに日本企業から困惑の声が上がっています。
というのも、このシンプルな法案だと、対象が一般消費者以外の専門分野も含まれてしまいます。
医療関係者向けに医療機器を売っているメーカーにも課税があるのか、そもそもGAFAのような大企業を対象とした課税では無いのか、といった不満の声もあります。
デジタル課税が導入された場合の影響
仮に、現在議論されている経済協力開発機構が提案したデジタル課税が各国で導入された場合、影響は深刻な物となります。
利益率の高い企業が軒並み課税対象となり、GAFAの株価が減少。
日本だと利益率の高い製薬会社がデジタル課税の対象となるかもしれません。
また、各国にある販売子会社への課税が強化されれば、日本の主要企業にも影響を与えます。
このまま、画一的なデジタル課税が導入されるのは非常に危険と言えます。
まとめ
以上が、フランスが導入を決めたデジタル課税の与える影響の解説です。
本来、デジタル課税は租税回避を積極的に行っているIT企業への対策として導入が検討されていました。
しかし、各国の足並みを揃えるために提案されたデジタル課税は、IT企業という分野だけでなく、世界各国に子会社・販売会社を持つ企業を対象とした課税法案となりかねません。
もし、このまま画一的なデジタル課税が成立すれば、アメリカのみならず、世界中の企業の業績が悪化する可能性もあります。
文・The Motley Fool Japan編集部/The Motley Fool Japan
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